POSTED ON 2019年1月22日 1 MINUTE READ BY SIXTYMAGAZINE TEAM
世界各国でストリートスナップやバックステージをメインに活動後、2018年4月より東京に拠点を変更したフォトグラファーのイリグチケンタさん。東京、そして世界のストリートをありのままに切取り発信する彼のフォトグラファーとしての想いにフォーカスする。
―現在、フォトグラファーとして活躍されているイリグチさんですが、フォトグラファーになる以前はどのような活動をされていましたか?
元々はデザイナー志望だったんです。なので、ファッションデザインの専門学校に通っていたのですが、ドローイング、パターン、各分野に自分よりも秀でた人たちが居て。自分が学内でこのレベルだとデザイナーとして生き残れないと感じていましたね。
ちょうどその時期に、向千鶴さん(現WWD JAPAN編集長)が学校へ講演に来てくれたこともあって、一瞬でメディア業界に惹かれたんです。公演後、直接向さんに入社方法を尋ねると4年制大学卒業資格が必須だと教わって。それでWWDへの就職は諦めて、UNITED ARROWSに販売員として入社したのがフォトグラファーになる前です。
―その後、フォトグラファーになろうと思った経緯を教えて下さい。
入社後しばらくすると日常生活が疑問に思い始めました。その時期にちょうど成人式があって、地元の同窓会に行くとジョン ローレンス サリバンのセットアップを着た子が居て。それまであまり交流がなかったんですけど、服を共通に朝まで話が尽きませんでした。彼が写真をやっていると知って、僕も遊びで撮ってはいたんですけど、彼の『趣味も本気でやればめちゃくちゃ楽しい』という言葉がその時期の自分に凄く響いたんですよ。直ぐに退社してパリへ飛び、そこから独学で勉強して今に至ります(笑)

―独学までのプロセスを教えていただけますか。
フォトグラファーになる人って、親が元々仕事にしている人と、写真の専門学校に通いその後アシスタントにつく人の2通りが多いと思います。だけど僕は以前からストリートスナップが大好きだったので、10年以上前から各国のファションウィークで撮り続けているトミー・トン、スコット・シューマンさん、藤田佳祐(現THE FOUR−EYEDオーナー)さん達のスタイルから学びましたね。ファッションウィークを回るには大体50万円程の費用がかかるんですよ。なのでゼロから始めた僕は、バイトで貯金してパリで撮るというサイクルを3年くらい続けていました。
―海外と日本でフォトグラファーとして違いを感じるところはありますか?
海外で仕事をしてみて、日本は律儀な性格だと気が付きました。海外だとその場でキャッ シュで支払う場合もあるんですよ。ファッションに関しては、日本の方がお洒落な人が多いと思います。日本に居ると海外は良く見えがちだと思うんですけど、実際は古着やファストファッションブランドを着ている人がほとんどで、高い買い物をする文化が余り無くて機能性重視なんですよ。
一方で日本は若い子も服にお金をかけていると感じます。あとは日本は年齢を気にする性格だと気が付きました。海外は年齢なんて誰も関心が無くて、その人が今何が出来るのかが重要視されています。日本は経歴が見られがちで年功序列の傾向が強いと感じていて、才能がある若い子達の作品が純粋に評価されていないという印象ですね。
―イリグチさんなりに仕事に対して意識していることはありますか?
僕はスタジオ撮影はしません。シンプルに写真で勝負した時に、自然光には勝てないと思うからです。その瞬間、その角度でしか表現出来ない偶然性が一番面白いと感じるので、ある程度予測出来る写真を求めていないんですよ。自分で撮った広告・ルック・キャンペーン・スナップは何となく似ていて、構図は全て“リアル”にこだわります。レタッチもほとんどしないんです。
というのも、カメラマンの役目はエゴでは無いと思っていて。根本的にはクライアントが何を求めてどう魅せたいのかを自分で切り取って表現することが大事だと思います。僕は服を作っていた経験から分かる部分もあって、服のディテールを魅せることを意識することも多いです。

