【60MAG お悩み相談室 #1】Dos Monos 荘子itが繋げる、葛藤と無意識。

このご時世、生きているだけで出現する葛藤や疑問。好きな音楽を聴いたり、たらふく美味しい物を食したり、自分でご機嫌を取るのも良いけれど、たまには誰かに相談してみない? 普段ステージやイヤホン越しで交わるアーティストやクリエイター達が、あなたの葛藤と真摯に向き合っていく新企画「お悩み相談室」。

記念すべき第1回目は、本日(3/13)に新曲『Rojo』をリリースしたDos Monosから荘子itが登場。自身のルーツから音楽シーン、恋愛、就職活動まで様々な読者の悩みに向き合って頂いた。
個人の葛藤も、悩みも、希望も、小さな革命の始まりなのかも知れない。誰かに委ねてみる事で、個人が形になっていくはず。連鎖する凶事に“朗報”を与えてくれる、彼の言葉と音に、全神経を集中して欲しい。

【ペンネーム:猿 17歳】
フリージャズに目覚めたのは何歳ごろですか?あと、歌詞を書くコツを教えて頂きたいです!

狭義のフリージャズ自体を意識して聴き始めたのは大学に入ってからですね。映画とか文学の世界にはまり出してから、カルチャーとして意識したんですよ。
若松孝二監督の映画「エンドレス・ワルツ」は阿部薫っていうフリージャズのミュージシャンを題材にしたものなんですけど、それが面白くて。何も音を出さずにステージ降りて、”今日は何も降りてこなかった”とか言って(笑)。昔の終わった前衛だろって、たかをくくってたんですけど、予想以上に終わってるなって(笑)。後は、間章さんっていう当時のフリージャズの評論家が、ハイデガーの「存在と時間」をずっと読んでたり、ヨーロッパ放浪したり、もうただのニートじゃんって(笑)。フリージャズってそういう感じなんだ、面白いなって。そうやって文化として興味を持って、ちゃんと向き合うようになりましたね。

-フリージャズを掘る前に聴かれていたものは?

もともとギターやっていたので、ロックとアバンギャルドなジャズが合体したようなのを中高の時に聴いていました。聴いたことのない新しい音楽に飢えてたから、キャプテン・ビーフハートをDos Monosの他の2人にも勧めて、みんなだんだんハマってくるっていう。キャプテン・ビーフハートはそういう意味でも自分たちの音楽において大きい存在です。
Dos Monosはみんなフリージャズ好きだし、サンプリングしたりしてるんだけど、昔の終わった前衛表現に距離感があったんですよね。ダイレクトにフリージャズにアクセスする距離感を持ってない世代でもあるので、フリージャズ世代には聞こえなかったものが僕たちには聞こえてるし、だからサンプリングしてループして新しい聞かせ方ができるのかなと。

-表現において映画に影響を受けるというのは、フリージャズを文化的に掘った脈略があったからでしょうか?

そうですね。映画はある意味ライトな芸術と言うか。2時間で分かり易いし、大体の尺もあって、バカでも見れるじゃないですか(笑)。興味あることに辿り着くために1番手っ取り早かったのが、映画だったって言う。今思い返すと、自分にとっての映画は、偶然の出会いに辿り着くための世界との接続点。まさにスクリーンが窓ですよね。自分の知らない世界のフレームを監督が作品として与えてくれるから、監督の目線を再体験することで素人なりに輪郭を掴める。世界を勉強する機会を得る事が出来るメディアなのかなと思いますね。

-映画にどっぷり浸かるきっかけとなった作品は?

ゴダールの「気狂いピエロ」とか、ヴィンセント・ギャロの「バッファロー’66」とか、意外とライトなんですよ。ヴィンセント・ギャロも音楽が好きな人で、自分で全部やってるのがいいなって。ほんとそんな感じですね(笑)。

-歌詞を書くコツはどうでしょうか?

歌詞を書くコツは僕も知りたい…。秋元康さんに聞いた方がいいと思うんだけど(笑)。ふた通りあって、仕事で作詞家として書くのと、ラッパーとして人生を通して何か言っていきたいのは違うベクトルのことで。まあとにかく、作詞家になりたいんだったら、色んな事に興味を持つ。バズワードのサイコロを振って、出てきたものについて何でも書こうってやっていくことが作詞家になるコツなのかな。
僕も色々興味を持って掘ってるんですけど、歌詞書く時、いろんなワードが出てきてかえって邪魔なんですよね。作詞家として量産していくには、色んな事に興味を持って仕入れていくのも大事かもしれないけど、自分の人生の中で伝えなきゃいけない事を選び取るのは、ある意味別の感性が必要。大学くらいはとにかく知識を広げて、その中からグッと絞って、有限化できる癖をつけておいた方がいいかもしれないですね。それは自分への戒めでもあります。言葉遊びについつい走っちゃうので(笑)。

【ペンネーム:えるめーと 16歳】
自分でもトラックを作っている高校生です。荘子itさんが1番影響を受けたアルバムを数枚教えて下さい!

