世界中の有名人やアーティストらが着用し、渋谷は円山町にも店舗を持つパリ発ストリートブランドPigalle。特別な専門教育を受けていないのにも関わらず若くして成功に至ったデザイナーのキャリア形成や経緯とは。

デザイナーStéphane Ashpoolの生い立ち

Stéphan Ashpool

Pigalleデザイナー兼設立者、ステファンは、パリのピガールで生まれ育った。ピガールは、パリ北部、モンマルトルのふもとに位置する。アダルトグッズ店やストリップ場などが立ち並び、夜にはギラついた照明と酔っぱらいがうごめく少しいかがわしいエリアである。

アーティスト一家の中で育ち、20歳頃からアーティスティックな人々が集まるクラブに繰り出していく。ダンサーであった母親とファッションショーのプロダクション会社を起業し、Rick OwensやGareth Pugh、Christian Diorなどとコラボレーションを重ね、2008年、26歳の若さで、生まれ育った街ピガールの中心部にメンズ向けの自分の店をオープンさせた。Rick Owens やGareth Pughなどの尖ったデザインの服のセレクトをしながら、自分のブランド”Pigalle”のデザインも始めるのであった。

国が主催するファッションアワードでの優勝

L’ANDAM Fashion Award 2015

2015年、32歳となった彼に転機が訪れる。

フランス国が主催するL’ANDAM(アートやファッションにおける発展支援団体)の大会で見事グランプリを受賞したのである。

イヴサンローラン財団やシャネル, LVMHグループなど蒼々たる顔ぶれが協賛し、ファッション界の大御所が審査員に名をつらね、若手デザイナーが熾烈な戦いを繰り広げるというその大会のプレッシャーの中で見事優勝した彼に与えられたのは、25万ユーロ(およそ3250万円相当)の賞金と一年間のBruno Pavlovsky(シャネルファッション部門社長)によるアドヴァイスが得られる権利であった。

Pigalleが提案する、ストリートカルチャーを落とし込んだセンスの良いリアルクローズと、服のほとんどがフランス製というこだわりは、『まだファッションが人々に夢を与えていた時代』を思わせるような郷愁があった。

優勝賞金の使い道について彼は、『服を作るアトリエの制作資金に当てたい。昔、ブティックの裏でコレクションの服を縫っていた時代のメゾンのようにしていきたい』と語っている。

真のストリートカルチャーへの愛

上記のように彼には目先のお金だけではない明確な信念があり、それは時代の流れにマッチしていた。

より安価な生産を追い求めるファッション界に反するメイドイン•フランスへのこだわりや、生まれ育った地でありブランド名でもある地元ピガールをクールでファッショナブルなものとしてブランディングしていく方針は、ストリートカルチャーやヒップホップを愛する若者に受け、A$AP RockyやRihannaをはじめとする世界中の有名人の支持も合わさってじわじわとその人気と知名度を広めていった。

店のすぐそばには、彼がティーンエイジャーだった頃通い詰めたバスケットボール場がある。彼にとってバスケットは大切な趣味であり、PigalleのDNAといっても良いほど大事な要素である。

NIKEとの協賛の果てに、ついには区役所を説得し、地元のバスケットボール好きの若者のために、まるで絵画か仮想現実のようなバスケットボール場を建設してしまう。

https://www.instagram.com/p/BVxvEpjBZi6/

全てのバスケットボールプレイヤーに解放され、防音や安全性も考慮された、正真正銘『夢のバスケットボール場』である。

建設のみならず、地元のキッズたちにバスケットボールを教えたり、そのバスケットチームとフィリピンに文化交流をしに行った様子をドキュメンタリーショートフィルムにしたりと次世代の育成に力を入れながら、NIKE LabやNBAプレイヤーとのコラボレーションで話題作りも欠かさない。

彼のストリートカルチャーへの愛とクリエイティビティは止まるところを知らない。

https://www.instagram.com/p/BjR0jK0gefr/

ただPigalleと書いてあるだけの高価なTシャツやキャップを見ても、その裏にある物語は分からない。

自分の好きなことを追求しながらも次世代を育成していく姿は、単なる流行のデザイナーを越えて尊敬と共感を生み、彼の人柄やブランドの説得力を更に高める結果となった。ビジネスに偏りすぎず、クリエイティビティだけに偏ることもない、その感度の高さとバランスの良さこそがPigalle成功の理由なのかもしれない。

今や『ピガール=悪名高い歓楽街』のイメージは消え去りつつあり、おしゃれだが気取らないブティックやカフェ、レストランが増えている。

 

見ているだけでも楽しめるPigalle×NIKEコラボレーションサイト

http://www.pigallebasketball.com/