―NOUVERTEmagazine(ECサイト併設のWebマガジン)の運営メンバーとしても活動されていますよね。その経緯について教えて下さい。
設立者の竹部君も少し前までスナップを撮っていたんですよ。3年前に初めて東京ファッションウィークにスナップを撮りに行った時、彼は僕を知っていて声をかけてくれたのが知り合ったきっかけです。翌年のファッションウィークで僕が一緒に撮ろうと誘って仲良くなりました。
彼の何かをつくりたいという想いを支えたくて、自然な流れで今では運営に参加しています。僕は現在フリーで活動していますが、日本に戻って来ても海外のクライアントが多いので、求めてくれている限りはフリーで活動しつつNOUVERTEmagazineにも関わっていきたいですね。
―ファッションに関わる1人としての思い出深い経験はありますか?
ヴァージル・アブロー(Off-White™️デザイナー、Louis Vuittonアーティスティック・ディレクター)に直接会えた事です。僕が撮ったOff-White™️を着用した人のスナップ写真を彼がInstagramで投稿してくれて、僕のアカウントをフォローしてくれたことが始まりでした。
僕の地元福岡にあるメンズセレクトショップ『チェリー福岡』のオーナーである石田武司さんがヴァージルと仲良しで、彼が「俺が何とかしてバックステージに入れてあげるから絶対コレクションを撮りに行け」と言ってくれて、ヴァージルにDMすると快く承諾してくれました。それで直ぐに飛行機のチケットを取って、今年6月に彼が手掛ける最初のOff-Whiteのコレクションを撮影したんですよ。真っ先にコレクションやリアルな彼の姿が見れる、そこにしか無い興奮は少なからず僕のキャリアに影響していると思います。

―今までのキャリアの中にターニングポイントはありましたか?
一番のターニングポイントになったのは、アダム・カッツ・シンディングという僕の憧れのストリートスナップ界の先駆者が居て、初めて彼と会話した時ですね。本当にたわいもない話でしたが、今まで能動的に活動していて良かったと思いました。僕は彼をずっと見ていましたし僕のキャリアにおいて不可欠な存在なので、あの時間は絶対に忘れないです。
―イリグチさんが今後表現していきたいものを教えて下さい。
最近では、写ルンですやフィルムカメラの再流行によるアナログの世界観が広がって、デジタルの需要が減っている気がします。そんな中でも僕は主役である服を活かしつつ、ドキュメントな写真を撮り続けたいですね。あとは構成要素の一つ一つがとても魅力的で、建築物もよく撮影しています。そこから仕事の案件を頂く事もあるので大変有難いなと感じています。
将来的にはいつか映画も撮りたいですね。東京に来てから日々色んな分野の人と出会えているので、写真の枠を超えて共に様々なものを表現して、ギャラリー運営やイベント企画など面白いことを沢山していきたいと思います。

―最後に、次の写真集等の今後の予定を教えて下さい。
今回出した写真集は、過去作品をポストカードやシール等にして箱に詰めたものでした。思い立ってから3ヶ月程で制作していて(笑) 何かをする時はいつも突然で、いつどうなるか分からないんですよ。なので今のところ未定ですが、今後分厚い写真集も出したいですし、個展もいずれは必ずやりたいです。
海外ストリートスナップでフォトグラファーとしての成功を収めても尚、新たに東京で進化し続けるイリグチケンタ。いつか写真の枠を超えて様々なものを表現してくれることであろう。彼が切り取る“リアルな日常”から今後も目が離せない。
イリグチケンタ/MR.PORTRAITER
ファッションデザイン専門学校でファッションデザインを学ぶ。卒業後に販売員として入社したユナイテッドアローズを退社後、写真を独学で学ぶ。各国のファッション・ウイークでストリートスナップやバックステージ撮影を中心に活動し、18年には、拠点を東京に移し、ストリートスナップやバックステージ、ルックブックの他、建築、キャンペーン、広告、ドキュメンタリーなどの撮影を手掛けている。
Instagram:https://www.instagram.com/kenta_iriguchi/?hl=ja
Twitter:https://mobile.twitter.com/kenta_iriguchi
公式サイト:http://www.mrportraiter.com/
Email:kentairiguchi@gmail.com
「イリグチさんの作品」


