MIZ 1st Album “Ninh Binh Brothers Homestay”リリースインタビュー 「心が優しくなるきっかけになって欲しい」

MONO NO AWAREのフロントマン玉置周啓とギター加藤成順によるアコースティックユニット”MIZ”。2人による1st アルバム『Ninh Binh Brothers Homestay』が先日22日にリリースされた。
この状況下、目まぐるしく通過する莫大な情報達に疲弊する人も多いだろう。それぞれが感じた匂いや情景、暖かな思い出を蘇らせてくれる本アルバムは、半径5メートルの空間をグッと天まで広げてくれる。様々な制約がある今、あなたの”居心地の良さ”をMIZの楽曲と共に創出して欲しい。

-今回のアルバムは『Ninh Binh Brothers Homestay』ベトナム・ニンビンでのフィールドレコーディングを経て形になったと。ニンビンでのフィールドレコーディングはどのような流れで行かれたのでしょう?

加藤成順(以下 加藤):もともとMIZのライブはライブハウスじゃない場所でやる事が多くて、空間そのままをみんなに伝えたいという想いがあったんです。その想いをエンジニアの奥田さんが感じて、海外でのレコーディングを勧めてくれました。

玉置周啓(以下 玉置):自然の音を入れたかったので、長野とかで録ることも考えていたんですけど、寒いと指が動かないので暖かいところに行こうと。ベトナムはカラッとしすぎず、ちょうどいい湿度で、人懐っこくて、バイクがそこら中に走ってて、都会なのに自然もたくさんある。かつての日本を想起させる情景もあって、そういった環境がMIZに合うと思ったんです。

-ベトナムで印象的な出来事はありましたか?

加藤:もともと滞在する予定だったハノイの宿泊先のホストが、僕らが到着する数日前に逮捕されていたことを当日知って、初日から泊まる場所がなくなってしまったので、急遽外の屋台でみんなで会議した事ですかね。ホテルでレコーディングをしようとしていたので、みんな焦りつつ冷静に次のレコーディング場所を探して、こういう事もあるんだなって(笑)。そんなこんなで、ハノイから2時間ほど離れていて自然が沢山あるニンビンで録ることになりました。

玉置:同じく1日目ですね。でも良かったのは、会議した屋台の人と仲良くなってハノイに戻った後、そのカフェでMVを撮影させてもらえたんです。そういう事件があったから、店員のお兄さんと仲良くなって1週間で急激に距離が縮まりましたね。ベトナムの方々の人懐っこい感じが良いですよね。

-『パジャマでハイウェイ』を2年前に発表されて、その後もMIZでのライブも積極的に行われていましたが、このタイミングでアルバムをリリースされたのは何か理由があったのでしょうか?

加藤:2年前に『パジャマでハイウェイ』を7インチでリリースしたのですが、レコードプレイヤーを持っていない人も沢山いるので、自分たちの音楽をより聴き易くしたかったんです。曲も沢山出来ていたので、このタイミングだなと。

1st Album「Ninh Binh Brothers Homestay」

-空気や空間を通して聴きたい楽曲でもありますよね。

加藤:そうですね。なるべくレコードやスピーカーでも聴いて欲しいですね。生活の一部として、聴き入るというよりかはサラッと聴いて欲しいです。

-MONONOAWAREと比べると、歌詞がシンプルですよね。メロディーや雰囲気に揺蕩うというか…。歌詞の書き方やメロディーとの成り立ちで意識されている点はありますか?

玉置:MONO NO AWAREよりも抽象的で情景を想像させるイメージで作っています。MONO NO AWAREは、意味合いやパーカッション的なものを意識しているので、跳ねや破裂音が多いんです。MIZのメロディーはグルーヴやキレ的なものは無いので、そこに合わせて優しい言葉を選ぶようにしています。

-楽曲もお2人の主観が入っている訳ではなく、リスナーの想像に委ねている部分を感じますよね。

玉置:音楽を共有する人の幅を広げたいんです。でも、聴く人それぞれの情景を思い浮かべる事ができる。僕たちが湖を見て歌っていたとしても、聴いた人が育った家や遊び場、よく行くスーパーを思い出せたらいいなと思っています。

-ベトナムでの街の音や生活音を入れられたのは、想像力を掻き立てさせたいという意味も含めて?

加藤:普通のレコーディングだと地下のスタジオで録ることが多くて、そのやり方でそこにある土地の音を出せるのか疑問に思ってたんです。MIZでは、作り込み過ぎず、空気感をありのままに入れました。

玉置:ずっとエンジニアの奥田さんが、”その土地の空気感が入るから、沖縄と北海道で撮録っても曲が全然変わってくる”って仰ってて。そういう実験的要素も込めて入れてみました。
やっぱり、レコーディングする場所って大事だなって。ベトナムに行って良かったです。僕はそこまで暗く思っていないけど、今自粛ムードがある中で、それぞれで室内旅行が出来るアルバムになったと思います。旅行って心が晴れるイベントの1つだから、音楽を聴いて心が優しくなるきっかけになって欲しいですね。

-外の環境に合わせてレコーディングもされたと?

玉置:ちゃんと1日のサイクルがあったんですよ。ニワトリが鳴くタイミング、アヒルが放たれる時間、子供が遊んでる時間などがはっきりしていたんです。例えば『パレード』は子供の声を入れたいから、子供が来る17時頃に録ろうとか。でも、待てど待てど子供が来なくて(笑)。”ずっとこの時間に来てたじゃん!”みたいなのもありましたね。

加藤:結局1時間半くらい待ちましたね(笑)。

玉置:良い音出てるって分かりながら録ってる時に、途中からニワトリがめちゃくちゃ鳴き出して、録り直しになることも。そういう自然のままならなさも感じましたね、向こうも一筋縄では行かない感じが面白かったです。

-因みに、『パレード』の歌詞は八丈島の言葉ですか?

