【21Questions】水溜りボンド カンタに聞いた21の質問「選択肢の中から 本質が見えてくる」

先日、秋山黄色の新曲「サーチライト」のMVが公開された。現社会の混沌を多彩な色と共に投影した本作品を手掛けたのは、水溜りボンドのカンタ。ポップな企画が老若男女に愛されるYouTubeから、繊細な瞬きを描写したアーティスティックな作品まで、彼が織りなす映像の根源についてお伺いした。この21問で広がる、映像作品への空想と各々の余白を楽しんで欲しい。

Q1:初めてカメラを手にしたのはいつですか?

テレビ局のプロデューサーが先生として来ている大学のゼミがあって、そこに入るための選抜試験で“カメラを渡すので何か撮ってきてください”ってマンガみたいな試験を課されて(笑)。“映像でも何でもいいから、今日中に作品を提出してもらってそれで審査します”って。カメラに触れたのはその時が初めてかも…。ちなみにそのゼミには無事受かりました。

Q2:いわゆる初めての作品となるわけですが、その時は何を撮られたのですか?

当時、お笑いサークルに所属していたのですが、そこでやっていたコントを映像作品っぽく撮った気がします。学部もゼミも、大好きな映像を学びたいからという理由で選びました。元々は撮る側としてではなくて観る側として映像に興味があったんですよね。

Q3:そこが水溜りボンドの映像クリエイターとしての芽吹きだったわけですね。YouTubeを始めた頃のエピソードを教えてください。

昔動画を撮る時は、椅子を背中同士でくっ付けてそこにカメラ置いてたんですよ、三脚を持ってなかったので。なので、昔の動画見ると画角が不自然に斜めってるんですよ(笑)。動画を観てる方からしたらその雑さが、“こいつら適当にカメラ置いて撮ってるだけなんだな”っていう演出になってたみたいです。狙ってやってたわけじゃないんですけどね。

Q4:以前みのミュージックさんとの対談を拝見した際に、芸術やアートに対しての意識が変わったということをおっしゃっていましたが、今回のMVや音楽的な面にも、その変化が反映されているのかなと。

動画でどんな企画をするとか、YouTubeを続けるために必要なこととか、毎日あらゆることについて考える時間が結構長くて。その間に芸術っていうジャンルが入り込んで来るきっかけがあったんです。音楽を聴く時に、初めはメロディーが好きで聴いてて、次に歌詞聴くようになって、ベースラインが良いなとか、段々と解像度が上がっていく感じがあるじゃないですか。そういう感じで僕も芸術的なことへの解像度が上がって、挑戦したいなっていう感情が自然に湧き出て来たんです。

Q5:今回、秋山黄色の新曲「サーチライト」にて、MV監督に挑戦されていますよね。監督としてのカンタさんの制作スタイルには、何か意識があるのでしょうか?

監督として今まで5〜6本の動画を撮影させていただいたことがあるんですけど、監督はキャストやスタッフの方々を最前に立って引っ張っていかなければいけない立場なんです。なので自分がこれをどういう意味合いで伝えたいかとか、そこにどういう意味があるかっていうのは製作陣としっかり共有します。それらをベースを据えつつも、映像の解釈は観る側に委ねるべきだと思っています。秋山くんの楽曲なので、ちょっとでも良い方向に色付けれたらなぁと。

Q6:本作は芸術性に重きが置かれていて水溜りボンドの普段のYouTubeのポップさとは相反的であるように感じます。YouTubeと映像作品の棲み分けやインプットの違いはありますか?

YouTubeに関して言うと、YouTubeは6年前から毎日アップしているので、もう2000日くらい投稿し続けていることになるんですよ。一見なかなかのハードワークに思えますけど、日々そう感じているわけではないんです。簡単に言ったら、100本日常動画を撮ったら、1本くらい別軸のアウトプットをしたくなる事があるんですよ。人って楽しいことがあれば嫌なこともあるのが当たり前だと思うので、そういう関連性と同じようにMVと企画動画も存在しているんだと思います。だから僕の場合はYouTuberとして6年やってきて感じた諸々がMVに落とし込めていたりするのかな。

ー別の軸の動画から蓄積されたものが表現されていくという。

そうです。ポイントが溜まってってそれでカメラが買えた、みたいな。

Q7:影が大きく映し出されたり、アクリル板が鏡に変化したり、大量のコードが巻きついたダンサーが踊っていたり…。印象的なシーンが多いMVに仕上がっていますね。

今回のMVは、背景にネットに関するストーリーがあるんです。だからコードがたくさん巻きついてたりするんですよ。もうちょっとお話してしまうと、サーチライトに照らし出されてできた人影は、ネットが作り出す実態のない虚像を表しています。ネットでは普通の人があたかもすごい人かのように提示されていることが多く見受けられますよね。僕もネットを見ていると虚像を感じることが多くて、自分のことさえわからなくなってしまう瞬間があったりします。

Q8:MVとYouTube、映像作品として共通している部分、そうでない部分は何ですか?