間違いなく1番影響を受けたのは、「MADVILLAINY」。MadlibというトラックメイカーとMF Doom っていうラッパーの共作アルバム。正に、フリージャズやプログレをサンプリングしているDos Monosの形に近いです。影響を強く受けたからこそ、真似ではなく、さらにその音像を現代的にアップデートしようと意識しました。

-トラックを作り始めたのは?

高校くらいまでは、DATSのMONJOEとかとバンドやってて。そこではオリジナル曲のデモでトラックは作ってたんですけど、バンドやめて、個人的にやり始めましたね。ヒップホップのトラックメイカーになるつもりはなかったんですけど、「MADVILLAINY」とか聴いて色々やってるうちに、ヒップホップのやり方が合ってたんです。
これも有限化の話に近くて、ヒップホップって結構ミニマムなループの音楽なんです。昔はフリージャズみたいな即興とか、プログレみたいな展開が多い音楽に惹かれてたんだけど、パソコンで作るとキリが無くて、そういうのを1個のループに閉じ込める事に魅力を感じたんですよね。HIPHOPのトラックをやるっていのは、昔の自分からしたら以外です。

【ペンネーム:MALU 20歳】
荘子itさんにとってリリック、トラック、フロウ、リズムなど何が1番重要?

うーーん…。リズムだけだったら面白いですけどね(笑)。リズムとフロウの違いって厳密にいうと難しいし…。当然何もかもが重要なんですけど…。僕は音楽家なので、基本リリックは考えますけど、音楽に比べたらどうでもいいことなのかなと思ってます。なんか、意地悪な感想ばっかり出てきちゃって、申し訳ないです(笑)。

表現を世の中に発信していく上で何が1番重要?

この質問も考えさせられますね…。俺にとって重要じゃないことが、世の中に発信したときに、違うところが重要な要素だと思われる可能性もあるので。そういう意味では、自分の盲点や無意識を作品にすることが1番重要ですかね。
自分が意識したところを評価されるのは嬉しいけど、自分が思ってもないことを受け止められるともっと嬉しい。そこは批評の力だと思うんですけど、僕が評論とか批判をそれなりに時代に反して好きなのは、作家が意図してない表現の価値を発見して、社会や別の問題に接続できるから。今は評論が弱い時代だからアーティストの言葉がありがたがれるんだけど、アーティストの自己分析は根本的にそんなに価値は無いと思ってます。作品への背景知識としては必要かもしれないけど、その先は受け手が読み取っていくわけだから。本当のアーティストの倫理は、自分のかっこいい意識を追求するよりも、自分の無意識をいかに作品に取り入れて、それを社会やリスナーに受け取ってもらうかってことだと思ってますね。

【ペンネーム:ゆうか 18歳】
動画制作のインスピレーションや作るプロセスなどを知りたいです!

MVの話に限定すると、今のところ、毎回別の監督に撮ってもらってて。僕が映画を観るのもあるんですけど、いろんな曲の捉え方を見たいっていうのがあるんです。制作では、レファレンス通りにならなかった時の、それだけはやっちゃダメだよねっていうダサいことを無くしていく作業を大事にしています。そういうのを無くした後に、監督毎の遊びを楽しめるというか。人と一緒に作るときは、事前のすり合わせが1番大事かな。

動画のインスピレーションは、結構監督に任せたいんですよね。ガチガチに決めてちゃうと勿体無いなって。動画制作ってカメラや監督の目を通して、初めて見えてくる世界があると思うので、本当のインスピレーションは現場にあるのかなと。
自分が映画学科コースで監督で撮ったときはそれができなくて、事前の準備がなってないと、即興的なことができないんですよ。なので、できる限りその人の即興性を引き出せるように準備していますね。

【ペンネーム:りりか】
仲良くしたい人から嫌われている時、どうしたらいいですか?

