中国のアンディ・ウォーホルと称されている近代アーティストのアイ・ウェイウェイ。彼が絶賛していると、いま話題になっている若手写真家ルオ・ヤン。いったいどんなアーティストなのだろうか。

 彼女は中国写真界のライジングスターだ!!

(アイ・ウェイウェイ)

2013年オランダで開催され、アイ・ウェイウェイがキュレーターとして務め話題となった展示会「FUCK OFF 2」。中国の新しいコンテンポラリーアーティストたちが集まり、ヨーロッパに衝撃を与えた。ルオ・ヤンもこの展示に参加したメンバーの一人だ。中国人女性のコンテンポラリーな素顔を写すと彼女のことは一気に話題になった。まだあまり馴染みの無い近代中国のリアルな世界観は、私たちにいま新鮮さを突きつけている。世界に羽ばたくアジア人アーティスト、ルオ・ヤン。彼女の新しい才能が新たな風を送っている。

「GIRLS」

昨年12月には、自身の作品展「GIRLS」がタイのバンコクで開かれた。彼女が10年間に渡って撮り続けた、中国の若い女性たちの姿がこの展示会のテーマだ。

彼女の親密な女性イメージは、やわらかく壊れやすい、でもその深い層には断固としたゆるぎない強さが見受けられる。ルオ・ヤンの写真には、中国女性のコンテンポラリーな素顔と、一人一人のアイデンティティの探求が繊細に、そしてはかなく映し出されている。その無防備で大胆な中国女性たちのイメージに、どことなく感動させられてしまうのはなぜなのだろう。

英国のインターナショナルファッション、カルチャー誌「AnOther」のインタビューで、彼女が答えた内容を紹介したい。

ルオ・ヤン:私は中国北部の本当に小さな田舎町で育ちました。そこでは誰もがアーティストがリアルな職業だとは思いもしません。アート、特に写真は、私が世界を知るための「手段」です。表現するから理解できる。写真を撮りはじめたのは、私が大学生のときでした。新生活がひとりぼっちで寂しくて、混乱していたからなんです。私が始めようとしていた新しい世界は、大きくって、見たことも無い世界で…。その怖さに真っ向から直面するには写真を撮るしかありませんでした。

(AnOtherより)

思春期の自分自身がまだ確立していない、彼女の不安定さが逆にリアルに作品に表現されている。写真で映る世界は、撮るものの鏡として描写される。彼女のケースもまさにそうだ。

人生の断片を映す。ルオ・ヤンの美意識

彼女の作品で登場してくる、さまざまな若い女性の姿。ルオ・ヤンが映すモデルは全て彼女がプライベートで出会った一般の人々だそうだ。それぞれの人生の断片をルオ・ヤンなりにやさしさく映し出す。

彼女の作品からは、どこか懐かしく、また性の境界線があいまいに感じられるような独特の女性への美意識が感じられる。ヌードで映り込まれている若い女性も、彼女の写真ではなぜかエロスに見えない。まるで女性同士で温泉や銭湯に行った時に、裸の女性が周りに居て違和感が無いような不思議な感覚だ。感情を遠くへ置いた、透明感のある自然な描写の仕方が、彼女の魅力をさらに引き出しているのかもしれない。

「やわらかさと固さ」コントラストの遊び

ルオ・ヤンが撮る作品は、共通して同じようなコンセプトが見受けられる。それは映し出された写真のコントラストだ。「やわらかさと固さ」や「弱さと粘り強さ」など、対比する要素を一点にしぼめたルオ・ヤンなりの遊びが、どのポートレートでも良く表現されている。二つの要素を統合させ、不思議なニュアンスを映し出す。一見シンプルに映し出されているだけのような彼女のポートレートのモデルたちも、実際はとても複雑で混沌とした心理を持っている人物ばかりだったようだ。

今回の作品展「GIRLS」を締めくくる言葉として、「AnOther」のインタビューで彼女はこう答えた。

ルオ・ヤン:私が撮ってきた人物たちは、いつも複雑な感情が混ざり合っている人たちばかりです。その対比は常に私のインスピレーションになっていましたから。写真を通し、思春期の複雑さを理解しようと思ったのです。彼女たちを撮り続けたおかげ、今ではすっかり私が10代のころ抱えていたコンプレックスや混乱は消えてなくなりました。人生の別のステージへ入ったのだと思います。今回の回顧展は、私の自己発見の旅の章を一つ閉じることを目的に開催しています。写真を撮り続けることは、私の成長にもつながりました。

(AnOtherより)

写真を撮り続けることが、彼女の成長に役立った。一枚一枚、撮れば撮るほどその感情が解放されていく。確かに写真は心理セラピーに繋がるのかもしれない。興味深いレポートだ。

-アイ・ウェイウェイ(Ai Weiwei/艾未未)

1957年5月18日北京生まれ。

中国の現代アートを世界に発信する先駆けとなった人物。アーティスト、キュレーター、建築家、文化評論家、社会評論家など多才多面に活動。中国の社会運動にも力を入れている。

-ルオ・ヤン(Luo Yang/罗洋)

1984年瀋陽市(しんようし)生まれ。

瀋陽市(しんようし)にあるアートスクール、魯迅美術学院(ろじんびじゅつがくいん)でグラフィックデザインを学ぶ。現在は北京に在住し、映像をメインに活動している。