今ではスマホで撮ってるYouTuberもたくさんいますよね。スマホで撮ると写りがアットホームな感じがするじゃないですか。でも、MVでざらついた映像撮る時には絶対意図があってのことだし、斜めってたら斜めってる理由がなきゃいけないし。MVを撮る時には節々に様々な“理由”が散りばめられているっていう違いはありますけど、人に何かを伝えるっていう本質的な部分は共通していますよね。

Q9:動画制作への意欲に変化はありましたか?

MV監督を経験したことで、YouTubeの楽しさを改めて振り返ることができたのも良かったですね。

Q10:MV監督への挑戦はご自身のYouTubeには今後どのように影響しそうですか?

今回秋山さんと共作させて頂いたことで生まれたこと、感じたことをYouTubeで活かすことはもちろん、先ほど言ったようにYouTubeからMVへ相互作用させていけるのが一番の理想ですね。例えば、動画を100本撮った時に総じて感じたことからMV映像を作ったり、そのMVを撮っている時に感じたことをYouTubeでの基盤にしていくというような感じです。

Q11:ラジオやTV出演、オフラインイベントなど、YouTube以外での活動も活発な水溜りボンドのお2人ですが、動画以外の活動から動画制作に活きてくるものがあると。

たくさんありますね。持たせていただいてるテレビやラジオの冠番組などの実経験からも、場面場面に応じた言葉や振る舞いを選びとって使うべきだって学びはありました。例えば、街ぶらのロケをする時に、こういう喋り方の方がテレビ観てる人にとっては安心感はあるけど、それをYouTubeでやっても面白くないなってこともあったりとか。他にも、MVを撮る時に高価なカメラをクレーンで引いて撮影したら自然な動き見えるけど、別にユーチューブではやる必要ないよなとか。だから、経験から得た選択肢の中から消去法で本質が見えてくる感じはありますね。これはこっちの方が適してるし、これはこっちの方が良いって。

Q12:先程音楽に対しての解像度のお話が出ましたが、活動の幅が広がった上で映像のアウトプットの解像度も高まりましたか?

その解像度で言ったら僕らのYouTubeではめちゃめちゃ解像度が高い必要はないんですよね。むしろ突き詰めていない。例えば画質の面では、心霊スポットを赤外線のカメラで写すと全てが鮮明に見えてしまって逆に怖くないけど、スマホみたいに荒い画質のもので写した方が怖かったりする。あるいは内容の面で、撮影する時に影の写り込みを気にしてる方が柔軟性が無くなって、映像として面白くなくなってしまう、とか。YouTubeではそんな感じですけど、MVを撮る時にこれらの常識が通用しないことはありますね。

Q13:YouTubeのコメント欄や作品への反応、カンタさんならではの向き合い方があれば、教えてください。

自分の中であんまり言われたくない耳の痛いコメントをもらうこともあります。“最近こういう企画多くない?”っていう一言とか。そのことも自分で実は気づいてたりするんですよね…。逆にあまり再生数が伸びない動画に、“最近新しいチャレンジしてるよな”っていうコメントをもらって救われることもあります。匿名で気軽に投稿できるコメントとの付き合い方はちょっと難しいところですが、レスポンスを頂けることはありがたいことですよね。

Q14:友人や仕事仲間など、周囲にも意見を参考にしている人はいますか?

友人の意見もめっちゃ参考にします。何も気にしないで意見してくれるような、近しくて失礼なやつ(笑)。YouTubeを始めて2年目くらいに友人から、“なんか画面暗くない?”って言われたんですよ。ハッとしましたね。プライドもあって咄嗟に、“いや、画面暗い方が親近感湧くじゃん。”って言ったんですよ。でも、後から確かにな〜と思って。画面が暗くても、“まぁ良いや”でスルーしてたので、その力の抜き方は良くないなと反省しました。とは言え、力を抜くことも必要な場面はあると思うんです。力を抜くと部分としっかり考えるべき部分はうまく切り替えて対応していきたいです。動画をブラッシュアップさせてくれる友人のから意見は本当にありがたいですね。

Q15:SNSの投稿でも、丁寧な文章が印象的です。文章に対してのこだわりや意識はどうでしょう?

