Berluti(ベルルッティ)を退任し、今年のファッションウィークでは自身のブランド初となるウィメンズメンズのショー同時開催を行ったHaider Ackermann(ハイダー・アッカーマン)

そんな彼をフランス版Numéro(ヌメロ)のジャーナリストPhilip Utz(フィリップ・ウツ)が突撃した。銘打たれたインタビューのタイトルは « HAIDER ACKERMANN, UN ESPRIT LIBRE (『ハイダー・アッカーマン、自由な精神』) »

日常のルーティーン、SNSへの思い、クリエイション、そして恋。話は特に今回のショーにかぎったものではなく、アッカーマンの個性全般に言えることだった。一人の人間としてのアッカーマンをより知る機会となるだろう。

インスタグラム、痛ましい時代

友人のようである二人のインタビューは、ウッツの「今日は正直質問内容は決めてない、君が話したいこと考えてよ。」というアミカルな言葉とアッカーマンの笑いから始まる。ウッツはインタビューを行った地域が気になったらしく、冗談まじりに近くのゲイクラブLe Mec Zone(メック・ゾーン)にインタビュー後行くのかと聞いた。

« Contrairement à ce que vous pensez, j’adore le matin, j’adore me lever très tôt…. Je lis les journaux… Mais ce que j’aime plus, c’est flâner dans les rues déserts de l’aube, profiter pleinement de ces moments délicieux, de ces instants précieux. »
「逆だよ、朝早く起きるのが好きなんだ。早く起きてシャワーを浴びて新聞を読んで。でも一番好きなのは夜明けに人のいない道をふらつくこと。そうやってデリシャスな空気に満ちた貴重な瞬間を味わうんだよ。」(Numéroより)

意外と思えば意外だが、言われてみれば多忙な彼にはのんびりする時間を捻出する時間が必要なのだろう。同時にピラティスやスポーツなどを日々欠かさないと言うので、彼は生活のリズムを正確に取る人のようだ。

ちなみにここで出たクラブメック・ゾーンはのちにまた出てくることとなる。

話題はブロガーやインスタグラムに移る。フェイスブックが設立されて14年が経つが、ほんの数年前ならこんな話は議題に上がっていなかったであろう。ファッションに限らず現代のクリエイターの中にはこういった新時代を煙たがる人も少なくないはずだ(ネットの普及、ということではなく)。

アッカーマンも例に漏れない。新しい世代のクリエイターは自分よりずっとかわいいと謙遜しつつも、インスタグラムに関しては苦言を呈した。

« C’est terriblement soûlant, surtout losque les gens prennent ça trop au sérieux. Mais ce qui est surtout consternant, c’est qu’aujourd’hui, pour être respecté, un créateur se doit avant tout d’exploser les compteurs sur Instagram. »
「(インスタグラムに)本当にうんざりしてるよ、特にみんながそれをしごく真面目に、真剣に捉えてる時はね。でもクリエイターが人からリスペクトされるために、まずインスタグラムのアカウントをオンファイアさせなきゃいけないってのが何より痛ましいよね。」(Numéroより)

インスタグラムは自己表現に使われることももちろん多い。そしてそれはビジネスさえも大きく巻き込み、今やメゾンやブランドにとって第二のショー会場のようになっている。

先に述べたようにインスタグラムのような媒体を煙たがっているクリエイターは何人もいるはずなのに、それが必需品となってしまっているのはカルチャー発信のファッションが主流になり、消費者が勘違いしてしまったことの影響が強いだろうと思う。

素材、縫製、カッティング、そういったものが主役に舞い戻る日は近いと思うが、少なくとも今は転売を始め「安いものが高くなる」時代。もはや背景にあるカルチャーさえ脳裏によぎらせることなく、流行の二文字に何十万も出せてしまう時代である。

稀代のデザイナーが時代を嘆かわしく思うのも無理はない。

愛の国フランスで語る甘いインスピレーション

彼のインスピレーションは二つある。音楽と愛だ。

例えば今回のコレクションはカナダの音楽家Leonard Cohen(レナード・コーエン)のI’m Your Manがぴったりだったとアッカーマンは語る。

なぜなら会場にはそのメッセージを届けたい相手がいたから。ウッツにそれは誰かと聞かれた彼は、昨日メック・ゾーンで会った男だよと冗談を言った。

デビュー当時からずっと願っていたというウィメンズメンズ合同コレクション。予算を削る目的は毛頭なかったという。ではなぜなのか。アッカーマンの回答によれば、今回のショーはまるで愛に満ち溢れていた。

« J’aime beaucoup cet échange, ce moment de partage entre l’homme et la femme. Ils vivent une histoire d’amour,… A mes yeux, le costume d’homme sert à exacerber la féminité des femmes. »
「男性と女性がミックスしたあの瞬間が大好きだったよ。彼らは愛の物語に生きているんだ。男性のコスチュームは女性の女性らしさをより駆り立てるって僕は思うな。」(Numéroより)

そこからウッツが「君が同じ男といるところを見たことがないのに、常に誰かといる」と言ったところから、アッカーマン本人の恋の話に盛り上がる。

« Je prends vie lorque je suis amoureux. Pour moi, c’est le moment où tout fait sens. J’ai peur de me perdre dans la solitude. … Bien entendu. Toute déclaration d’amour est belle, même venant de vous. »
「恋してる時に、自分が生きてるって思えるんだ。僕にとって愛は全てを感じられる瞬間なんだよ。孤独に陥ることが怖いんだ。(12月15日のウッツの結婚式に参加できるかを聞かれて)もちろん。愛を誓うことは美しいもんだよ。たとえ君のでもね。」(Numéroより)

最後まで現在関係を持っている相手のことは我々にもウッツにも語ってくれることはなかった。もっとも嫌いなインタビューは出生について聞かれることで、プライバシーを探られるのはどうしても嫌いなようだ。