嫌われているんだったらまだいいですよね。好きな人に興味持たれていないのが1番辛い。嫌われてるんでしょ?! それだったらもう嫌い返しちゃえばいいじゃんって(笑)。変に気を持たせられて何もないっていうのが、1番人間の状態として厳しいので。仲良くしとかなきゃ行けない人だったら、それはちょっとわかんないですね。環境を変えるとか、ちょっと読み込み過ぎかな…。仲良くしたい人がどんな人かによりますよね。好き系なのか、とりあえず仲良くしたいのか。

-好き系だったら?

好き系だったら、本当に何もしなくていいんじゃないですかね。ぬるま湯の片思いが続くと人は自己批判の契機が生まれないまま、相手を同じ理由で好きでいるんだけど。嫌われてる時って、相手の見たくない部分が出てきたりして、最初の憧れとは違う地点にたどり着く。より好きになる可能性もあるし、好きだったけどそうでもないって思えたり、コミュニケーションがあるとそういうチャンスを持てるじゃないですか。実りのない片思いよりかはいいんじゃないですかね。なので、嫌われてるなら積極的にコミュニケーションを取って行こうっていう。好きな人の、自分が好きじゃない部分を見にいくチャンスだと思うな。さっき言った、無意識にアクセスするのって大変なんですよ。なのでありがたい事だと思いますね。普通人はそこを見せてくれないですからね。

【ペンネーム:赤城太郎 23歳】
自己肯定感を高く保つにはどうしたらいいか。

僕はあんまり自己肯定感を高く保とうってタイプの人間じゃないのですが…。心理学を利用して上手く立ち回るメンタリストより、無意識にアクセスして訳の分からない芸術性を高めていこうってタイプの人間なので。(笑)

そのうえで、普通に精一杯アドバイスしようと努めるなら、まず、自己肯定感を自分で高めるっていうのは難しくて、他者の評価を気にしないっていうのは土台無理な話ですよね。
なら、自己肯定感は人の評価で決まる事実を認めて、最終的には自己肯定感を高めよう=人に好かれようとしても生き地獄でしかないってことに二重に気づくべき。唯一の解は人に嫌われることを恐れず好きなようにやることで、それで今目の前の人には嫌われるし、自分でも不安になるかもしれないけど、意図してなかった他者に”あいつやるな”って思われる、もっと遠くの人から評価される想像力を持つことなんじゃないですかね。そこがだんだん自分に返ってきて、結果として自己肯定感が高まる。目の前の相手じゃなくて、自分が意図していない第三者の目線みたいなのがあるっていうのを心の中で感じましょう。

【ペンネーム:けいた 21歳】

現在、アメリカにて音楽ビジネスを勉強しています。日本とアメリカでは法律も違うので、職につく前に日本の音楽業界の実態を少しでも知りたいです。具体的に、アーティストとして、レーベル、マネジメント側に1番求めている事、また、海外レーベルと契約している日本人アーティストとしての苦悩は何ですか?個人的な話になってしまいますが、今年の夏に日本に帰国する予定です。その際に、荘子itさんのお仕事のサポートをさせて頂ける機会があれば、是非お願いしたいです。

サポート、どういうサポートなのかな。お願いします(笑)。
まあ基本的には、一部の凄く売れてるアーティストによって、その他のあまり売れてないアーティストが食えてるみたいな状況がメジャーレーベルですよね。tofubeatsさんとかが自分でレーベル立ち上げて、やられていますよね。それって凄く大変で、経理とかも全部やらなきゃいけない。しっかり者で向いてる人もいるんだけど、才能あっても何もできないやつもいるわけで。そこを助けてあげるのがレーベルの仕事なんじゃないんですかね。
Dos Monosもまだ完全にセルフプロデュースをしていないのは、まだそこまで知名度も人気もないし、自分たちでやるには限界があるから。なので手助けをしてくれるマネジメントやレーベルには凄く感謝しています。海外のレーベルは、契約も含めめちゃくちゃ楽でしたね。1回も会った事ないけど、メールと書面のやり取りだけで何も不便していないし、凄くいい人達なんで。苦悩は特にないですね。

-日本の音楽業界に求めることはありますか?

