VIRGIL ABLOH(ヴァージル・アブロー)をもっと理解したい、そうだアブローの単語に注目しようということで始めた連載の第2回目にはLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン、以下LV)2019SSメンズコレクションのタイトル”COLOR THEORY”を選ぶ、

と言いたいところだが、ここでは彼が村上隆とパリのガゴシアンギャラリーで行ったエクスポジションに冠された“TECHNICOLOR”も取り上げることになる。

「村上隆コレクションには行ってたけど…なんで?」という方もこの記事を読んでいただければきっとわかるはずだ。

『オズの魔法使い』と”COLOR THEORY”

同コレクションのテーマが1939年に上映された“The Wizard of Oz”(『オズの魔法使い』)だったことは、アメリカ版ロイター通信のAndrew Heavens(アンドリュー・ヘヴンズ)編集の記事でも書かれている。

注意だが、童話はものによって少なくともディテール部分が変わるので、ここではあくまで1939年版の映画であることを留意してもらいたい。

コレクションに話を戻そう。

オールホワイトの装いから始まり、徐々に色彩豊かに変貌していくそのコレクションは、白黒(実際にはセピアカラー)の現実世界から、カラフルなオズの国に主人公ドロシーが足を踏み入れる情景とまるで同じ。

ショーを始終支えてくれたバンドが座る高台の色は、東の魔女がドロシーを悪い魔法から守るために履かせた、そしてドロシーが現実世界のカンザスに戻るために打ち鳴らした靴と同じエメラルド。

ドロシーは竜巻に巻き込まれこの冒険を始めることとなる前、現実世界で意地悪な地主ミス・ガルチに愛犬トトを連れ去られたことに憤りを感じて家出をする。現実世界にイラつきを感じていた描写だ。

しかし冒険が始まってみると、彼女の願いは「家に帰る」こと。自分が望むものはもともと身近にあったと気づくことになる。その望むものは白黒だが、彼女にそれを気づかせたものは色とりどりの世界。

アブローは雑誌KALEIDOSCOPEにコレクションに抱いた自身の想いを話した。

“It was a way of critiquing the fashion industry that existed, how monotone it was. (…) I wanted to preach the full scope of the real world, made up of many colors.”

「あれ(ファーストコレクション)では現代のファッション産業がモノトーンだって批判したかったんだ。リアルワールドがたくさんの色でできてるって伝えたかったんだよ。」(KALEIDOSCOPEより)

現代のファッション産業は冒険前のカンザス、リアルワールドがオズの国。カンザスのみんなはドロシーの冒険談を「夢だよ」と信じなかったが、アブローの語り=コレクションは世界にインパクトを与えることとなった。

今やOFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH(オフ・ホワイト)の新コレクションも含めてストリート色が随分削がれクラシック思考に向かっているが、2018年は流行りの単一化が目立った年だったように思う。

2019SSのLVのコレクションはその流れを止める魔法の始まりだったのかもしれない。

『オズの魔法使い』と”TECHNICOLOR”

『オズの魔法使い』はテクニカラー社が発明した、同名のテクニカラーと呼ばれる映像技術をメジャーにした画期的な作品だと言われる。

テクニカラーの原点は赤と緑の二色法。赤と緑のフィルターで撮影し合成することで肌の色調やドレスの色合いを表現していた。

そこに青が追加された三原色を基にしたテクニカラーが初めて使われたのは1932年、ディズニー映画の“Flowers and Trees”(『花と木』)。三色になると合成するだけではなく、それぞれの色のフィルムをそれぞれの補色で染め転写する方法(ダイ・トランスファー方式)が取られる。

『オズの魔法使い』では初めと終わりをセピアカラーで表現し、間のオズの国の描写をテクニカラーで行うことでそれぞれのシーンが持つ意味合いを強めることに成功した。

カラー映画の製作がまだまだ高額で白黒映画が主流だった当時だが、これによりモノトーンの業界に「色」が塗られることとなっただろう。

ガゴシアンギャラリーの公式ホームページにはこのエクスポジションを行った村上の哲学が記載されている。

“We want to see the newest things. That is because we want to see the future, even if only momentarily. It is the moment in which, even if we don’t completely understand what we have glimpsed, we are nonetheless touched by it. This is what we have come to call art.”

「僕たちは新しい何かを見たかった。未来を見たかったんだ。瞬間的でもいいからって。何を見たか理解できなくてもいい、その瞬間ってのはその「見た何か」に触れることができる瞬間だからだ。それがアートって呼ばれるものですよ」(GAGOSIANより)

『オズの魔法使い』で使われた三原色のテクニカラーは、世界に「何か」を見せたことだろう。見ている現実世界はもちろん色に溢れていたが、娯楽芸術の映画を通してみる世界に豊かな色彩が生まれたことはまさに「未来」的だった。

 

GUCCI(グッチ)を着ていれば。THE TEN(ザ・テン)を履いていれば。BALENCIAGAやVETEMENTSと書かれていれば。それだけでおしゃれになる流れは終わり、ストリート一色だったモードは次第に冷めていく。

近年の流行と違う点は、立役者と幕を降ろす男が同じだということだ。正確に言えばその両者はアブローだけではなく、彼はそれらのうちの一人だが。

つまり彼にはまだ「死」が訪れない。千紫万紅のオズの国を見た彼は何年先までも流行の未来を、アートの媒体としてのファッションを私たちに見せてくれるだろう。

 


 

 

【連載】“単語”で紐解くヴァージル・アブロー

はじめに

#1 “INCOMPIUTO”

#2 “COLOR THEORY”

#3 “SCULPTURE”