【連載:アジアンストリート】ALAND JAPANが日本で韓国ファッションを集約する訳「みんな口を揃えていうのは“日本には無い”」

アジア各国のファッションディレクターに、ローカルな人気スポットやその国のストリートファッション、HIP HOPの実情を、SIXTYPERCENTのブランドディレクター Nanaが探る連載企画。感度の高いデザイナー達が集うローカルカルチャーから、アップカミングなアイコン達を探ってみよう。
今回は、韓国発セレクトショップドALAND JAPANから、ブランド責任者・ALAND事業部長の樋口和之氏が登場。韓国のファッションストーリーを目にした彼が、この日本で感じる個性と創作性とは?

 

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NANA:早速、ALAND JAPAN ブランド責任者である樋口さんの簡単なご経歴からお伺いしたいのですが、アダストリアに2013年に中途で入社されていらっしゃいますよね。以前もファッション業界では働かれていたのでしょうか?

そうですね。アダストリアは6社目でして、かれこれ20年ほどずっとファッション業界で働いています。新卒でMDとして働くようになってから、MDから事業部長まで担当しています。

NANA:今ではALANDの事業部長で立ち上げまで任せられているとのことですが、6社ご経験された中で、ご自身のキャリア軸などもあったのでしょうか?

ファッションにおいてもフェミニンや韓国系スタイルなど、あまりジャンルにこだわりは持っていなくて、自分のファッション業界での経験を多岐に渡って使っていきたいという想いの方が強かったです。

NANA:ALAND JAPANがオープンして1週間ほど経ちましたか、構想を練られたのはいつ頃だったのでしょうか?樋口様が携わられた経緯も含めてお伺いしたいです。

僕自体が担当になると聞いたのは去年の年末でした。事業をアダストリアがALANDと取り組むとなったのも、丁度その1ヶ月前くらいですかね。11月くらいに話が浮上して、そこから年明けに本格的にスタートしました。

NANA:緊急事態宣言も溶け、ある意味オープンに良いタイミングだったのでは……?

そうですね、ギリギリのタイミングではありましたが……。年明けは出張で韓国にも行っていたのですが、緊急事態宣言前の段階で話を進めていけたのはかなり良かったなと。

NANA:樋口様が多岐にわたるファッションのバリエーションに取り組まれてきた中で、どのようにそのノウハウをALAND JAPANに落とし込んでいるのでしょうか?

基本的に海外のブランドのライセンスエージェントがアダストリアでも初の試みだったので、社内のノウハウを活かせる場面が比較的少なかったように感じます。でも、アダストリアでもエレメントルールがセレクトメインで運営していますし、僕自身もバビロンで携わっていたのもあり、セレクトショップの運営という面では、不安は少なかったと思います。

NANA:なるほど。セレクトショップの運営の面では樋口様の経験も活かされたのですね。

でも、韓国にあるものを日本に持ってくるときに、マーケットのニーズや韓国で通用することが日本では通用しないみたいなことが結構あると思っていて、その話をオンラインだけで進めるのが本当に大変で……。オンラインや通訳さんを通してのコミュニケーションだと、絶妙なニュアンスや感覚を掴みとれないので、そこのやり取りは最初は大変でしたね。

NANA:他メディアの記事でも、基本的にALANDのスタイルを落とし込まれたと。ブランドの選定もALANDコリアに基軸して実施されていると仰っていましたよね。

そうですね。日本人向けというスタイルをあえてこちらから提案をしないという所に意味があるかなと感じていました。

NANA:樋口さんやアダストリアさんからの要望や希望等、どのようなものを伝えられたのでしょう?

それが突出して無かったんですよ。そもそもALANDのオーナーが立ち上げ時から大切にしているのが“鮮度と多様性”で。何かブランドを打ち出すとか、ALANDといえばこのブランド!とかではなく、品揃えをしっかり前面に出して、常に鮮度を保たれることが大事だと思っています。なので、“絶対に日本ではこのテイストが売れる”など、あえて言わないようにしていました。セレクトもALANDがイメージするブランドのチョイスでお願いします、というようにコミュニケーションを取っていましたね。

NANA:ALAND JAPAN店舗ではISTKUNSTやCovernatの打ち出し方が印象的だったのですが、ブランドの配置などにもこだわりを持たれていらっしゃるのかなと。店舗配置においては 何を重視されたのでしょうか?