既得権益に固まるのはやめろって(笑)。すっごいばかみたいなことしか言えないですけど(笑)。僕はあんまり内部に入ってなくて、勝手にやってるので。日本のメジャーシーンでトップを狙って紅白とかMステ出るんだみたいな、それはもう別の世界の話になってるので、あんまり求めて無いですね。メジャーシーンから面白い人たちが出てくるために、体制は変えたほうがいいんじゃ無いかなと思いますけどね。アーティストの為にやるべき最大のことは、表現のための時間をできるだけ密度濃く用意してあげること。だからと言って、アーティストを完全に囲い込むビジネスも良く無いんだけど。

【ペンネーム:れなぽん 21歳】

私は大学3年生で今、絶賛就職活動中です。やりたいこともどういう軸で仕事をしたいかも明確に決まり、目標に向かって、努力・行動しています!一方、エントリーシートで落ちることも多く悩んでいます。個人的に、文章に感情がない・もしくは熱意が伝わりきっていないと感じています。荘子itさんは文章を書く時、どの様な点を意識されていますか??または、誰かに自分の熱意を伝える時(例えばラブレターなど)どの様な工夫をされましたか?教えていただければ幸いです。
Dos Monos さんも荘子itさんも面接で語るくらい大好きで、憧れの存在なので、これからも活動楽しみにしています!

僕は就活経験が無いので超主観で答えちゃうと、熱意って採用にはそこまで重要視される部分じゃない気がしていて、それよりも、冷静に相手に伝えるべきことを伝えられるスマートさでもって「こいつ、賢いな」って評価してもらう方がいいんじゃないかなって。

-荘子itさんが文章を書かれる時はどうでしょうか?

僕は、あんまり意味あること書くの好きじゃないんですよ。いかに無駄なことを無駄に思わせないかっていう(笑)。それをESでやったら死にますけどね(笑)。多分、ESで悩んでる人は文章書き慣れて無いから、単なるES受かるための文章なのに、自分の根源にある感情を表現できてないって無駄な方向に行っちゃうのかな。僕は普段Dos Monosでめちゃくちゃ無駄な音楽を作ることによって、クライアントワークでは取捨選択ができているので(笑)。ESで受かりたいなら、ESに関係ない謎の文章をいっぱい書く。そうしたらESで書くべきスマートさが自ずと付いてくるのかな。

あと、面接官にDos Monosの話をするんだったら、ちゃんと計算した方が良いなって思います(笑)。スマートさのギャップとして、”変な音楽にゾッコンなんだ、へぇ君面白いね”ってなれる様に。自分の変態性がある人の愛は本物だし、そこを最後の武器として使ってもらえたらいいですね。

【雨のパレード 福永浩平さん】
人に物事を任せられないです。

いやいやいや、俺任せられたけどな、俺新曲の(惑星STRaNdING)トラック全部作ったじゃん(笑)。福永くんがカレー作ってる横で作業してたんだけどな(笑)。人に物事を任せられないっていうダンディズムは歌詞の世界で表現してもらいましょう。もちろん、カレーも美味しかったですし、カレーにも自信をもってもらいたいですね(笑)。

Photographer:Kazumi Watanabe
Interview&Text:Ayaka Yoshimura

【リリース情報】

Dos Monos /Rojo
3月13日(金)0:00より各配信サイトに手配信中

2020年最注目のオルタナティブHipHopユニットDos Monos。1stアルバム発表後初となるシングルを3/13(金)より配信開始。さらに1年以上ぶりのアルバム作品の今春リリースも決定!

国内外音楽フェスへの出演や、イギリスのロックバンドblack midiのRemixを手掛けたことでも話題の、2020年最注目HipHopユニット Dos Monos。本日3/13(金)に1stアルバム発表後初となるシングルRojoを配信開始した。Rojoは、ビートを手掛ける荘子itならではの、民族的なヴァイオリンをフィーチャーしたオルタナティブなトラックが活きる唯一無二なブーンバップチューン。

さらに、2019年リリースの1stアルバムDos City以来となるアルバム作品の今春リリースも決定。

いずれも、R&B・ヒップホップなどのアーバンミュージックジャンルに特化し、ワーナーミュージックのグローバルネットワークからデジタル配信を行うレーベル<+809>から配信される。

【配信リンク】

https://809.lnk.to/dos-monos_rojo

【プロフィール】

Dos Monos

日本のヒップホップ・ユニット。メンバーは荘子it、TAITAN MAN、没の3名からなる。名前はスペイン語で“Dos(2匹の)”“Monos(=猿)”の意味と語感の良さから。中学時代に出会い、それぞれのバンド活動を経て、2015年に結集。2017年はソウルにて初の海外ライヴを成功させた後、〈出れんの!? サマソニ!?〉にて勝ち抜き、〈SUMMER SONIC〉出演を果たす。2018年に米・レーベル〈デスボム・アーク〉と契約。2019年3月に『Dos City』でアルバム・デビュー。