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テクノが好きなら、友達とテクノクラブへ行く楽しみは誰でも知っている。その一方で一人でも楽しむ少数派もいる。特にベルリンのような街ではあまり珍しくない。彼らを可笑しく思う人もいるかもしれないが、ソロだからこそ味わえる特別な何かが存在するらしい。ここでは、彼らが感じる孤独の幸福の理由を探っていこう。

1. バウンサーに許可してもらいやすい

テクノの街として知られるベルリン。そしてベルリンに来たら必ず行くべき場所といえば世界的に有名なBerghain(ベルクハイン)。ということで本記事では、特にベルクハインを舞台と想定しながら話していきたい。

ベルリンのクラブでは並んで待ったからといって必ず入れるわけではない。://About BlankやGriessmuehleなど、いくつかのクラブではドアポリシーが厳しい 。そして最も入りにくいと言われているのが、最高峰クラブのベルクハインである。

日中のベルクハイン正面側 © Electronic Beats

グループで行くと入場の難易度がアップすることはよく知られている。二組に分かれて入ろうとするのも定番だ。グループの場合、誰か入りにくそうな服装でいないか気になったり、拒否されたときはお互いに原因を探してしまったり。でも1人でチャレンジすればすべては自分次第であり、不要なフラストレーションは避けられる。

この「入り難さ」もベルクハインについて最も話題になることのひとつ。Google検索で「how to get in Berghain」などと打つとすごい量の結果が得られる。黒い服がよいとか、女の子のグループはダメなどと細かな説が数多く唱えられているが、おすすめはRed Bull誌のBilly Blackの『Berghainへの入り方』という記事だ。日本語訳も存在するので、ベルクハイン行きベルリン旅行を計画中の方は一度読んでいただきたい。そこには真をつくヒントがうまくまとめられている。

バウンサー達のポリシーは歴史あるクラブの雰囲気を守るためにそれに見合う客を選ぶというものらしいが、その実際の基準は誰にも分からない。ただ、なんとなく一概に言えそうなことは、興味本位で来たようないかにも観光客らしいグループは断られやすいということ。確かにただ有名だから音楽に興味はないけど友達についてきたような人達で溢れてしまったら、館内の雰囲気はグレードダウンしてしまいそうだ。一人で来ることは、純粋にテクノが好きだからこそ来ているという証明になりやすいのかもしれない。その逆に、本当に音を聴くために来ている者の多いクラブは一人で行っても居心地が良いと言える。

2. お金を節約できる

主な出費は入場料だったはず。でも友達に付き添って一杯飲んだり、これは私が払うから後でおごってなんて言い合っているうちに、結局はすごい出費をしてしまっていることも多い。1人で行けば、自分のための必要最低限使うだけで無駄な出費は抑えられる。

3. 新しい挑戦ができる

「音楽の趣味が完全に一致する友達はいるのか?」、「こんなにも気は合うのになぜ音楽の趣味は正反対?」なんて時に感じることもある。友達みんなで出かけるときは何かしら妥協がで出てくるもの。1人で行くのなら本当に好きなものを、好きなときに、好きな格好で聴きに行ける。知り合いがいれば躊躇してしまうことだって、1人なら挑戦できてしまうのだ。

4. 居たい分だけ居られる

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テクノとは本能で感じるもの。頭でどうこうというより、踊ることで体に浸透していく。だからそれぞれ体格が違うように、盛り上がる速度や持久力、陶酔に達するタイミングも違う。徐々に盛り上がり、だが誰かと行くと、もうすぐ絶頂というときに友達にソファーで休もうと誘われてしまうこともある。自分が大好きな友達が楽しめるかどうかは重要なことなので放っておくことはできない。

1人で行けば、自分の身体が満足するまでずっと居続けることが可能である。ちなみにベルクハインのクラブナイトは土曜の24時から月曜のお昼頃まで。ノンストップで35時間近く営業するので、あなたの体力次第ではかなり長く居ることが出来る。

5. 出会うべき人に出会える

どんなに仲のよい友達とでも、たまにはポーズをとるのが健康的。新しい出会いとは心を潤す冒険のようなもの。しかし見知らぬ人と出会うのは、普段の生活では大胆すぎる行為にもなってしまうことも…。でもクラブの中だったら「タバコの巻紙持ってる?」と聞くだけでも成立してしまう。

もし踊っている最中に誰かと目が合ったら。そして彼が微笑みかけてきた。が、そのときちょうど友達が戻り彼と私の間を遮る。彼に話しかけるチャンスは去ってしまった。一人で来ていたら今頃彼との会話が弾んでいるはず、としばらく思い続けるはめに。彼と付き合えたとは限らないけれど、少なくともどんな人か知ることができたのに。なんて苦い思いも1人で行けば、しなくて済むはず。

6. ホール全体の一体感に身を任せられる

テクノのダンスは、基本的に個人主義だ。手を取り合ったり、タンゴのようにカップルで向かい合ったりする必要はない。みんな同じ方向を向き、個人個人で踊っている。それなのに、もしダンスホールで自分たった1人しかいなかったとしても、同じように喜んで踊る人はいるだろうか。おそらくいない。

