【21Questions】Kojoeに聞いた21の質問「“Kojoe”のキャラを脱ぎ去って、歌だけの作品を作りたい」

完全インディペンデントなスタイルを貫き通し、孤高のラッパーとして特異な存在を確立したKojoe。近年はプロデューサーとしても頭角を現し、自身の特異なスタイルとフラットなシーンを築き上げる。今回は、柔軟に日本のヒップホップ界に揺蕩うKojoeに21の質問をお伺いした。シックな印象とは裏腹に、温もりに満ちた愛、そして制作への熱意に溢れる彼の根源に、共に心打たれて欲しい。

Q1:まず最初に、音楽自体に興味を持ったきっかけは何でしたか?

もともと歌うことが好きだったんだよね。8つ離れた姉貴も歌が大好きで、だから、ガキの頃から歌うことが結構好きだったのかもしれない。そこが音楽の始まりかな。

Q2:なるほど。幼少期はスキーでオリンピックを目指していたとお伺いしました。Kojoeさんの夢が変わり出したのはニューヨークに行ってからですか?

そう、向こうに行ってからだね。最初の2年間はスキーの推薦でバーモント州の学校に通って。学校が始まる前の期間で、先にニューヨークに住む姉貴のところに行ったのがターニングポイントかな。

-その時にお姉さんの彼氏さんにお会いして、クラブなどいろいろな場所に連れてってもらったと。

あれが結構運のツキだったよね。その時点でニューヨークにめちゃくちゃくらったから。

Q3:当時のニューヨークでKojoeさんが感じたこととは?

ニューヨークには沢山の人種の人々がいるのと、あとはゲットーみたいな日本には無い場所だったり、一方向な音楽のカルチャーだったり。Hip Hop云々の前に、ニューヨークの熱量がすごかった。「何だここ」って、異世界だった。

Q4:因みに、日本帰国の決定打は何だったのでしょうか?

日本から何個か誘いが来てたのが理由かな。アメリカでのアルバムを見てくれていた人が直接会いに来てくれて、「日本で活動しませんか?」って言ってくれたしね。自分は日本人だけど、周りに黒人しかいないゲットーにいたから、俺も自分のことを黒人だと思ってた。最初のうちは彼らも他所者を排除するけど、受け入れたら愛が深いコミュニティたった。転校も多かった分、長くいたニューヨークがホームみたいな感覚でいたけど、俺はどう考えても日本人だから、日本で活動したい想いは強かったかな。だからタイミング的にはよかったのかな。その時帰らなかったら、その先日本には帰ってないと思う。

Q5:他インタビューを拝見して、「邦ラップでは英語詩を受け入れる柔軟性がなかった」というのが印象的でした。そこから今への変化をどの様に捉えていらっしゃいますか?

確かに柔軟性は少なかった。でも、ここ5、6年ですごく変わったと思うな。俺も多少は貢献できてればいいなって思うよね。今はかっこいい英語を使える人が確実に増えたと思うし、特に10〜20代の若い子達が、“日本語ラップ”と意識して聴いてない子が多いというか。自分がいいなと思うものをフラットに分け隔てなく聴くようになってきたのかな。

Q6:その上で、Kojoeさんは日本のHip Hopの世代感をどう捉えてますか?

年齢関係なく、イケてるやつしか見てないから、あまり気にしてないかな。でも、全然動いてない(リリースしてない)人が上位に居続けて「若い人はこうだ!」って言うのはリスペクトできないよね。
Hip Hop関係なく歳を重ねても動いてる人達に会ってみると、皆んなすごくフラットなんだよ。年相応に、その人なりの進化を遂げている人はかっこいいなって思う。それは若い人でも同じだよね。

Q7:遊ぶ感覚で曲を作ったり、楽しい人とつるむというお話を拝見したのですが、Kojoeさんが「こいつは面白いな」と思うポイントは何ですか?

