明治初頭の混乱の中結ばれた不平等条約、日仏友好通商条約が締結されて160年。これを祝いパリでは2018年の始まりからジャポニズム2018が開催され、多くのフランス人にニッポンが伝えられてきた。

その中、「京都の宝——琳派300年の創造」が2019年1月まで開催され、日本の国宝である俵屋宗達作「風神雷神図屏風」が海を越えパリのチェルヌスキ美術館に展示されている。

ご存知の通り、ファッションテーマとしてのオリエンタリズムやジャポニズムはここ数年コレクションやストリートで見ない年はなかった。文字、キモノ、能や歌舞伎、アニメ、ゲーム、そして絵画。

「風神雷神図屏風」をはじめとした今回の琳派作品は、パリの人々にどのようなインパクトを残すのだろうか。そしてなぜ琳派なのだろうか。

「私淑」、琳派における「基」の概念

琳派とはなんだろうか。

これは桃山時代、俵屋宗達と本阿弥光悦が始めたとされる美術流派であり、さらに7、800年ほど遡る平安時代に発達した大和絵を基とするものである。当時の主流といえば絵師らは師と仰ぐ人を持ちその技法を学んだが、琳派はそうではなかった。

時間的空間的に離れた、会ったことのない「師」、つまり個人的に基とする人を据え置きその技法を学んだため、絵師自身のアイデンティティが他の流派に比べ濃く反映される。この関係は「師弟」に対し「私淑」と呼ばれる。

実は琳派が西洋人に着目されたのはこれが初めてではない。『琳派RIMPA—国際シンポジウム報告書』によると、19世紀ウィーンの芸術家Gustav Klimt(グスタフ・クリムト)は尾形光琳作「紅白梅図屏風」を基に「ダナエ」や「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」を描いたと言う。2つの絵画の構図、配色は確かに「紅白梅図屏風」のそれでありイメージソースと考えられるのも納得できる。

そして200年の時、オーストリアと日本という距離を経てのオマージュはまさに琳派の特徴そのものである。

尾形光琳といえば、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」を模写した数多くの琳派芸術家のうちの一人である。先に述べたように琳派にとって「模写」は他の流儀と一線を画する大切な要素だ。

それはもしかすると、現代ファッションのブートレグ的嗜好に通ずるところがあるかもしれない。

Gucci(グッチ)のAlessandro Michele(アレッサンドロ・ミケーレ)がTrouble Andrew(トラブル・アンドリュー)とGUCCI GHOSTを発表したことはモード界に稲妻と嵐を呼んだが、そこには時間的に離れたGuccio Gucci(グッチオ・グッチ)と、空間的に離れたトラブル・アンドリューに感じた「基」があったからだろう。

琳派:「日本的感性の具象化」

チェルヌスキ美術館のキュレーターManuela Moscatiello(マヌエラ・モスカティエッロ)氏は大学時代から日本美術を研究している。彼女は「風神雷神図屏風」が属する琳派をフランス人に見せる理由を語った

モスカティエッロ氏にとって、琳派は20歳の頃に収蔵庫や美術館に缶詰になり研究し魅了された、縁のある美術だという。

「(展示会が琳派に特化した理由について)琳派が日本的感性を具象しているからだと思います。琳派の絵師がいかに中国画の技法を用いようとも、琳派以上に日本的なものはありません。先駆者を範として受け継いできた作家を年代ごとに取り上げ(…)琳派美術を様々な角度から、屏風を通してご紹介します。」(Japonismes 2018より)

なぜ日本的なのか。それは琳派が多く「自然」にフォーカスしているからだという。彼女は「花見」や「神道」のアニミズム的信仰を例に挙げ、日本人が先天的に、そして日常的に自然を愛する心を有していると話す。

奇しくも条約が締結された明治より大気汚染を始めてしまったと言われる日本人として、この言葉は少し心にくるものもある。

また彼女は、琳派の西洋文化への影響を軽く説明してくれた。

19世紀にルイ・ゴンス(1846-1921)が全二巻からなるフランス初の日本美術の概論書を出版します。図版が豊富に収められ、序文の中で日本人は「世界で第一級の装飾家」と評されています。西洋の作家たちは、琳派作品が放つ装飾的性質とセンスに魅せられたのだと思います。(フランス人が日本美術に魅了される理由について聞かれて)そこには飽くことのない知識欲があるからだと思います。フランスに関しては、日本美術が与えた影響は、おそらく19世紀にさかのぼるもので、芸術やファッションをはじめとする分野においてみられます。」(Japonismes 2018より)

日本の伝統的なテキスタイルや図は見ていて飽きることがない。仮にテーマが西洋美術に見られるものであったとしても、そこには人の目をとらえて離さない特別な魅惑がある。

 

琳派の私淑関係が生む模倣ではないオマージュ、そして日本人の自然を愛する性質が、今回の「京都の宝——琳派300年の創造」にてフランス人により日本文化を伝えることになるだろう。

三島由紀夫に「奇抜な構図」と言わしめた「風神雷神図屏風」は、薄暗い入り口を入ってすぐ右手に現れ来場者を歓迎する。静寂の中に見える、言葉にし難い躍動感がある。それは琳派の作品全体に言えるものかもしれない。