瑛人、yama、YOASOBI、どこからともなく火が付き、一躍メインストリームの主人公へと上り詰めたネット発のアーティスト達。TikTokや主要プレイリストに選出されることが一種の売れ線として確立されつつあるが、正にそのプラットホームにおいて、極めて光るアーティストを見つけてしまった。

先日、自身1stシングル「no THANKYOU」をリリースしたaoは、SpotifyのEarly Noise Japan、New Music Wednesday、Women’s Voice、ブルーにこんがらがって。Apple Musicでは、ブレイキング:J-Pop、失恋J-Popにピックアップ。

メインストリームなプレイリストから早耳リスナー的プレイリストまで、1stシングルながら超網羅的に注目を浴びている。かつ、ここまでの楽曲センスとその評価を持ちながら、全くもって話題に上がらないのが謎なほど。いや、だからこそこの選出は高い音楽性を評価された所以だろう。そもそも、所謂J-POPヒッツなプレイリストにも、インディーズに愛される感度の高いプレイリストにも選出されるなんていう、aoの邂逅力に驚かされる。

明快に歌い上げるJ-POPがチャートをひしめく今、日本のチャートの多様性に首をかしげる事も少なくは無いが、BTSやBillie Eilishを筆頭に人々の音楽の聴き方は少しずつ変化しつつあるだろう(語感やメロディーを楽しむなど)。そんなシーンの変換期に食い込む「no THANKYOU」は、aoが恋を通して体験した日常や心情が、ハイブリットに昇華された贅沢かつ繊細な1曲。各プレイリストへの選曲を例に見ても、多方面のリスナーに愛されるだろう。

先述した「no THANKYOU」は恋愛ソング(片思い相手か恋人をうたった曲だろうか)だが、中学2年生の少女が綴ったものとは思えない詩の重厚感に、個人的偏愛でもある大貫妙子なんかを彷彿としてしまう。「全てはリセット 涙で置いていくの私を」 「優しさを忘れるなんて 出来そうにないの」……、失恋の侘しさと心情の強かさを柔軟に表現したフレーズ達。既に彼女が何を見て、何を吸収してきたのか、インプットの節々を想像してしまう。もっとも、そんなのはどこにも記述されていないのだが…。ネット発アーティスト然り、そういった謎や浮遊感に中毒性を覚えるのかもしれない。情報過多なこの時代、人々に思考の余白を与えるアウトプットの価値をaoが具現化しているのだろうか、なんて答えの無い思いに馳せたりするのも楽しい。

中学2年生。年齢で何かを精査するなんてのは甚だナンセンスだが、どこか自身を“傍観した”様な創造は一種のパラレルワールド的感覚にすら陥ってしまう。主張しすぎない韻、語感が丁寧に揃えられた英詞と日本詞のバランス、それぞれに散らばる繊細なギミックを大胆に抱擁する広大な声…。同じ世界軸を生きる同世代は勿論、かつての青い時代に馳せるおとな達にも、痒い所に手が届く様な、主観を傍観するきっかけをaoはもたらしてくれるだろう。若者の道しるべ、おとなの桃源郷として確立されるであろう彼女の才は、大切に丁寧に自身に切り取って行きたいものだ。

「no THANKYOU」 MVに寄せられた”古参ぶる”旨のコメントも、ネット発アーティストの急進によって中々お目にかかれなくなったが、aoに関しては存分に使って欲しい…なんて思う。プレイリストの勃発によりアーティストへの評価が追随する今、aoの才は古参リスナーと共に長く息をして欲しい。

【リリース情報】

no THANKYOU

アーティスト:ao
リリース日:2020.09.23
レーベル:Beryl Stones

【ao】

中学二年生の女性シンガーソングライター。ネイティブのような英詞の発音と、特徴的な歌声が印象を残す逸材。インディーズレーベルBeryl Stonesより「no THANKYOU」がファーストリリース曲となっている。

Instagram:https://www.instagram.com/ao_farbe/?hl=ja
YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=GMk3b39y3AQ