“INCOMPIUTO”に“COLOR THEORY”、本連載の第1回第2回は、比較的新しい単語を選んできた。ここで最後には原点に帰るのも悪くない。

“SCULPTURE”(:彫刻)。前者二つは一種限定的だったのに対し、この単語は何度かVirgil Abloh(ヴァージル・アブロー)の生み出すものに書かれる。

その意味は一瞬間に言える。それはカバンと彫刻の違いを問うたものだ。けれどそれに現れるアブローの哲学は、コンテンポラリーアートを前に後ろ手を組む人には一生わからない。なぜならそれはそれそのものだから。

“単語”

上のリンクから飛べる記事でも説明したことがある。アブローが書く単語やクォーテーションマークは、それがアートたるためのツールだ。面白いのはそうしてヘルベチカを使ったからといって、彼の全ての単語がみんな同じような意味を持っているわけではないというところだ。

“SCULPTURE”と書いてカバンと彫刻の違いを消費者に問う、印象派と「思えない」デザインを以って“IMPRESSIONISM”と書く、

“AIR”と書いてMichael Jordan(マイケル・ジョーダン)をリスペクトする、

“COLOR THEORY”と書いて映像に色彩が生まれた未来的セオリーにオマージュを捧げる、

OFF-WHITEと書かれることも、VIRGIL WAS HEREと書かれることもある。

意味の種類はまさに様々だが、好き勝手に書かれているわけではない。それぞれの単語が書かれている理由がわからなかったとしても、クリエイション自体と単語の結びつきのベクトルは容易に理解できうる。

しかしそれは、一言で言えばいわばコンテクスチュアリゼーションだ。アブローはものとものをつなげることができる。人々の中で「違うかったもの」をつなぐことができる。

それに加えて彼には80年代のシカゴに生まれたというバックグラウンドが備わっている。陳腐な言い方をすればユースカルチャーだ。高尚な言い回しをすれば、マネることはできても後天的に手に入れることのできないサンクチュアリ的な一個人の構成要素だ。それは彼のコンテクスチュアリゼーションを間違いなく豊かなものにしている。

タギングを見て歩いた彼が書くVIRGIL WAS HEREも、ジョーダンのプレイを見て育った彼が書くAIRも、文化の中にいた人間としての説得力に満ちている。

“My artistic philosophy”——LVとOFF-WHITEの線引き

アブローはKALEIDOSCOPEのインタビューで、Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン、以下LV)での仕事と比較したOFF-WHITE c/o Virgil Abloh(オフ・ホワイト)での活動について、そして周りとのコラボレーションについて語った。

“In my solo work, the only thing I’m trying to display is the ideas, my artistic philosophy and the generation I’m part of. (…) I use collaboration as a medium to experiment. (…) Life is collaboration.”

「(LVの時と違って)オフ・ホワイトでは自分の考えを表そうとしてるんだ。芸術的哲学だったり、自分世代のこととかね。コラボって僕にとっては一種の実験なんだ。人生はコラボそれそのものだよ。」(KALERIDOSCOPEより)

考えてみれば面白い。IKEA(イケア)とのコラボで彼らは“SCULPTURE”と記したバッグを製作した。人生そのものと表現するコラボで用いられるということはそれだけ彼の中で“SCULPTURE”は大きなテーマということだ。

他にも村上隆とのコラボで出てくるクロスドアローやAlterazioni Video(アルテラツィオーニ・ビデオ)との“INCOMPIUTO”で出てくる結束バンドもある。

しかしオフ・ホワイトのほぼ全コレクションに登場するこの二つに比べて、“SCULPTURE”はブランドの顔というほどのものではない。1シーズンのテーマで終わらせることのできない、それだけ彼の芸術に対する哲学を凝縮した一単語なのである。

似たもので言えば、’ART WORK’と書かれたTHE TEN(ザ・テン)のPRESTOがある。明言されているわけではないけれど、“SCULPTURE”を見知っている分、「違い」を問われている思いに当然なる。というかそう思わない方が摩訶不思議だ。

ファッションとアートの垣根を越えようとしているのか、ファッションをアートの素材にしているのか。これまでとは少し、そして明らかに違う両者の関係を私たちは今目撃しているだろう。

けれど、時代のコンテクストを読み取り自身の芸術上の哲学を表現していると言われている以上、それは故意的に仕上げられた一つのアートに他ならない。


 

 

【連載】“単語”で紐解くヴァージル・アブロー

はじめに

#1 “INCOMPIUTO”

#2 “COLOR THEORY”

#3 “SCULPTURE”