「#Popularity」は大衆性へのアンチテーゼ。無敵のシンガーCikahが語る哲学と軌跡

唯一無二のハスキーボイスと、切れ味抜群のフレーズが中毒的な魅力を持つシンガー、Cikah。初のアルバムとなる最新作「#Popularity」をリリースした彼女に、これまでの足取りから哲学、伝えたいことをたっぷりお聞きした。

力強い歌詞とは裏腹に、親しみやすくハッピーなオーラに溢れている彼女。楽曲の強さはどこから来ているのか、繰り返し発している「戦え!」のメッセージは何が原動力なのか。多彩で多面的な彼女のアーティスト性を、このインタビューからお伝えしたい。

 

『#Popularity』のリリースおめでとうございます。
60MAGに出ていただくのは初めてなので、まずはこれまでの足取りからお聞かせください。ご出身は秋田県とのことですが、音楽との出会いはいつ頃ですか?

もともと家族が音楽好きで、特にお父さんは家の中でもよく踊っていました(笑)。初めて歌手になりたいと思ったのは3歳の時。お姉ちゃんのピアノレッスンについていって、私も歌を見てもらうようになったときです。

東京に比べると、秋田はエンターテイメントとの距離が遠いんです。あんまりライブが開かれるわけでもなくて。だから、振り返ってみるとあの頃の私が音楽の情報を得るのは家族と行くTSUTAYAがメインでした!


そこで小学生の時に出会ったのが「アース・ウィンド・アンド・ファイアー」のベストアルバム。ファンタジーという曲がとにかく衝撃的で、稲妻に打たれたような衝撃が走りました。

それまでAメロ、Bメロ、サビ、Cメロ、みたいな構成のJ-POPばっかり聴いてたので、初めて聴いたときにこんな構成の音楽があるんだ!と驚いたんです。これはレンタルじゃなくて買ったほうがいいと思って、初めて買ったCDになりました。

あとは、本当に恥ずかしいんですけれどw-inds.に入るのが夢だったんです。

男性3人組のボーカルダンスグループの!

そうですそうです。ボーカルの慶太さんってデビュー当時3オクターブくらい出て、憧れていました。その影響でダンスも始めて、ヒップホップやR&Bの楽曲にも親しむようになりましたね。でもバスケも小中高と10年ぐらい本気で打ち込んでいたので、結構遅い時間まで忙しかったです。

幼い頃から音楽に親しまれていたんですね。そのあとは大阪芸術大学に進学されていますよね。

 

作曲とかのコードの理論とか、そういうのがわかった方が楽しく曲を作れるんじゃないか、と親がアドバイスしてくれたんです。感覚で作り続けていくと、ある時挫折したりとか、作れないってなる時期が来るかもしれないけど、理論や知識があれば大丈夫だろうと。

勉強の面では、学んでみるとこれまでの答え合わせみたいに「こういうコードだから感動するんだ」とか分かって楽しかったです。

でも、今振り返ると、大学時代に作っていた曲って死ぬほど暗いんです。本当に暗くて、基本的に生きることと死ぬことしか歌ってなくて。今聞くと、本当にびっくりするくらい180度違う芸風なんです。

生きることと死ぬこと!今の曲調とも、明るいCikahさんご本人とも全然イメージ違いますね。

本当に今だから笑えるけど、すっごい漠然とした「わー死にてえ」みたいな気持ちがめちゃくちゃ強い時期で。本当にめっちゃ泣きながら1日10時間とか曲作ってましたね。

そのあとは大学を出て上京したんですけれど、当時付き合っていたパートナーのお父さんが突然事故で亡くなってしまったんです。すごく可愛がってもらっていたので喪失感とかもすごくて。でも、曲を書くうちに受け入れることができて、結果的に暗黒期からも抜け出すことができたんですよね。

そのときから自分のためじゃなく、聞いている人のために歌おうって気持ちになれたんです。私の中では革命でした。

ちなみに、ターニングポイントになった曲はなんでしたか?

「GO TO JIGOKU」です。活動名を今の「Cikah」に変えたのもその頃ですね。

 

ニューヨークでツアーをした時に、いい意味でみんな自分のことにだけ向き合っているなというのを感じたんです。日本にいると性別だったり性の指向だったり、あとファッションとか体型とか、とにかく人が人のことをめちゃくちゃ指摘したり気にしたるするじゃないですか。そういうの見ていると、「他人の人生を生きてるな」って思ってしまう部分があります。

人が人をジャッジしたりすることとか、それによって誰かが傷つくとか、マジでいらん!って思ってます。海外にいるときはその感覚が肯定されたように感じて、当時悩んでいたことが全部リセットされたんです。

そういうことを全部昇華させられたのが「GO TO JIGOKU」ですね。

インターネット上のアンチや誹謗中傷をテーマに書かれた曲ですよね。

そうですそうです!初めてインターネット上で根拠のない誹謗中傷を受けた時、やっぱりこういう理不尽とは戦わないといけない、と思ったんです。

 

私、音楽の根源が怒りのパワーなんですよ。怒りが最強に音楽になるんです。だからそういう時は曲も10分でできちゃう。怒りのパワーって本当に生命力が強いです。

逆にいうと、この先いくら嫌なこととか、バッドなことがあっても大丈夫だってちょっと思えるようになりました。

『しゃかい(裏)』もとっても印象的な曲ですよね。「一人の女も愛せないやつは/社会的に しね」という歌詞が強烈です。

 