昔ほどラフには書けなくなったかもしれませんね、そこが今の文章の丁寧さに繋がっていると思います。動画を観てくれる方が多様化したので、先程お話したMVのサーチライトの光と影で言うならば、人によって僕の影がすごく大きく見えてる人もいれば等身大で見えている人まで様々いて。本当なら、僕は僕自身を大きく見せることはしたくないんです。なるべく等身大のままでいたい。良くも悪くも誤解されるのは嫌なので、等身大の僕が伝わるようちゃんと考えて書くようになりました。

Q16:なるほど。以前、水溜りボンドのお2人は、視聴者のペルソナを想定していらっしゃったんですよね。リスナーの層が広がり、そのペルソナも通用しなくなって来たと。自身の実像と視聴者がイメージする像、そのギャップはどのような場面で感じるのでしょうか?

YouTubeを始めたての頃は、Twitterで1人1人にリプしていたり、かなり距離が近かったのでそのズレを感じる事は無かったと思います。今ではYouTubeに加えてテレビでの視覚情報、ラジオでの声だけの情報と、発信する情報量が増えましたが、与えられた枠組みの中からの情報発信が多くなった分、どんどん人間味がなくなってるように見えてるんじゃないかなって。
僕も人間だから気分が上がらない日はあります。動画ではそれを隠し切るのではなく、そんな人間味もちゃんと表に出していたいです。それだけで終わるんじゃなくて、じゃあ次は頑張るよっていうのが全て視聴者に伝わるかというのも大切にしたいです。

Q17:因みに、普段はどのような音楽を聴かれていますか?

昔からの自分の強みはNGがないことなので、音楽も色々と聴きます。売れてる曲も好きだし、ふと流れている曲を聴いて、“これ良いじゃん”って思ったりもします。スタイリッシュな曲も意外と好きだったり。音楽に関してはジャンルに偏見はありませんね。
ビートルズの曲を聴くこともすごく勉強になります。僕もビートルズのように自分の表現の中で後世に遺るものを作っていきたいですね。

Q18:カンタさんの理想像や憧れはありますか?

多分野にわたって興味、関心がある人に憧れます。星野源さんも憧れの1人です。音楽も、演技も、ラジオもやられていて、星野さんみたいにその人の名前がついていたらクオリティーが担保される方っていますよね。仮に突拍子もないことをしてても、この人のだったら観に行こうかなってなるような。その人の多才なセンスに対してももちろんですが、ちゃんと苦しみながら作品を生み出している部分にも共感と尊敬の念を抱きます。僕の憧れの人には自然とそういう人が多いんですよね。

Q19:どんなジャンルでも大丈夫です。“こだわり”を教えてください。

YouTubeの動画編集は自分ですること、これは譲れないですね。それが大切だと思うので。自分の出演している動画を自分で編集して見せて喜んでもらうことが好きだから、自分でやらなくなったら楽しくなくなってしまう気がします。

Q20:カンタさんを見ていると、1つのアルバムの様ですよね。Official髭男dismのアルバムを例に挙げると、アルバムにはマス向けのポピュラーな楽曲も入ってるんだけど、全部通してよく聴いてみるとニッチで意外性ある曲も組み込まれている。なるほど、こうやってバランスを取って遊んでるんだなって。

ありがとうございます。そうですね、常に楽しんでたいですよね。やっぱり今の環境に慣れきってしまうと段々何も感じなくなると思うんですよ。美味しいものも毎日食べてたら、それで安定してしまって受け身になってくる。“それなら新しい料理に挑戦してみよう!”みたいに、見たことのない楽しいことを提案し続ける姿勢が大切だと思います。そうすれば僕たちを支持してくれる人達が集まってきてくれると思うので、その姿勢は今後も貫いていきたいです。

Q21:最後に、今後の展望をお聞かせください!

水溜りボンドのYouTubeを少しでも長く楽しんでもらえるように頑張っていきたいですね。自分も楽しめて且つちゃんと面白いなって思えるものを作りたい。ありがたいことに僕たちには僕たちを応援してくださる方々がたくさんいます。動画制作やその他の活動でも妥協はせずに、その方々にもこの先もずっと楽しんでもらえるような活動をしていきたいです。

Photographer:Maho Korogi
Interiew&Text:Ayaka Yoshimura
Edit:Sana Tajika

【水溜りボンド】

カンタとトミーによる二人組動画クリエイター。ドッキリ、実験、検証、都市伝説、料理など、視聴者の皆さんに楽しんでいただけるように、2015 年1 月1 日の活動開始以来、一日も欠かさず毎日動画投稿している。視聴者とのコミュニケーションを大事にし、ジャンルにこだわらず、限界を定めず、自然体でつくりあげていくスタイルの二人から、さまざまな”波形”が日々生まれている。