海外セレブや著名人の多くが実践しており、日本でも近年広く知られる様になった「ヴィーガン」という言葉。アメリカやヨーロッパでは特に認知度が高く、年々その人口も増えている。
ファッションデザイナーもその例外ではなく、菜食主義やヴィーガンを公表しているデザイナーも少なくない。有名デザイナーが菜食主義を選択する理由とは?また、デザイナーの菜食主義は自身のファッションブランドにどのような影響をもたらすのだろうか?
ステラ・マッカートニー
厳格な菜食主義者・エコロジストとして知られる、イギリス出身のファッションデザイナー ステラ・マッカートニー。
両親のポール・マッカートニー&リンダ・マッカートニーともに厳格な菜食主義者で、ステラが菜食主義者になるのは自然の流れであったと言える。
自身の名を冠して設立したブランド「Stella McCartney(ステラマッカートニー)」でも、レザーやファー、スキン、羽毛は一切使用していない。
今でこそ有名なハイブランドもエコファーやフェイクレザーを取り扱っているが、「ステラマッカートニー」が設立した2001年当時、レザーやファーを使用しないラグジュアリーブランドの構築は不可能だと考えられていた。
熱心な動物愛護活動家としても知られるステラだが、彼女が頑なにファーやレザーを使用しないのは、単なる動物愛護の観点にとどまらない。
ステラはレザー製品を作る際の牛への残虐な行為(麻酔なしでしっぽや角を切り落とす、生きたまま吊るして皮をはぐ)、レザー加工工場の周囲への環境汚染、レザー製品そのものに使われる腐敗を防ぐための有害な化学物質などの問題を指摘している。
「ステラマッカートニー」が提案するベジタリアン素材

ステラはファーやレザーをブランドの選択肢から外すのではなく、ベジタリアン素材を用いた“代替品”を打ち出した。
アクリルやポリエステル、ウール、またはモヘアのいずれかを使ったファーフリーファーや、再生ポリエステルを使ったベジタリアンレザー、ナイロンやポリエステルに至っても再生のものを使用している。
環境への配慮とデザイン性の高さを見事に両立した「ステラマッカートニー」のアイテムは、多くのセレブや著名人も支持。世界中の多くの人々に愛されている。
トム・フォード
幼少期から菜食主義の家庭で育ったステラに反して、大人になってからヴィーガンへと転身したのがブランド「トム・フォード」を率いるアメリカ出身のデザイナー、トム・フォードだ。
トムは昨年、肉・卵・乳製品は摂らず、あまり加工されていない植物性の食事を中心とする“プラントベースダイエット”を開始した事をきっかけにヴィーガンへと転身。また“プラントベースダイエット”をはじめた理由としては、食肉がどのように作られるのかを見て、健康上の理由から「これ以上肉を食べたくない」と思ったという。
ヴィーガンに転身し、自身のブランドで動物の皮を使用する事を疑問に思うようになったトムは、今後食用にされた動物の副産物としてのレザーだけを使うとロサンゼルス・タイムズ紙に発表した。牛や羊など、食用にされた動物の皮のみを使用し、ミンクやキツネといったレザーを作る目的で使用された動物は使用しないという。
また、リアルファーを使う事に対しても同様に疑問を持っているトムだが、ステラ・マッカートニーの見解とは少し異なる。

リアルファーの問題について、トムは「胸が引き裂かれる思い」だと語る。
フェイクファーは使い捨てだと考えているトムは、フェイクファーの原料として使われる石油が環境に有害である事を懸念する。一方のリアルファーは、きちんと手入れをすれば30年は着られるという。親から子供の世代に引き継いで、最終的に枕にする事も可能だ。
「そうすると、なめし皮の制作過程も環境に有害だという話になるかもしれないけど」とトムは語る。
結局、どれが正しい答えかはわからないとするトムだが、今シーズン彼が手掛けたフェイクファーは「フェイクに見えない」と言われるほど非常に評価が高かったのは確かだ。
ヴィヴィアン・ウエストウッド
パンクファッションの立役者であり女王であるヴィヴィアン・ウエストウッドが菜食主義だというのは少し意外だろうか?
ヴィヴィアンは熱心な環境保護活動家としても知られている。シェールガス採掘への抗議活動として、イギリス・キャメロン首相宅に押しかけ話題になった事も。
そんなヴィヴィアンは、「水資源を枯渇させる」として食肉の取引を反対、菜食主義を貫いている。彼女は、1ポンドの肉を生産するためには、16ポンドの穀物とそれに伴うすべての水と土地が必要であると説明する。
ヴィヴィアンがシャワーを浴びるのは週に一度(!)だが、菜食主義の彼女は、罪の意識を感じずにシャワーを浴びる事ができるという。
洋服はたくさん買わないで
デザイナーであれば、自らのブランドの服をたくさん買ってほしいと願うのは当然だろう。
しかし、環境を大切にするヴィヴィアンは「慎重に選んで、たくさんは買わず、半年に1度しか新しい洋服を買うべきではない」と言う。
トレンドを追いかけ、次々に洋服を消費するのは環境にとってよくないと彼女は主張する。
また、前述のステラ・マッカートニーについて、「もっと一緒に、積極的に環境保護のキャンペーンを行っていきたい」とも述べている。
何を食べるかは個人の自由であって、思想も十人十色だ。
食べるものも着るものも自由に選択できる時代だからこそ、いつもの自分の“常識”から一歩踏み込んで考えてみるのもいいかもしれない。
菜食主義のデザイナー達の言葉は、どのように届いただろうか。