2008年後半から2010年前半にかけての短期間の間に、数多くの若きトップモデル達が自ら命を絶った。現代の業界事情と比較しつつ、当時のモデル達に起きた悲劇を振り返る。
悲しみに沈んだファッション業界
キム・ダウル、アンブローズ・オルセン、リナ・マルランダ、ルスラナ・コルシュノワ、トム・ニコン、ヘイリー・マリー・コール…惜しまれつつこの世を去った彼らは出身地こそ違うものの、皆20歳から29歳の若者で、有名ブランドとの仕事を数多くこなす人気モデルであった。
さらに、同時期に著名なファッションデザイナーのアレキサンダー・マックイーンも40歳の若さで自死を選んでいる。続く悲報は華やかなファッション業界に潜む闇を暴き、ファンに大きな衝撃を与えた。
モデル達に押しかかる様々なストレス
韓国人モデルのキム・ダウルは、亡くなる前から過度に働かされて疲れ切っていると訴えていた。当時は日本人モデルのTAOが大流行し、アジア人モデルの需要が高まっていたころだ。

キムやTAOもそうだが、モデルの多くはキャリアを追及するために、10代のうちからパリやニューヨークへ単身で引っ越し、ひたすらオーディションを受ける日々を送る。
キムはそのような生活の中で、自分が孤独であり不眠症と鬱に苦しんでいることを明かしていた。享年22歳のトム・ニコンの自殺は恋人との破局が引き金となったと考えられているが、トムの悲報を受けて業界内からはモデルが背負うプレッシャーについても言及された。
「この世界は若さとあまりに近く結び付けられていて、まるで世界が22歳で終わってしまうかのように見せる。」By ファッションデザイナー、ジョルジオ・アルマーニ The Guardian
「プレッシャーは大きく、人々が想像するようなおとぎ話のような生活ではない。」By 匿名の同業者 Daily Mail
トムの自殺は彼がミラノ・コレクションに備えてヴェルサーチの衣装合わせを行った直後に起きているし、ヘイリー・マリー・コールは死の直前にメールで大きな仕事を獲得して興奮していると綴っていた。彼らは仕事に恵まれていたにも関わらず、心に闇を抱えていたのだ。
現代のモデル業界はどう変わった?
10年前と比べて大きく変わったこと言えば、やはりソーシャルメディアの普及だろう。当時はまだツイッターをしているモデルはごく少数、インスタグラムは無く、写真系SNSならむしろタンブラーがわずかに流行していたが、仕事に使っているモデルはいなかった。
今はソーシャルメディアで自分の活動を宣伝し、仕事のオファーを受けることもあればファンと気軽に交流することもできる。セクハラ被害を告白する#MeTooムーヴメントのように、不当な扱いを受けた時に泣き寝入りすることなく声を上げやすくなったことも特徴だ。
過度な「インスタ映え」への執着、ソーシャルメディア上での中傷など、SNSの普及により新たな問題が増えたことは否定できない。しかし、モデル自身が自分の言葉をより世間に伝えやすくなったことや、ファンとの交流が気軽に行えることは、閉鎖的で二面性のあったモデル業界を明るい方向へ変えていったと言えるだろう。
2000年代後半は、アナ・カロリナ・レストン、ルイゼルとエリアナ・ラモス姉妹が拒食症で死亡したことを受け、痩せすぎモデルの問題が表面化された時代でもある。脂肪の無い体こそが美しいというモデル業界の考えが見直され、健康管理が徹底されるようになった。
ご存知の通り現代は、グラマーで程よく曲線があったり、筋肉の付いた体形が流行している。多くのモデル達がストレスとプレッシャーを抱えながら極端な食事制限をしていた10年前よりも、精神的にも身体的にも健康な世の中になった。

変わらない問題点も
オーディションにて、モデル達を長時間待たせた挙句にたった数秒で評価する、というスタイルは長年変わっていない。
トム・ニコンの死亡時、匿名の同業者はこう語った。
「キャスティングに行くと、ディレクターは私たちを一目見て却下する。その後、私たちは一体何が駄目だったんだろう、なぜ仕事がもらえなかったんだろうと一生悩むことになる。」
しかしながら、オーディションはモデル達が仕事を得るには避けられない道でもある。現役で活躍中の人気男性モデル、アントン・ウェルズジョーはAFPの取材にて、「仕事が来るのを待っているだけだと、無職で職探ししながら過ごすようなもので、失敗する度失望することになる。常に落ち込んでいたら生活していけない。」と語り、一日に複数のオーディションに向かう姿が映された。
モデル達はどんなに日々が辛くとも、それを隠して常に華やかに振る舞わなければいけない。
ファッション業界では「流行は繰り返す」とよく言うが、モデル達の自殺は二度と繰り返すべきではない流行である。