うーん……、基本的に波長が大切かな。やっぱり、相性ってあるじゃない?相性合わなくても、こいつちょっと面白いなって人もいたりはするけど。そういうパターンもあるから、なるべく人の見方のルールは作らないようにはしてる。

-無意識のうちに感じるものがあるんですね。

そう、そこは売れてる売れてない関係なく、面白いやつは面白い。数字持ってるやつが必ずしも私生活が面白いかというと、そうでもない事もあるし。生き様が面白いやつ、喋ってて面白いストーリー持ってるやつとは仲良くなることが多いね。でも基本はあんまり気にはしてないかな。自然体だね。

Q8:約10年前に日本に戻ってこられて、ニューヨークにいる頃から今までにかけて音楽の聴き方や感じ方は変わりましたか?

懐は深くなったんじゃないかな。帰ってきた時はバイリンガルに対しての向かい風を感じてて、反骨心と食わず嫌いで聴かないのも結構あった。
本当だったら呼ばれていいイベントに俺が呼ばれてなかったりとか、そういう向かい風を感じて、「はぁ?お前らゲットーっていう、ブラックミュージックのコミュニティにいなかっただろ?」って思ってたの。俺も無意識のうちに優越感というか、驕りが多少はあったんだよね。

まあ、人間は鏡って言うからね。向こうが負のバイブスを出してきたら、こっちも負のバイブスで対応しちゃう、そういう壁を作る時期はあった。いくら歌ってもお前らには分からないでしょって。今は、言葉を操る人たちとして、みんな凄いなって思う。優れている人が沢山いる事を見せつけられたから、そういう意味では音楽も心を広くして聴けるようになったかな。

-それは、プロデューサーとしての見方も合間って?

あるある。ここ3年でプロデュースするようになって、その見方が強くなったんじゃないかな。否定から入らないというか。上手くなって良いものを作りたいって根本の思いが一緒だったら、それを後押しする役になってもいいなって。

Q9:Kojoeさんは大衆に向けた工夫や意識はされてますか?自身のアウトプットとリスナーの評価、そのバランスはどのように取られているのかなと。

みんながそうか分からないけど、そのバランスと戦いたいって常に考えてると思う。マスにウケるように分かり易くするのも大切だろうけど、ずっとHip Hopやってきたからには良いものを提供したいって皆んなに思っていて欲しいな。俺の場合は、マスにウケるために工夫するって事はしないかな。
でも、ニューヨークにいた時に、「強さ」や「自信」って色気に繋がるんだっていうのをすごく感じたから、それがあったらテンション上がるなって想像して曲作りはしてる。リスナーが喜ぶような楽曲を作りたいと思って、それで『BoSS RuN DeM Feat. AKANE & Awich』を作ったり。あれはある程度マスに届いたかな……、とは言っても結構コアな方で、本当の層まで届いてはいないと思うけど。

Q10:コラボの際も、ルールを作らずに制作を実施しているのでしょうか?

そうだね、ルールは無いね。その人と俺の間(ま)が合えば瞬発力で作ったりもするし。それこそ『here』は、音楽のジャンル関係なくその時の瞬発力で作るスタイルが多かった時のアルバム。

-今の制作に対するマインドはどうでしょう?

どうしても歌を歌いたい、ピアノ弾きたいって気持ちがずっと強くあって、そこへの意識が今は強いかな。時間の余裕だったりが無くてずっと伸ばしてきたけど、どっかのタイミングでは絶対やりたいなって思ったたんだけどね。やっと、タイミングや出会いが重なって、歌のアルバムをしっかりで作ってみようって決心ができた。それを作るのは、どうしても沖縄が良いっていう気持ちがあって。

-沖縄には自分のアウトプットができる余白があるのでしょうか?

そうだね。歌やピアノになると、Hip Hopとはまたマインドが違うじゃない?もう少し裸にならないといけないというか。だから沖縄にスタジオを作ることにしたんだ。

Q11:ビートテープメインのJoe’sシリーズを4作出されていますが、その思惑はなんでしょうか?

