https://youtu.be/Aa5onMizfco

Tempalayが今年6月5日にリリースしたアルバム『21世紀より愛をこめて』より、テレビ東京系ドラマ「サ道」のエンディングテーマにもなっている「そなちね」のMVが公開となった。

一度このMVを見てもらうとわかると思うが、非常に意味深な作品となっている。YouTube上のコメント欄には様々な憶測が飛び交っていることからも分かる通り、興味深い内容で、考察が楽しくなる出来である。それは各々の楽しみにするとして、今回はその作品そのものについて深く言及するでなく、このタイミングでのMV公開について考えたい。

順調なキャリア

まず、音楽作品は鮮度が大切だ。基本的には初動の売り上げ枚数が最も高いのは周知の通り。そのためにアルバムを出す前、リード曲となるようなシングルのリリースを世界中のアーティストが行っている。アルバムへのファンの期待感、そのボルテージが最高値に達した時、アルバムリリースそしてツアー敢行という流れがアーティスト活動のセオリーだ。

『21世紀より愛をこめて』においてもアルバム発売前の5月15日、リード曲として「のめりこめ、震えろ。」のMVが配信されている。そして発売日の3ヶ月ほど前からアルバムの発売とツアーを行うことは告知されていた。ボーカルの小原綾斗も今作のリリース前からバンドの認知度の広まりに関して手応えを感じているようだ。

もうほぼ完成していて、かなり攻めた内容というか、前作の延長線上とかではなく、全く新しい世界が広がっている気がしていますね。ここ1年で明らかにお客さんも増えたし、関わっている人も変わってきている。

—『Rolling Stone Japan』「Tempalay小原綾斗のこだわり「自分たちの自由を見失わないように」」より—

フジロックに出演を果たすなど、日本で活動する一バンドとして、順調にキャリアを築いていると言える。

遅れた?MV公開

冒頭でも述べた通り、Tempalayによるアルバム『21世紀より愛をこめて』の発売日は6月5日。そして「そなちね」のMVの配信は10月4日である。その間約4ヶ月。それが意図的なタイミングなのか制作に時間がかかってしまったのか、本人たちが言及した発言は見受けられないが前者であるという仮定のもと話を進めたい。

音源リリースのセオリー通りとはいかない、この流れは近年の海外アーティストにも見られる。Tyler, the Creator(タイラーザクリエイター)に至っては「See You Again(feat. Kali Uchis)」のMVをアルバムリリースから1年後に公開している。この意図するところとしては、まず音源の販売がアーティストの主要財源でなくなった音楽業態の変化が挙げられる。収益をあげるのはライブやマーチャンダイズなどそのフィールドが分散化したのだ。これが商業的な理由。そしてもう一つは作品を殺さないためである。ストリーミング全盛になって、音源のリリーススピードがとんでもなく速くなった。SNSがこれだけ普及して、誰でも言葉やイメージを発信できるようになった。そんな情報過多な時代だからこそ、音楽も雑誌のように読み捨てられてしまうことが増えたのだ。

そんな風に刹那的に消費されないためには、楽曲の完成度はもちろんだが、忘れられないことが大切だ。正直、一聴したリスナーにとってそうあるのが理想だが、聴き流してしまったリスナーのために、ダメ押しとも取れる今一度聴いてもらうための施策である。作品そのものへの感想とは別に、そんな精神性も感じるのだ。

作品を殺さないために

小原のアイデアに沿い、『バトル・ロワイヤルⅡ 鎮魂歌』からインスパイアを受けて撮られたという「のめりこめ、震えろ。」のMVのテーマをAAAMYYYはこう語る。

最後にみんな死んでしまうのは、私たちがどれだけいい作品を作ろうとも、音楽業界にいる得体の知れない力に一撃で倒されてしまうという皮肉と諦観、そして怒りを込めました。

—『CINRA.NET』「AAAMYYYが語る、Tempalayに入るまでの道のりと正式加入の理由」より—

音楽業界のセオリーに沿って配信された「のめりこめ、震えろ。」のMV。そこに描かれているのは、最終的に音楽業界に屈するTempalayの姿だ。それも負けを受け入れての降伏ではなく、自分たちのスタイルを貫いたが故に除去されるという構図である。

しかし、その5ヶ月後に公開された「そなちね」にはそんな音楽業界の在り方に対しての反抗と、”商品”としてでなく”作品”として音楽に真摯に向き合う意思が見て取れる。これだけ情報が溢れる社会において、誰かにとって刺さる作品であり、どこにいるかも分からないがそれを必要としている人にこそ届けようという精神だ。Tempalayの作品や音楽業界に対しての思いを汲んだ上で、今一度その作品の世界観に浸って見て欲しい。今度は、新たな良さに気づき、あなたにとって忘れられない作品になりうるかもしれない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*
*