ヒップホップファンが注目して観ていたであろう10話完結の海外ドラマ「Unsolved:未解決ファイルを開いて」。

20年が経った今でも未解決とされる、ヒップホップ東西抗争を代表する事件の一つTupac(トゥパック、以下2パック)とNotorious B.I.G(ノトーリアス・ビッグ、以下ビギー)の殺害事件を題材にした物語だ。

その二人を演じたMarcc Rose(マルクク・ローズ)とWavyy Jonez(ウェイビー・ジョーンズ)がHYPEBEAST USAのインタビューい答えた。ギャングスタラッパーと呼ばれる二人を演じて感じたことはなんだったのだろうか。

2パックとビギーの殺害事件

二人が出会ったのは1993年。年齢は1つしか違わない彼らだが、ビギーはブルックリン以外では無名、一方の2パックはすでにCDのミリオン売り上げを達成、映画俳優もこなしまさにカリスマと呼ぶべき存在となっていた。

2パックはビギーに成功を教え、ビギーは2パックを心から慕った。二人は装填されていない銃で遊んだり、ヤクでキメたり、フリースタイルでじゃれるほど仲が良かったと言われる。 「Unsolved」の主役二人も最も印象に残ったシーンとして、第1話の二人のフリースタイルシーンだと話す。

しかしその友情は翌年に終わりを迎える。タイムズスクエアでの2パック襲撃事件だ。ビギーのレコーディングスタジオに向かう最中のエレベーターで玉袋を含め5発の銃弾を受けた2パックは事件後、ビギーが事前に襲撃のことを知っていたという情報を得る。

それまではヒップホップ東西抗争は激化しておらず、むしろ東西を代表するDEATH ROW RECORDS(デス・ロウ・レコーズ)とBAD BOY RECORDS(バッド・ボーイ・レコーズ)のトップの仲は良好だったほどだった。

しかしこの事件をきっかけにニューヨーク生まれの2パックはウェッサイのデス・ロウに所属、イーストのバッド・ボーイ潰しに走り、抗争の狼煙は2パックとビギー二人の天才の殺害事件とともに上がることとなった。

「Unsolved」出演から二人が学んだ伝説の後ろ側

2パックと同い年でデス・ロウを象徴するラッパーSnoop Dogg(スヌープ・ドッグ、以下ドギー)は今半世紀を生きようとしている。 現代のラッパーでデス・ロウに所属したこの二人を聴かなかった人はいないだろう。

それほどギャングスタと密着したこのレコード会社は最高のヒップホップを作り出した。 しかしファンが知りうるのはメディアなどに現れる表側のみだ。ローズは2パック役を演じて何を感じたのか。

“I got a chance to learn his life—who he was behind the music; who he was in the media; who he was publicly. I got a chance to really get into his head. (…) He came from a strong foundation; his mom was a Black Panther. I really got a chance to see his upbringing while portraying Tupac.”

「音楽の裏側で、メディアの中で、みんなの前で、2パックがどんな人生を送ってたのかを学ぶことができた。彼の頭の中に入ることができたんだ。2パックの母はブラックパンサー(黒人解放闘争を目的とした過激政治組織)の一員で、彼の生まれは壮絶なわけだ。その育ち方を知ることもできたよ。」(HYPEBEASTより)

ビギーを演じたジョーンズも同じように音楽の後ろ側でビギーがどのような人だったかを学んだと言い、それは普段人が知ることのできない部分だったと話す。

例えばビギーの名盤“Juicy”が制作された時、本人は実際のビートにラップを乗せることがダサいと感じていたことや、バッド・ボーイのトップであるパフィーがどれだけビギーと2パックを信じていたかなど、音楽を聴くだけではそれは知ることはできないと言った。

「Unsolved」から学んで欲しい、二人の友情と人間性

人間性は音楽の形成になくてはならないものだ。しかしそれが見えにくいこともある。ギャングスタヒップホップといえばまさにそうではないだろうか。金、セックス、暴力に加え抗争や自身のプロデュースも相まって、外からは見えないことも多々出てくる。

インタビュアーが二人に、シリーズを通して視聴者に学んで欲しいことは何かと聞いた。ローズは二人の友情と人間性だと答え、ジョーンズはこう続ける。

“People just look at them as these “gangster rappers,” but in Unsolved you get to see that they’re storytellers (…) This story really gives you a chance to go around that and shows they were much more than just “gangster rapers” like everyone reports them as.”

「報道とかではみんなは彼らのことをギャングスタラッパーとしてしか見てないけど、「Unsolved」ではそれが本当じゃないことがわかる。この物語はそういう二人のギャンスタとしての一面以上のものを伝えることができるよ。」(HYPEBEASTより)

ローズとジョーンズの二人を含め「Unsolved」スタッフが視聴者に見せたかった真実は、音楽や事件の裏に隠れて見落としそうだった、二人の天才が持つ温かみだった。

 

最近ではギャングスタと関係のあるヒップホップアーティストはなかなか見かけない。Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の叔父がドギーと同じCrips(クリップス)の一員だったことくらいだろうか。

他のラッパーに関してはインフルエンサーとしての一面が大きすぎるせいか、メディアの中にいてやはりその裏側の本当の人間性は見えない。

たとえ物語が脚色されていたとしても、見えなかった部分を見えるようにすることは、アートそのものの周りを支える一番のファクターだ。