ちょっとした修行だよね。短期間でアホみたいに作って、出せるもんは出しての繰り返し。普通の人が5年、10年かかることを1年でやってやろうっていう、これが修行だったんだよね。今年も最後に1枚、Joe’sシリーズを出すと思うよ。

Q12: 『23』は原点回帰とありますが、このタイミングでの原点回帰というのは修行を重ねて何か見えたという事でしょうか?

基本、俺は流行りに乗るのは嫌いだけど、流行を否定はしない。そのとき流行ってるものは若い奴らが中心で、そいつらの青春なわけで。その中で生まれて、心が動いて、どんどん空気感やオーラをまとっていく。そこには普遍的なものがあるんじゃないかなと。そういうところを、自分自身が進化するための栄養としてサンプルしてるつもりかな。
『23』は、最近のアルバムとは空気感が違ってソウル強めなんだよ。そもそも俺はそっちが好きで、10代の時から9割R&Bとソウルしか聴いてなかった。でも俺自身はずっとHip Hopでゴリゴリのラップしてるんだけどね。歌だけでやるのは恥ずかしかったんだよ。Hip Hopやってて、ニューヨークのゲットーに住んでた“Kojoe”のキャラに俺自身が合わせてたところもあったと思うし。でもそれを脱ぎ去って、歌だけの作品を作りたい気持ちがずっとあったんだよね。

Q13:プロデューサーとしてのKojoeさんとアーティストとしてのKojoeさん、インプットやインスピレーションにそれぞれ違いはあるのでしょうか?

あんまり変わんないかな。どちらにせよ、ただデータをやり取りする楽曲制作は面白くないなって最近思っちゃう。直接会って一日時間を過ごして、出来る時にやるみたいなのが良いよね。

-Rudebwoy Faceさんとフィーチャリングされた『it’s all duece』も1日で作られたとおっしゃっていましたよね。

Rudebwoy Faceと昼飯食ってダラダラして一緒に話して、夕方にビート選んで、公園行って歌詞書いて、飯食って戻ってきて、録って、次の日MV撮って。なるだけ、最初の心のセッションというか、お互いの空気感を最近は大事にしてるかな。そっちの作り方の方が良いものができるって今年は実証されすぎちゃった。瞬発力でバンバン作れるし、俺もそれが得意なんだと思う。

Q14:どんなジャンルでも大丈夫です。Kojoeさんのこだわりを教えてください。

“ルールを作らない”ことかな。ルーティーンはあったりはするけど、自分の慣れてないことをあえてしてみたりもする。洋服でもそうだけど、カッケーってなったらコンビニでも買っちゃう。自分の気に入ったものを着たり、気に入ったものしか聴かなかったり、こだわりを強く持ってるからこそ、こだわりをなるだけ無くす。常にフラットでありたいよね。

Q15:因みに、最近ハマってることはありますか?

曲作り(笑)。ずっとハマってるよ。

-曲を作らない日や音楽に関わらない日はありますか?

あるよ、ダラダラしてる日もあるし。でも頭の中では、近々で作りたい曲のことを考えてたりとか。曲作るの早いって言われるんだけど、曲作りに向き合ってる時間が圧倒的に長いから、俺の体感的にはめちゃくちゃ時間がかかってる。その1曲が完成するまでずっと考え続けたりするからね。めちゃくちゃ考えた上で納得するものを作れないときの、ストレスは凄いけど(笑)。

Q16:「夢の中でずっと流れてる曲を再現出来ない」とTwitterで呟いていらっしゃるのを拝見しました。捉えている音を再現出来ないのもストレスがかかりそうな……。

そうそう、20年前くらいから見てる夢なんだよなぁ。絶対同じ曲が流れるんだけど、再現出来ないんだよ。でもだんだん試して行くうちに、夢の中の曲に近づいてるなという感じはあるかな。

-その曲が再現される日が来るかもしれないのですね!