玉置:そうです、日本三大方言の1つで、僕らはもう話せないんですけど。

-MVがベトナムの映像だったので、もっと異国の言葉だと思っていたんです。スペイン語とかそう言う雰囲気の…。

玉置:でしょう!そう言って貰えるのは嬉しいですね。”どこに行こう”って意味の言葉がまず5種類くらいあって。”どけぇいこん”とか、どれもフランス語っぽいなって思ってたんですよね。ベトナムがフランス領だったので、街並みもフランスを想起させるものがあって、そこと僕の方言のイメージが重なったというか。

加藤:僕が『パレード』を自主制作していたのが20歳くらいの時、八丈島で作ったんです。初めて周啓に聞かせた時にそのことは何も言ってなかったんですけど、周啓がすぐに島言葉を入れて送り返してくれて、やっぱり音は場所も影響するんだなって、めちゃくちゃ感動しましたね。

-MIZとしての方向性は最初から固めていらっしゃったのでしょうか?

加藤:そうですね。もともと周啓が海外によく行っていたのもあったので。

玉置:スイスで初めてアルプスを間近で見たんですよ、列車から見えた景色がめちゃくちゃ印象的だったんです。その2年後にキングス・オブ・コンビニエンスの曲を聴いた時に1曲目でバチっとスイスの景色を思い出したんです。その土地で聴いた曲を後から聴いて思い出すのはよくあるけど、初めて聴いた曲で過去の風景を思い出すのが初体験だったので、めちゃくちゃ衝撃的だったんです。”これだ!”って。

加藤:その日本バージョンを僕たちでやろうって、MIZが始まりました。

-“MIZ”の名前の由来はありますか?

玉置:由来は”水”ですね。水が気体、液体、固体に変わっても、化学式”H2O”は変わらない。そこが良いなって。人間は形が変わって行くイメージが僕の中ではあるので、キングス・オブ・コンビニエンスを聴いてスイスの情景を思い出したように、この2年間で僕は変わったかもしれないけど、共通するものがあるから2年前を思い出した。そういう想いを込めて”MIZ”にしました。

-お互いの羨ましいところや強みはありますか?

加藤:アルバムの1曲目を川辺で録ったんですけど、笛を使ってるんです。周啓が笛を入れるアイデアを出してくれたんですけど、そういうのをさらっとやれちゃうのが良いなって。僕は考えちゃうタイプなので、周啓の”もうやっちゃえ!”精神に凄く助けられてますね。

玉置:成順は絵みたいです。僕は粘土だと思ってるので。あ、顔の話なんですけど(笑)。ベトナムでもふと成順を見て、惚れちゃいそうになる瞬間が何度もあったんですよ。”すげえ!綺麗!”って(笑)。音楽は耳だけで感じるものではないと思っているので、そういう意味でも、成順の雰囲気って時代も場所も問わない感じでどこにいても様になる。一緒に演奏してて楽しい人ですね。

-次、レコーディングしてみたい場所は?

加藤:1回、日本で録りたいですね。日本っぽい音がちゃんとあるのか試してみたいです。

玉置:浅草、恐山、常陸山、京都、とか良いですよね。日本各地に行って、そこで感じたものをフィールドレコーディングして回りたいです。そう言う場所をすっ飛ばして海外行くのも良いけど、そこと向き合うのも良いな。

-最後に、今後MIZとしての目標や挑戦したいことを教えてください。

加藤:レコーディングもいろんな場所で録りたいですし、色んな人と一緒にやってみたいですね。バンドでは出来ないような、サポートの方に入ってもらうとか。フットワーク軽く色々やって行きたいです。MIZの良さは縛りがないと言うか、自由に行動して形にして行きたいです。

玉置:そうですね。同時に2人でもやれる事を詰めて行きたいです。楽器が少ないから、完成度に関しても未知だし、音ももっと磨いていけるんじゃないかなって。正解は分からないけど、2人の世界を突き詰めて行きたいですね。

Photographer:エリザベス宮地
Interview&Text: Ayaka Yoshimura

【リリース情報】

MIZ 1st Album「Ninh Binh Brothers Homestay」

2020.04.22 release
¥2,364+tax / PECF-3252

Track list

01.Afternoon in Ninh Binh
02.春
03.君に会った日は
04.パレード
05.空砲
06.夏がきたら
07.夏のおわり
08.パジャマでハイウェイ
09.舟
10.バイクを飛ばして

【MIZプロフィール】

2016年11月結成。MONO NO AWAREの八丈島出身、玉置周啓(Vo.)と加藤成順(Gt.)によるアコースティックユニット。
聞き手のある場所の思い出、匂い、音にリンクするような楽曲をコンセプトに制作している。ある音楽を聴いて、風の吹く草原を思い浮かべる人もいれば、かつて住んでいたアパートを思い出す人もいる。それは、耳にした場所が旅先なのか、平日の最終バスなのかというのも関係しているかもしれない。だから、MIZは、さまざまな土地を訪れて写真を撮ってもらったり、もっと誰かの生活に寄り添うような空間で演奏をしてみたりする。そうすれば、僕らの音楽を聴いて思い浮かぶ映像が、めくるめく変わっていくと思うのです。

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