ときに、「テクノ的」にすごく合いそうな人に遭遇することがある。どういうわけか踊り方が自分とそっくりな人。別に話さなくてもいいけれど、隣で踊ることが気持ちいい人。視界に入っていてくれると嬉しい人。他の状況で出会っても特に気の合わない人かもしれないけれど、ここ場所特有の引力を感じる。

社会の中の顔は忘れ、アノニマス感を味わう。元々暗いホールの中でさらにサングラスをかける人がいるのはそのためだろう。誰が誰なのかわからない感覚は増す。彼らが平日何が好きで何をしているかはどうでもいいけれど、今ここでこの時を共有している。この音を共に味わっている。そう。クラブの中での人との関わり方は外のそれとは違う。それはきっと音に包み込まれているから。音楽の力だ。そしてホール全体が一つの生き物になったような一体感が生まれる。それは本当に気持ちがよい。

でも、友達たちとの殻の中にいるとそれを感知するアンテナはどうも鈍ってしまう。自分を誰だか知っている人の隣りではアノニマス感は得られない。

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今更ながら、改めてテクノという音楽について触れ直してみたい。「テクノ」と一言でいうと意味がとても広くなってしまうが、ここまで話題にしてきたテクノは「ミニマル・テクノ」と呼ぶ方がよりしっくりくる。ミニマル・テクノとは、メロディーや目立った抑揚による表現ではなく、単調なリズムと繰り返しに焦点を置いた音楽のこと。繰り返しが続くことで思考を通さず感覚的に直接脳に達するような、結果的に人を踊らせる何かを深く刺激する音楽である。

ここで、私たちをそのような没入状態に誘う才能溢れたテクノ・ミュージシャンとして、ベルクハインの常連でもあるDJを何人か紹介したい。Sigha, Kangding Ray, Oscar Muleroなどがあげられる。

SighaやKangding Rayたちは実験的テクノの分野で卓越した存在だ。モジュラー・シンセなどを緻密に駆使したサウンドを芸術的に重ね合わせ、完美な幾何学模様のような音楽をもたらす。去年からは二人のユニットプロジェクトNeon Chambersも手掛け、そちらも目が離せない。スペインのOscar Muleroはよりダークな色合いを見せている。ベルリンの話ばかり話していると、「日本のテクノ文化は遅れているのか?」と不安になってしまう人もいるかもしれない。しかし、この2人はそれぞれの既存インタビューで、「プレイするのに日本はお気に入りの国だ」と答えている。日本のクラブは音響コンディションがとてもよいし、本当に自分たちの音楽をわかってくれるお客が聴きにきてくれると感じるらしい。

そしてSighaは今、テクノ・アーティストの中でいちばん注目しているはWata Igarashiだと言っている。

Wata Igarashiは、今日のテクノシーンではトップアーティストの1人だ。そこでWataさんにも話を伺ってみた。よろしければWataさんの一曲を聞きながら。

“ベルグハインはこれまでDJセットを3回、ライブセットを1回やりました。まず、あの大きな建物の中に入る行為自体が1つの儀式のように感じ、入り口からこんなドキドキする雰囲気のクラブはあまりないと思います。”

“(ベルクハインは)フロアの熱量とテンション、そして音圧までがハンパなく高く、圧倒的なエネルギーの元、それぞれが思うがままに踊りまくっています。服装もTシャツから、チュチュを着たひとやら(笑)、レザー系、真っ裸まで、本当に自由。全てのジェンダーが時間を忘れて遊んでいます。”

“ベルリン的なクラブっていうは無くて、どのクラブもとてもキャラが際立ってて、全然違います。そして、これはベルリンだけでなく、全世界共通することかなとも思います。東京だってクラブによって雰囲気全力違うし。東京は東京で大好きだし、ベルリンの方が質などがベターとは全く思いません。”

Wata Igarashi
DJ /ミュージシャン/サウンドプロデューサー
レーベル:Midgar, The Bunker NY, DJ Nobu’s Bitta
東京出身、在住。高校時代はマドリッドで暮らす。
Berghain, Bassiani, De School, Batofar, The Blockなどの海外の主要クラブでのパフォーマンスを経て、その評価は世界的に高まる。

次回の日本公演は、2019年1月19日東京Solfaの『Ku-Haku』イベントにて。

 

7. 自分自身を好きになれる

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最後に紹介するのはこちら。クラブに一人で行こうと思うのは、ある意味「ジョギングに行こう。走った後は気持ちがいいから」という気持ちに似ている。誰でも思いつくことではあるが、みんなが実行に移せているとは限らない。正直になってみよう。

自分のためにとっておきの時間をとること、それを試みることは自己を見つめ直すためにも人生の中でとても大切な部分である。チャレンジしてそれが自分に合わなかったとしても、少なくとも挑戦したということに誇りが持てるに違いない。

 

いかがだったでしょうか。今回テクノクラブに一度は1人で行ってみるべき理由として7つの項目をベルリン的視点で紹介した。テクノクラブに今まで行ったことがない人や、複数人でしか行ったことがない人も、少しは興味を持ってくれたはず。より音楽を楽しみに、出会いを求めに、新たな自分の発見に、貴方も1人テクノクラブデビューしてみては?