たまたまインターネット上にアップされたことで話題となった15万枚もの写真の数々。

写したのは、ヴィヴィアン・マイヤーと言うアメリカ人女性。彼女のどストレートな写真は、20世紀の写真界に衝撃を与えた。彼女の興味深い話は、ドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」(2013)にもなり、日本でも広く知られるようになった。彼女はなぜ今世界的に話題になっているか。天才的なセルフィー・フォトグラファー、ヴィヴィアン・マイヤーとは誰なのだろうか。

ヴィヴィアン・マイヤーとは誰なのか

ヴィヴィアン・マイヤー

自分のポートレート(肖像画)をたくさん撮り残した女性。彼女の死後、発見された15万枚以上のネガは、まだ一度も現像されたことがなかった。ガレージセールでたまたま彼女のネガを購入した青年が、Flickerなどのウェブサイトでインターネット公表したところ、その時を止まらせるような息を飲む作品が一気に世間の話題になった。

1926年ニューヨーク生まれ。フランス人の母とオーストリア人の父を持つ。幼少期に何度かフランスとアメリカを行ったり来たりと移り住んでいる。生涯はナニーとして働き、2009年シカゴの病院で亡くなっている。特に写真家としての活動はしていない。彼女の話の興味深い所は、生涯一度も自分の写真を公表しなかったことにある。

ドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」(2013)

第87回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたアートドキュメンタリー。ナニーである彼女がなぜこれほどまでに素晴らしい写真を撮影できたのか、そしてなぜ作品を誰にも見せなかったのか。謎の天才女性写真家ヴィヴィアン・マイヤーの正体を探る映画。監督は、ヴィヴィアンのネガの発掘者でもあるジョン・マルーフ。

ジョン・マルーフ:彼女は、社会主義者でフェミニスト、映画評論家、時代をありのままに伝えることができる才能を持った女性だった。英語を学び、シアターを心から愛していたようだ。

(Wikipediaより)

新聞を読む人、会話をする人、子どもが遊ぶさまなど、街にいる人の日常風景、1950~60年代のアメリカのライフスタイルをストレートに捉えるヴィヴィアン・マイヤーの謎めいた不思議な写真の世界が、当時の時間の断片を写す。彼女のユニークな話は、写真集にもなって出版されたが、このドキュメンタリー映画がきっかけで、世界的に有名になった。

今の時代で言う「セルフィー」

ヴィヴィアン・マイヤーの写真がとりわけ今注目されている理由の一つに、彼女の写真が今で言う「セルフィー」のカテゴリーに入ることにある。

スマートフォンの流行で、現在では「セルフィー」写真は特に珍しいものではなくなった。ヴィヴィアン・マイヤーの写真の精神には、そんな現在のスマホ文化と共通性がある。時代や、使う機械が変わっても、日々の趣味として日常風景を写す「セルフィー」の感覚は、どうやら同じだったようだ。彼女の写真はいわゆる「セルフィー」の先駆けの作品だと言えるだろう。

ヴィヴィアン・マイヤーは旅行好きだった

発見された15万枚もの彼女のネガの中には、彼女の旅行中の写真も見つかっている。謎の多いヴィヴィアン・マイヤーの生涯だが、生前には8ヶ月間の世界旅行をしたと言うことが記録されている。これらの写真はどうやらその時の旅行写真であったのだろうと予測されている。

見つかった写真からは、アフリカ、中東、ヨーロッパ、南米など、ヴィヴィアン・マイヤーが世界を旅したことが見受けられる。中にはアジアの上海や東京らしい写真も複数見つかっている。

今のように世界旅行が一般的ではなかった当時の貴重な記録と彼女のグローバルな目線は、まるで現在のグローバル化をタイムトリップして映し出されたように生々しい。異なる文化を実際に目で見て体験してみたいという好奇心は、いつの時代も変わらなかったようだ。ヴィヴィアン・マイヤーの写真の世界からは、現在世界中のグローバル化の勢いを後押しするようなメッセージ性も隠されている。

ヴィヴィアン・マイヤーの写真の評価

写真評論家のアラン・セクラによると彼女の写真には、フランス育ちの中で磨いた日常を感謝と愛に満ちたアーティスティックな目線で捉える特別な感性が含まれていると言う。確かに、1950、60年代のアメリカを外国人のアーティスティックな目線で捉えた、という写真記録はあまり残されていない。彼女の写真のように当時を別の角度で伝える作品は珍しかったのかもしれない。

ドキュメンタリー映画「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」の監督ジョン・マルーフは、彼女の作品に対してこう評価している。

ジョン・マルーフ:シカゴのダウンタウンで当時存在していたポーランド人コミュニティー、女の子のダウンタウン私生活、都会的なアメリカ育ちのアフリカ人…。ヴィヴィアン・マイヤーの写真には、当時誰も記録に残すことへの価値を考えたこともないような、単純な日常と女の子のライフスタイルが描かれている。

(Wikipediaより)

生涯一度も公表されたことがない、謎めいた大量の写真のネガ。ヴィヴィアン・マイヤーの残された写真が、私たちのモダンなライフスタイルに不変のメッセージを伝える。 今後の写真界に多大な影響を及ぼしそうだ。