「ガーメントディストリクト」とは、ニューヨーク・マンハッタンの34~42丁目、5~9番街の周辺は、ガーメントディストリクトと呼ばれ、アパレル産業が密集している地区のことを言う。

[/caption] しかし近年、マンハッタンの地価の高騰などが原因で、ガーメントディストリクトは、他産業によって侵食されてしまっている。
ガーメントディストリクトにあったヴォーグ等を発刊する会社「コンデント」本社が2015年にダウンタウンに移転してからというもの、「ガーメントディストリクトは終わりつつある」と密かに囁かれていた。同地区において、過去5年間でファッション産業が占める範囲は17%増えたものの、今では地区全体の60%以上がファッション以外の産業によって占有されてしまっているのが現状だ。
1987年の保護法が取りやめに

そんな中、12月末にニューヨーク市議会がガーメントディストリクトの保護を目的とした1987年の法を廃止した。この法では、ガーメントディストリクトのオフィスの形を、ブティックとして使いやすいように1対1の正方形のみにするように定めたものだった。この法律が廃止されたことで、ガーメントディストリクトのビルのオーナーたちは、自由に部屋の形を改装できるようになり、結果として、ファッション業界以外の産業によって、使用されやすいようになる。
ファッション業界の、地道ながらも慢性的な衰退と、その地区に進出することで、より多くの利益が期待できる他産業からの声を受けての結果だった。市は、現在約66,000ほどあるガーメントディストリクトの雇用が、この法の廃止によって、今後3年で72,000ほどに増えることが予想されるという。
この法の廃止を受けて、ニューヨーク市長のビル・デブラシオは以下のように声明を発表した。
“今後とも、ガーメントディストリクトをニューヨーク市のファッション業界の歴史的な出発点としつつ、今後は市全体に資金投資して、ファッション産業を保護していくことに変わりはありません。”
“今回の投票結果から、ガーメントディストリクトは今後とも、様々な産業が混じり合う地区として栄えていくということが再確認された形になりました。”
ガーメントディストリクト自体が移転

ニューヨーク市は、地価が高騰し続けるマンハッタンで、ファッション産業が発展し続けるのが困難であろうことから、ガーメントディストリクトをブルックリンへ移転する計画がすでに推し進められている。
ブルックリンはマンハッタンに比べ、地価がまだ安価で、ブランドを起ち上げたばかりのデザイナーたちにとっても友好的だ。約200,000平方フィートにも及ぶ、巨大なファッションセンターをブルックリンのサンセットパークに建設し、その周囲をガーメントディストリクトにする予定だ。
マンハッタンのファッション産業は終わったのか

では、マンハッタンはファッションの中心地として終わりつつあるのだろうか。
実は、そうとも言い切れない。ニューヨーク市は未だに、マンハッタンのガーメントディストリクトにおいて、ファッション産業へ長期的に支払えるような友好的な値段でテナントを貸し出しているビルのオーナーに対して、税金の免除を行っている。
また、ニューヨーク市議会は2年以内に、2千万ドルを費やし、ファッション産業者のみにテナントを貸し出すビルを買い取る予算を捻出する法を立案中である。同法には、同地区においてのホテル建設を制限する条項も含まれているという。
最後に…観光地としてのガーメントディストリクト

巨大なボタンと針をかたどったパブリックオブジェが観光客にも人気の地区だ。そのオブジェの下にインフォメーションセンターがあり、無料の地図ももらえる。
上記の他にも様々なパブリックオブジェが通りを彩り、今なお、生地、ボタン、リボン、ビーズの専門店などなど、観ているだけで気分が揚がるような華やかさで溢れている。
商工会議所が中心となって、ファッションをテーマとしたユニークなイベントも開かれていることが多く、2000年に始まった、「ハリウッド名声の歩道」を真似た、「ファッション名声の歩道」なんてものも、地面に埋め込まれていたりする。
ブルックリンに移転したとしても、歴史的な観光地としてガーメントディストリクトはNYファッションの中心であり続けるであろう。ニューヨークを訪れた際はぜひ、立ち寄ってみてほしい。