ブランドセレクトと同じように店舗配置も本国のALANDからプランが届いています。そのプランに基づいたアイデアをやり取りして、ブランドの配置や店舗の並びも工夫しています。

NANA:逆に、ALAND本国(韓国)と日本との差別化要因はどこにあるのでしょう?

店舗スタッフですね。韓国では接客をしない、みたいなところが良くも悪くも印象的だと思うのですが……。韓国に行ったとき、いろんな方々に現地のALANDの印象を聞いたのですが、ALAND設立時や人気絶頂時は、販売員がすごくオシャレで、その人がアイコン的存在になっていたらしいんです。それが今のALANDに無くなってきているというのを全員が言っていて。なので、日本ではその時の雰囲気を表現したいと思っていますね。そう言った面では韓国との差別化というか、日本ならではの取り組みと言えるのではないかと思います。

NANA:具体的に、ALAND JAPANが店舗スタッフに求めたものは何でしたか?

セレクトするアパレルのジャンルも多岐に渡るので、個性の幅があること、それぞれジャンルの服を違和感なく着こなせることを重要視しています。ALAND JAPANという母体だけでなく、それぞれスタッフからも個性や着こなしを提案して行きたいですね。この方針は本国からも好評だったようで、改めてやって良かったなと思います。

NANA:韓国のALANDにとっても初心を改めて実感する機会になったかもしれませんね。樋口さん自身、ALAND JAPANに携わることで韓国ファッションへのイメージ等変化はありましたか?

もともとバビロンを担当していた時、コレクションや展示会のシーズンになるとNYやロンドン、パリなどを訪れていたのですが、現地での韓国ブランドの取り扱いが増えてきているなという実感はありましたね。セレクトでも韓国ブランドの取り扱いが増えていたので、一定のレベルでは注目はしていたんです。ただ業態の担当になった時に掘り下げると、韓国ファッションはコストパフォーマンスがめちゃくちゃ良いなという魅力に気づきました。
デザインに関しても日本人は俗に言う右へ倣えで、トレンドやブランドも似通って来る。一方韓国は、ブランド毎の独自価値を大切にしている印象が強いです。その個性が強いからこそ、海外でも着目されているのかなと。

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NANA:それを踏まえた上で、樋口さんが思う日本のファッションシーンに必要なものとは?

やはり、ブランド毎の差別化ですかね。正直それってかなり難しいです……。差別化を測ろうとして新しいものを作ると売れなくなったり、売れるようにすると没個性になったり。
今回、日本人がなぜ韓国ブランドを選ぶのか考えた時に、論理的には説明出来ないのですが、みんな口を揃えていうのは「日本には無い」なんです。僕からしたら「どこが違うの?」というところも、ファンから見るとそれぞれ差別化ができているんですよね。

NANA:なるほど、感覚の世界というか……。

そうなんです。それって論理的に理解するんじゃなくて、お客様から見たビジュアルなどの差別化の測り方が韓国ブランドは上手なんだなと。どこで何が売れて何が流行っているのかというより、お客様にどう着こなして欲しいか、どう見えるようにこだわって作るかとか、ワンポイントでもお客様に他者との差別化を分かってもらえるようにプロモーションをかけることが重要なのだと思います。

NANA:そうですよね。また差別化の背景の1つでもある、現地カルチャーとの密接な繋がりも重要ですよね。ALAND JAPANがそういった日本の背景を変えるきっかけになって欲しいなと思います!

【樋口和之】

1977年生まれ、2013年にアダストリア中途入社。
入社時はバビロン営業部にてMDを担当。その後バビロン営業部部長を経てALAND営業部部長に就任。
現在、ブランドの責任者として全体を統括。