 

日本の女の子がこういうテーマで歌う時、「隙を見せた私も悪かった」とか「成長させてくれてありがとう」みたいな歌詞が大体Cメロで入ってくるじゃないですか(笑)
Cikahさんの楽曲は最初から最後まで一切譲歩しないので、聞いていると「私もこのマインドでいいんだ!」って勇気をもらえますよね。

ありがとうございます!基本的に欧米マインドです(笑)。こうやって音楽を通して自分が伝えたいことが伝わっているんだと思うと嬉しいです。

私は、聞いた人が「全ての事を自由に選んでいいんだ」って思えるような楽曲を作っていきたいんです。ネガティブな気持ちとか、誰かの意見とか、そういうのに負けて欲しくない。他の人に違うって言われても、自分がそう思うならそれを選べよ!みたいなのが根底にある。だから、間違っていると思ったことに対しては、本当に戦って勝ってほしい!(笑)

 

最新曲、『#Popularity』はいかがですか?直訳すると、人気とか大衆性という意味ですよね。

今回の新作はCikahとして初めてのアルバムなのですが、会社の人と話した時に「今までのファンだけではなく、Cikahの曲をもっと多くのリスナーに届けたい」というような話をしました。どうすればもっと広げることができるだろう?(=大衆の人々に伝わるだろう?)と考えてできたのが、この曲です。

 

 

どちらかというと、完全に大衆性へのアンチテーゼになっている歌詞ですよね。

そうなんです!デモを受け取った会社の担当者も爆笑していました。

自分の中では、歌詞の前半部分のところが本当にすべてだなって思っていて。「だれもが そうだれかの足りないを指摘している」「一体だれを生きている 主役はどっちだ」って。

たとえばネットを開くと、「誰々劣化した」とか、「めっちゃ太っててワロ」みたいなこととか書いてあるじゃないですか。そういうの見ると、まずお前は自分と向き合えよ、ってめっちゃ思うんです。主役は自分だっていうのを意識していてほしいなって思います。

曲の最後に飛行機のアナウンスが入りますよね?あれはどんな意味を込めたんでしょうか。

あれはDeparture、旅立つ時のアナウンスです。『♯Popularity』の楽曲自体、色んな不満がある状態の曲なんですけれど、そこからいち早く飛び立てっていう気持ちを込めています。実はあのアナウンスも自分で喋ってるんですよ。

 

今回のアルバムを通してどんな工夫をされましたか?

曲順はすごくこだわりました。一番最初は一番自分の主張が濃くて、伝えたいことが詰まった『#Popularity』。私はこうですっていうスタンスを出しました。それから『GO TO JIGOKU』『しゃかい(裏)』みたいな強い曲が前半に続きます。前半がめちゃくちゃ強いんです。

だんだん最後の『どうして』にいくにつれて、”大衆”に馴染んでいくように多くの人が受け取ってくれる言葉をイメージして曲順を組みました。

確かに曲調もだんだん柔らかい感じに変化していますよね。今回は新しくsooogood!さんとの共作もありましたがいかがでしたか?

『sweet lime』という曲でご一緒させてもらいました!アルバムの中でも結構、異色なサウンドに仕上がったと思います。

普段私はボーカルのディレクションを自分でするんですけど、今回はsooogood!さんから「寝起きパジャマで喋ってるみたいな感じで歌ってほしい」といわれて。口腔内の響きを無くすために、あえて飴を舐めながらレコーディングしたんです(笑)。本当に新鮮でした!

制限がある状態があまり好きじゃないのでこれまでは自分で曲を作ってきましたが、こうやって新しいCikahを見せられるのもやっと楽しめるようになってきました。これからもたくさんトライしていきたいですね!

 

最後に、今回のアルバム全体に込めた願いや想いをお聞かせください。

私がいつも「戦え!」っていうメッセージを伝え続けているのは、裏を返すと自分のことをないがしろにして欲しくないからなんです。「自分が今我慢したらここは丸く収まるな」っていう場面ももちろんあるけれど、意志を持って戦ってほしいなと思っています。

自分の気持ちを大事にするっていうのは、自分を愛してくれる人たちの気持ちも大事にすることなんです。私はそれこそ10代から20代前半でよく自分を攻撃してしまっていたのですが、それって自分のことを大事にしてくれている人たちの気持ちを全然考えてないなって気がついたんです。

大衆性を大事にするのもいいけれど、もっとみんな自分の好きを信じてほしい。心から伝えていきたいです!

 

Photographer:Maruyama Momoko
Interview&Text:Tajima Ryoko

【Cikah】

秋田県出身R&Bシンガーソングライター。
誹謗中傷をテーマとした改名後初の配信シングル「GO TO JIGOKU」では、芸人、インフルエンサー、ダンサーなど多くの表現者からの共感を集め、続く第二弾シングル「DROWN」ではiTunes R&B/ソウルチャートで2位を獲得。
第三弾シングル「AM」では台湾最大のストリーミングサービス「MyMusic」にてトップバナーを飾り、2021年8月にリリースしたEPでも各種プレイリストでピックアップ、地上波番組でオンエアされるなど2022年期待のアーティストとして国内外から大きな反響を呼んでいる。

・Twitter

・最新MV「Melt Nite」

2022.03.23 Release Cikah 1stAL 『#Popularity
DL&Streaming
→https://ssm.lnk.to/Popularity_AL

PECF-3266
¥3,300 (tax in)

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2.GO TO JIGOKU
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