VIRGIL ABLOH(ヴァージル・アブロー)をアーティストとして解釈するのに、単語にフォーカスしようという今回の連載1回目には、”INCOMPIUTO”を選んだ。

“INCOMPIUTO”は、パリのギャラリーCampoli Presti(カンポリ・プレスティ)にてアブローがイタリアのアーティストグループAlterazioni Video(アルテラツィオーニ・ビデオ)と共同で2月の2日まで開催しているエクスポジションのタイトル。イタリア語で「不完全」「未完成」を意味する。

アルテラツィオーニ・ビデオとは誰か、彼らが10年以上を費やして行ったプロジェクトIncompiuto(インコンピウート)とは何か。そしてアブローが彼らとコラボしたのはなぜだろうか。

アルテラツィオーニ・ビデオについて

アルテラツィオーニ・ビデオはミラノを拠点にPaololica Barbieri Marchi(パオロリカ・バルビエリ・マルキ)、Alberto Caffarelli(アルベルト・カファレッリ)、Matteo Erenbourg(マッテオ・エレンブルグ)、Andrea Masu(アンドレア・マス)、Glacomo Porfiri(グラコモ・ポルフィリ)の5人によって結成された。今ではその拠点もベルリンとニューヨークにも広がっている。

彼らは2006年から、イタリアの完成されなかった建造物に足を運び写真に記録した。さらに戦後に施工がスタートされたものだけにフォーカスしている。これがINCOMPIUTOと呼ばれるプロジェクトの始まりとなる。

橋、高速道路、病院、スポーツセンター、シアター、それに牢獄。その数は600を下らない。アルテラツィオーニ・ビデオはそれらをイタリア50年の歴史を伝える手段の一つとして捉えた。動画は2007年に公開された、Incompiuto Siciliano(インコンピウート・シチリアーノ)。名のとおりシチリアにあった未完成の建物を集めたものだ。

“(Incompiuto) helps us perhaps to understand how the unfinished works offer proof that humankind, although imperfect, has evolved (…) If reality is what remains, we will have to come to terms with these unfinished works for the entire life cycle of the concrete. (…) It might be a good idea to look into the mirror and learn to accept them, starting out from a point of view which might finally make them part of our common heritage.”

「Incompiutoは未完成でも我々人類が(戦後)進歩してきたことを証明していることを教えてくれている。真実こそが「残ったもの」だとすれば僕たちは人生のサイクルのためにこの未完成の建物と折り合いをつけないといけない。そうなった時には胸に手を当ててこれらのアーキテクチャーと向き合うんだ。それらを僕たちが共有するヘリテージとして捉えることから始めよう。」(Incompiuto: La Nascita Di Uno Stileより)

OFF-WHITE 2019 AWコレクション期間のコラボレーション

先にも引用したが、そんな彼らが2018年、これまでの記録を一冊の本にした“Incompiuto: La Nascita Di Uno Stile/ The Birth of a Style”

カンポリ・プレスティの従業員は、この本に600のアーキテクチャー全てはもちろん載っていないが、それでも彼らのプロジェクトを知るには十分だと話した。

従業員はそれでアブローがアルテラツィオーニ・ビデオを見つけて、今回のコレクションの舞台装置やシューティングの協力を頼んだんじゃないかと続けた。

“En réponse Alterazioni Video a invité M. Abloh à collaborer sur leur projet. Leur dialogue donne naissance à un imaginaire incertain et fragmenté dont les sensibilité et les esthétiques singulières s’influencent entre elles. L’exposition parcours différentes disciplines, exprimant Incompiuto comme un style en soi.”

「(アブローが今回のコレクションのインスピレーションにIncompiutoを参照し、彼らをクリエイションに招いた)お返しとして、アルテラツィオーニ・ビデオは彼とのコラボを提案した。その「対話」は感性と美学が相互に影響し合うことで散り散りになり不確かになってしまう幻想に命を吹き込むものだ。Incompiutoを一つのスタイルとして表現することで、このエクスポジションは複数の分野をまたいでいると言える。」(CAMPOLI PRESTIより)

エクスポジション”INCOMPIUTO”

パリらしい歴史のありそうな建物の1階に上がれば、そこには3枚の鏡がある。うち2枚には、アルテラツィオーニ・ビデオが記録した未完成の建物がミラークロームメタルプリンティングで転写されている。

残りの一枚には、アルテラツィオーニ・ビデオが手がけた舞台装置でスタジオシューティングされたモデルが同じくクロムスティールで写されている。アブローのインスタグラムに載せられた写真のように、どの鏡の前でも前に立った鑑賞者が「その場」に映るようになっている。

作品が鏡でできている以上、鑑賞者やその背景なしでは「未完成」であるだろうことを考えてしまう。

アブローがNIKE(ナイキ)とのコラボであるTHE TEN(ザ・テン)のAIR JORDAN 1をMicheal Jordan(マイケル・ジョーダン)にプレゼントする際に、ヘルベチカ書体のAIRの横にJORDANと書いたことを覚えているだろうか。

AIRだけならナイキのテクノロジーかもしれないが、JORDANを書き加えることで、このAIRはシカゴの伝説と姿を明確にした。

アブローのクリエイションは受動側がいてこそ「完成」する、そのことをふんわりと感じた出来事だ。

つまりこの作品群は、設置されただけではINCOMPIUTOの状態、イタリアの未完成の建物と同じだということが考えられる。

先ほど紹介した“Incompiuto: La Nascita Di Uno Stile/ The Birth of a Style”の一部にも、未完成のアーキテクチャーをみんなの共通の遺産とすることが書かれていた。エクスポジション“INCOMPIUTO”の3枚の鏡、そしてオフ・ホワイトのクリエイションは購買者・鑑賞者である「我々」がアブローとそのクリエイションに携わる人々と共有できるもの、である。

 

どこをどう切り落としても明確なことだが、オフ・ホワイトは金持ちのためだけのブランドではない。

ザ・テンが転売で高値で売買されていることに苦言を呈したこともあった。 彼が尊敬するHedi Slimane(エディ・スリマン)の「フロントロウ」現象よろしく、より広く人々とクリエイションをシェアしたかった自身の理想から遠く離れすぎてしまったのだろう。

このエクスポジションはもしかしたらそんな風潮に軽い批判をしたものなのかもしれない。

 


 

 

【連載】“単語”で紐解くヴァージル・アブロー

はじめに

#1 “INCOMPIUTO”

#2 “COLOR THEORY”

#3 “SCULPTURE”