【連載:アジアンストリート】Klosetが6年間無収入からタイの代表的ブランドに成長した訳「ロイヤリティが形成しずらいマーケットになった」

アジア各国のファッションディレクターに、ローカルな人気スポットやその国のストリートファッション、HIP HOPの実情を、SIXTYPERCENTのブランドディレクター Nanaが探る連載企画。感度の高いデザイナー達が集うローカルカルチャーから、アップカミングなアイコン達を探ってみよう。
今回はタイ・バンコク発のファッションブランドKlosetから、創立者のMollikaが登場。

NANA こんにちは!初めまして。バンコクのコロナの状況はいかがですか?

Mollika : ほぼ回復。と言った所ですね。バンコクはそれよりも今民主化デモがさかんに行われていて、そちらが大変です!自分が若かった頃と違って時代も変わっているので、これまでの王政に対する国民の不満が溜まって暴動が起きていますね。タイのビックイシューになっているんですよ。

NANA : そうなのですね。SNSもあるのですぐ若い世代に拡散される事も起因しているようですね。

Mollika : そうですね、今の10-20代は国王に大して元々距離がある存在だと思っていたので、尚デモを加速させるようになっているようです。インタビューと話の趣旨がずれてしまいましたが……。

NANA :いえ!説明いただきありがとうございます。今回は『アジアンストリート』という連載企画のインタビューになります、バンコクのデザイナーさんはこちらで3人目となります!ご参加いただきありがとうございます。まずはブランドのご説明を聞かせてください。

Mollika : ブランド名はKlosetと言って、ちょうど創業して18年になります!NANAから質問を受けて自分でもびっくりしました……18年も立つのか!という感じで(笑)。ファッション業界で働いた経験はないのですが、10才から自分で服のリメイクにハマっていました。私の家族は不動産業を営んでいるので、自分の血筋に「ビジネス力」というのは備わっていたのではないかと考えています。なので自分はファッションデザイナーというよりは、起業家というスタンスに近いですね。Klosetを18年以上継続して維持できているのは、デザイナーとしての力だけではなくビジネス側での知見もあったからだと考えています。因みに大学では、政治経済学を学んでいました。

NANA : ビジネスから政治、ファッションまで多岐に渡る知見を培っていらっしゃるんですね!

Mollika : そうですね!というのも自分はマネージングディレクターなので全て対応できないといけなくて大変です。最初は五人のスタッフでスタートしたKlosetも今は100人のスタッフが働いています。

NANA : 100人ですか!タイでもかなり大きい規模のブランドですよね。

Mollika: 常にステップバイステップですけどね。最初は自分と妹の2人でブランドを立ち上げて、彼女がセールスを担当して、自分が生地の調達やデザイン側を対応していました。昔が懐かしいです。写真を1枚印刷するだけでも、コピー機に向かう為階段を上がって下がって繰り返して大変だった記憶があります(笑)。

NANA : ブランド名はどう名付けたのでしょうか?

Mollika : Klosetは =CLOSETとKを合わせた造語です。自分たちの服が色々な人のクローゼットに入ってほしいという願いのもとクローゼットという単語にしました。また自分のニックネームと妹の名前の頭文字がKから始まるので、CLOSETのCをKに変えてみました!それが結構しっくりきて、そのままブランド名になったのです。

NANA : なるほど。先ほど10才からファッションに興味があったということでしたが、ビジネスは大学卒業後に始められたんでしたっけ?

Mollika : そうですね。学士を取るまでは自分がどの領域で仕事がしたいのかがまだ分からなかったのですが、学士をアメリカで取得しているのでアメリカでの生活で何か得る事ができるかなという期待がありました。でも、アメリカで気づいたのは自分がやはり買い物好きだということでしたね(笑)。同じアイテムを3つ買ったりするくらい衣服を買うのが好きで。
ただ、最初は買い物が好きなだけなのかな。と思っていたのが、だんだんそのアイテムのパターンの作り方だったり生地に興味をもって学び始めるようになったのです。そこでこの業界に情熱を持っているんだな。と自分で感じた瞬間でした!

Nana : パターンを知るために服を買うようにするようになったと。

Mollika: その通りです。あとはアメリカ中のファッション雑誌を買ったりしていましたね。ただ卒業後は父の不動産業をサポートしたんですよ。2年くらい働いていましたけど、毎日早く帰りたくて昼3時には時計を見る生活をしていましたね(笑)。なので父にはもう仕事をやめて自分でファッション業を営みたいと伝えたんです。ただ問題が母親で。なぜなら母親はファッション業界でのビジネス立ち上げの経験があったんです、しかもこの業界でビジネスとして成り立たせることはできなくて。なので最初は反対でしたね。やっとのことで親も説得してビジネスを立ち上げたのですが、最初の6年は一円も稼げなかったんですよ!

Nana : 6年ですか!?1円も!?

Mollika : そうですよ、自分の車も売らなきゃいけないし、家族からお金を借り続けてギリギリまでブランドを維持し続けました。スタッフも5人いましたからね。

Nana : そこからどのようにして売り上げを立て始めたんですか?

