2020年に開催される東京オリンピックのメイン会場に高輪ゲートウェイ駅。この二つは隈研吾が近年デザインしたものだ。他には大学のキャンパスや多くの庁舎の案も手がけている。

日本に限らずフランスやスペイン、ブラジルなどのラテン系諸国での活躍もめまぐるしく、2018年スコットランドで建築が完成されたヴィクトリア&アルバート博物館のダンディー分館が特に今ヨーロッパで話題となっている。

そんな彼をフランス版NuméroのコントリビューターChristian Simenc(クリスティアン・シマン)がインタビューした。「木」にこだわった建築と日本らしさが織りなすハーモニーとは。

自然の組織と建築

隈氏の建築には木材がよく見て取れる。それは彼の建築の特徴であり、自然への敬意だ。

« Le bois est un matétiau magique qui peut modifier entièrement l’atmosphère d’un lieu. Sans doute cela a-t-il à voir avec la solide amitié qui lie l’homme à l’arbre. Nous venons de la forêt et l’arbre est notre plus vieil ami. Utiliser du bois, c’est comme inviter un vieil ami à la maison, l’espace s’en retrouve apaisé et apaisant. »

「木材は場の空気を丸ごと変えることのできる魔法です。それは木と人間の間にある揺るがない友情とでも言いましょうか、木は僕たちの旧友です。僕たちは森から来たんですから。木材を建築に使用することは、旧友を家に招くようなもの。そうすることでスペースはより落ち着き、同時にスペースは人たちをも平静に誘ってくれます。」(Numéroより)

今回スコットランドに建設したヴィクトリア&アルバート美術館ダンディー分館は木材とはまた違う方法で自然を表現している。

そのインスピレーションはスコットランドの海岸にそびえる断崖。彼は板状のコンクリートを使用することで岩石の地層を想起させ、自然の組織を模倣したと語る。結果この分館はスコットランド最長のテイ川の断崖にも酷似することとなった。

薄い仕切り壁を用いる意図

隈氏の建築には木材ともう一つある特徴がある。それは薄い仕切りだ。反対に彼は厚い壁をひどく嫌っている。

« Ils (les murs épais) peuvent même transformer en prison. Au lieu d’une geôle, je propose des frontières plus douces, des cloisons plus légères, comme des filtres, qui évitent l’image d’une enceinte close dans laquelle on se sent enfermé. »

「厚い仕切りは心地よくない、まるで牢獄みたいなものです。僕はそれの代わりに、フィルターのようなより滑らかな境界線、より軽い仕切りを提供しています。それのおかげで、そこにいる人たちは閉じ込められたような感覚を覚えなくて済みます。」(Numéroより)

現代の都会生活は昔に比べ住みづらくなり、彼らはセキュリティを要するようになったと彼は話す。「仕切り」は彼らにその安心感を、そして「薄さ」は視線を和らげる効果を持つ。これは建造物に限らず現代社会での都市化計画を進める手法の一つだと隈氏は語る。

日本建築の伝統、ハーモニーの追求

シモン氏が隈氏にした二つ目の質問「日本の美学を列島外に持ち出すことは可能か」の問いに彼が答える。

« A l’étranger, ce que l’on importe n’est pas une esthétique ou un style, mais l’idée d’harmony. Au Japon, c’est une tradition. Il y a toujours eu une recherche d’harmonie entre l’architecture et l’environnement, d’un équilibre entre le corps humain et les dimentions des éléments qui l’entourent. »

「国外に僕たちが持ってきているものは美学や様式ではありません、ハーモニーの理想です。日本では伝統的に建造物と環境の間に、そして人間の身体とその周りを囲むものの間に生まれるハーモニーを追求してきました。」(Numéroより)

木材の使用、自然組織の模倣、これらはいわば建築と自然の間に隈氏が追求するハーモニーを創造する要素なのである。

また先ほどの薄い仕切りの使用ももちろん日本の障子や網代、揚簀戸などが考えられている。これらを参照とすることで自然を建物の内側に入れることができると隈氏は語る。

また隈氏は建物の「内側」と「外側」は決して対をなす語ではないと主張する。あえて説明はされなかったが、これまでの話を聞けばそれが自然と建造物のハーモニーをなす一つの方法であるとわかる。薄い仕切りはそれがためでもあったのである。

自然とのハーモニーを奏でるものは人間だけではない。

« Si le bois reste un matériau ancien, il permet, grâce à la technologie contemporaine, d’aboutir à des solutions architecturales très futuristes. »

「木材が古代からの材料であれば、現代のテクノロジーと混ざることで建築における近未来的な「答え」になるでしょうね。」(Numéroより)

隈氏はこの例として2017年に自身がデザインした静岡のCOEDA HOUSEを挙げた。素材には金属の7倍の耐久力を誇るカーボンファイバーが内蔵されたヒマラヤスギの茎を使用し、これまでにない強い木工建築となった。

時代が進化することにより建築も数歩先へ進むことになる。そこではなく時代の進化は、建築とハーモニーを奏でるものが増えるのである。それはつまり自然と建造、そして人間の調和がより美しくなることに他ならない。

 

隈氏の建築には一貫した自然との調和がある。内側と外側、そして部屋同士の区分を最小限に抑えることでその絶妙な美しさが最大限に引き出されている。

日本の伝統的哲学からくる彼のハーモニーの追求は立ち止まることを知らない。