やばいよね。そんなん出来たらすごいけど、夢と同じ音にはならないだろうな……。

Q17:曲を出した後にリスナーの反応は見ますか?

意見として、反応の確認程度で見たりはする。面白いこと言うやつもいるし、的を得ている奴もいるけど、中には普通に文句言ってるだけのやつもいるからね。初動はチェックするけど、そこまで影響は受けないかな。

Q18:オーストラリアやニューヨーク、各国でステージに立たれてきたKojoeさんですが、観客の嬉しい反応はありますか?

海外でも日本でも、俺が刻むリズムがイケてると思って盛り上がってくれると、分かってくれてるんだなって嬉しくなる。そこは動物の勘というか、海外の人の方がその反応が素直に返ってくるかな。言葉は分からなくても、リズムでテンション上がってくれるから、そもそもの耳が肥えてるのもあるよね。

でも、“静か=場を盛り上げられていない”のはちょっと違うから、そこは気にしないようにしてる。お客さんは声出さないけど、フロアに全員バッチバチにいてずっと動かない状態みたいな経験もあったから。別に声出してないから観てないわけではないんだなって。

Q19:因みに、印象に残るステージはありますか?

ありすぎて困っちゃうな……。全部好きかな。大人数のステージもあれば、10人くらいしかいなかったけどボルテージが最強に高かったところもあるし。舞台がでかいから優れてるってわけではないからね。やっぱり、全部面白いね。

Q20:歌唱やピアノの楽曲を増やして行くと仰っていましたが、ジャズやR&B要素がより強くなるのでしょうか?

ソウルやR&B、ゴスペル、ジャズのコード感が大好きだから、そういうのを学んでいきたいなと。その中で自分ができる曲、作れる曲を作って行きたい。

Q21:歌唱やピアノメインの楽曲は、まず何から取り組みますか?

とりあえず、自分の好きな曲をピアノで弾けるようにして、2、30分のピアノだけのセットを作りたいなと。それで、来年のどこかのタイミングで、流しじゃないけど、街のピアノがある場所にいきなり訪ねて、「今日ここで歌わせてください」っていうのをやりたいな。物販とかも持って行って、SNSで「今日ここで歌いますー」って宣伝して。お客さんは5人とか10人とかかな、たくさん来る事もあるかもしれない。とりあえずピアノができるようになったら速攻現場で使いたいね。今はライブも少ないし、来年になってもフル稼働にはならないと思うし。

-大きい箱だと、尚更そうですね。

だから自分で赴いちゃった方が早いなって。あとは現場で練習するのが一番手っ取り早いからね。っていうのを企んでるから、2021年の夏までにアルバム終わらせて、その夏前か春中に出せれば最高かな。

-めちゃくちゃ楽しみにしてます。それまでにも楽曲を発表されるんですよね。

11月中には5、6年前に録った未発表曲を出すかな。『23』出した時のイケてる曲が5曲くらい未発表だから、それをまとめた12曲くらいのアルバムも12月頭に出そうかなって。Joe’sシリーズもまだまだ3個くらい出るよ。
あと、MuKuRoのアルバムも制作中だから、楽しみにして欲しい。東京、大阪、沖縄、1枚を全国で録るって良いよね。

【Kojoe】

新潟生まれ、NYクイーンズ育ち。07年にNYのインディペンデント・レーベル、RAWKUSと契約し、コンピレーション『Rawkus 50 Mixtape Vol.1』に参加するもその後にRAWKUSが閉鎖。09年に帰国後は英語と日本語をミックスし、ラップと歌の二刀を使い分けた高いスキルのラップ・スタイルを武器に数々のアーティストと共演するも、完全インディペンデントなスタイルを貫き通した孤高のラッパーとして日本のシーン内で特異な存在を確立。同業者からも圧倒的な支持を受け、様々なレーベルから様々な名義で作品をリリースし、近年はOLIVE OILや5lackとのリンクで新たなファン層を広げているバイリンガル・ラッパー。

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