Mollika : マーケティングに集中しようとなって1番最初に始めたのはVIP・芸能関係者にディスカウントクーポンを発行すること。でもディスカウント分も全て自分の手持ち金でカバーしていたんですよ、信じられますか!?

Nana : すごいですね!もはや映画レベルの話ですよ……。6年キャッシュが入らない状態でビジネスを継続するという意志の強さが感じられます。

Mollika : 6年目になると「Should I Stop, or Should I continue(やめるべきか、つづけるべきか)」を常に自分に問いかけました。でもやっぱり後悔はしたくなかったんです。なので続けることにしました。

Nana : もう少しお伺いしてもいいですか?どうやって6年後、急成長を遂げることになったんでしょうか?

Mollika : サイアム地区にあるデパートメントストアに店舗をおいたのが成長の第一ステップでしたね。店舗をおいたタイミングで1,000コピーのカタログを作って配ることにしたんです。ただ当時はカタログ印刷が今程安くなくて、1コピーで600バーツ(約2000円)くらいの価値になってしまったんです(笑)。当時一番有名だったモデルを起用したからなんですけど、バズを起こす為にカタログに巨大なPR費用を投じることにしました。ただこれが大成功となるきっかけとなって、その当時有名だったタイの5ブランドの中に入るようになったんです。

Nana : なるほど!カタログマーケティングと合わせて、Klosetのアイテムの良さが絡み合ってうまくいったということですね。

Mollika : そうですね。生地もKlosetは通常使用されていない特殊な生地を使うようにしていました。高品質で刺繍をいれたハンドメイド製品が多いので、タイ人の市場に対してはかなり高い販売価格になりましたが、この販売価格で通すことにしました。

もう一つ成功要因があったのですが、Klosetオリジナルの「スカーフ」を作った事ですね。スカーフであれば大学生も購入できる金額だし、Klosetのスカーフをどこにつけることもできますからね。スカーフを販売開始し始めた時は店舗に500〜1000人くらい並びましたよ!

Nana: 本当ですか!でもスカーフはナイスアイデアですね。Klosetの商品を集めたくもなりますし、Klosetの生地感を伝えることもできますよね。

Mollika: それが目的でした。コレクターになってもらうにはどうしたら良いか。という事を考えた上での「スカーフ」展開だったので、この段階でスカーフだけで2-3年は儲けました。今の時代はスカーフは使用しないので売れていないですけどね(笑)。その時のお客さんが実際に何が欲しいのかというのをしっかり顧客の立場に立って考えるようにしていましたね。

Nana : 今Mollikaさんはデザイン・マーケティングと合わせてファイナンスや経営の方もしているんですか?

Mollika : ファイナンス周りはパートナーが行っています。自分の1店舗目の隣の店舗オーナーだったんです。その時はお互いにビジネスがあまりうまくいっていなかったんですけど、その人を引き抜いてデザイナーになってもらうことにしたんです。今は100名のスタッフのトップに立って、デザイナーのコントロールもしてくれています。

Nana : この規模になるとパートナーの存在もとても大切ですよね。タイのマーケットについてお伺いしたいのですが、立ち上げの時代からタイのファッション市場はどのように変わったと思いますか?

Molllika : ブランドの立ち上げは正直毎年難しくなっていると思います。PRがしやすくなったという意味もありますし、過去のブランド権力構造は本当に変わったなと思いますね。ロイヤリティが形成しずらいマーケットになったと思います。

Nana : タイはブランドを立ち上げやすい環境だというのも理由にありますね。

Mollika : そうですね。あとは海外の市場も同時にみなければいけないくらい供給過多なので、海外のプライシングに沿った展開をどう考えられるかというのも大切ですね。今はコロナ禍というのもあるので、タイだとGUCCIやルイヴィトンでさえもバーゲンをしたり10代のインフルエンサーにアイテムを提供したりしていますから、プライシングが崩壊しているなと思っています。タイ人はディスカウントに対して意識がかなり高いので、Klosetの店舗にきて新作に対して「これはディスカウントはしないんですか?」みたいな事を言ってこられる人もいたり(笑)。

Nana : バウチャー文化がありますよね!日本人はそこまで割引にこだわりはないように思います(笑)。

Mollika : 日本とはだいぶ違いますね。今はタイブランドはディスカウントをしないと状況が厳しいので若干ダウントレンドですが、早くコロナが終わって市場が元に戻ってくれるといいなと思いますね。

Nana : 最後に、Klosetの成功の秘訣を教えてください!

Mollika :そうですね、情熱を持つというのは勿論ですが 、新しいアイデアを幸せに感じながらトライしていく、ということではないでしょうか。とにかく自分が幸せでないと、ファンを喜ばせるものは作れないと思います!

【Kloset(クロセット)】

2001年からスタートしたタイ・バンコク発のブランド。ハンドメイドのフラワーモチーフや、繊細なレース使い、チュールにモチーフで装飾したりビーズやアップリケなどを使用してディティールにこだわった、フレッシュでエキゾチックな雰囲気が人気を博す。