HIPHOPを牽引するYouTubeメディア“KAMAZOMBI#1”にインタビュー | 感受性が豊かな頃に好きだったアーティストは特別

日本語ラップを中心に音楽コンテンツを発信するYouTubeメディア「KAMAZOMBI#1」。月毎に「日本語ラップTOP30」を紹介した動画や隠れたHIPHOPの名曲をメドレー化した動画を投稿。特に人気の動画「再生回数の多い 日本語ラップTOP30」に至っては公式ではないにもかかわらず、再生回数95万回を数える。今回はメディアを運営するKAMAZOMBI#1さんに投稿を始めたきっかけや、近年のHIPHOPシーンについて伺った。

ーーKAMAZOMBIさんが運営するチャンネルは登録者数100万人を超える人気メディアとなっていますが、そもそもYouTube投稿を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

投稿を始めたのが6月で、ちょうどコロナの影響で家にいる時間が増えた時期なんです。その時に、学生時代に地元のやつらとラップをやってたことを思い出して。当時はHIPHOPが好きな友達が多かったんですけど、みんな大人になると聞かなくなっちゃって、今でも聞いてるのは俺くらいなんですよ。だから最初は地元のやつらにまたHIPHOPを聴かせるためだけに、始めた感じです。

ーー始めてみたら思わぬ形で動画が伸びたと。ちなみにKAMAZOMBI#1の由来は?

後輩から前に酔っ払うと「ゾンビ」みたいって言われたことがあるんですけど、苗字が「蒲田」なので、単純にその二つを合わせただけです。「#1」はKAMAZOMBIだけだと他の人と被っててアカウントが取得できなかったので。要は、まさかこんな取材されるとは思わなかったので思いつきです(笑)。

ーー投稿を始めてから6ヶ月の間に徐々に再生回数と登録者が増えてきた中で、コンテンツ内容の変化やご自身が改めて意識したことありますか?

最初は地元のやつに聴いてほしいと思ってただけですけど、やっぱり再生回数が伸びるともっと見てほしいって思うじゃないですか。だからよりわかりやすい内容やタイトルにはしましたね。

ーーたしかに「飯テロリリック」や「CMで使われた日本語ラップ」など、フックになる動画が増えてきましたね。

「ぶち上がるHIPHOP」とか「朝聞きたいHIPHOP」みたいな頻繁に見かけるまとめ動画でも再生回数はそこそこ獲得できるし、初心者の人には分かりやすいと思うんですけど、少しでもHIPHOPに詳しい人だったら誰でも知ってる曲ばかりなんですよね。だから自分で投稿するなら、そこと差別化できる動画を編集しようかなと。

ーーちなみに曲から企画を考える派ですか?それとも企画から曲を考える派ですか?

曲ありきですね。紹介したい曲があったら、その曲が持つ特徴から企画を考えます。

ーーKAMAZOMBIさん自身、YouTubeを初めて曲の聴き方に変化はありましたか?

あまり変わってないですね。普段は普通にYouTubeやSpotifyから曲を探して、雑多に聴いてます。今って探せばいくらでも良い曲って見つかるじゃないですか。でも案外中学の頃に聴いていた曲名が思い出せなかったり、どこを探しても見つからないことがあるんですよ。フックの部分だけ覚えてるけど、それすらも合ってるかわからないから探しようがない。これだけサービスが進化してるのに、そういう現象が起きるんです。だから同じように聴きたい曲が見つからない人が、自分の動画を見てそれを見つけてくれたらいいなって思います。

ーー動画の中で紹介されている曲は日本語ラップがメインですが、ご自身が昔聴いていた曲や今好きなのも日本語ラップですか?

実はロックやR&Bも好きなんですけど、そっちのジャンルだと自分よりも詳しい人がいるし、YouTubeって専門的なチャンネルの方が登録者を獲得できるんですよ。だから自分が何に詳しいかを考えた時に、日本語ラップだったんですよね。でも俺自身はUSラップばかり聴いていた時期もあるし、DJやってた10代の頃はテクノの方が好きだったので、その期間は全然HIPHOP聴いてないですね。

ーーコンテンツの性質や専門性を高めるために、選んだジャンルがHIPHOPだったんですね。

本当はもっと紹介したいアーティスがいるんですけど、それはHIPHOPの枠に入らない人なので需要がないかなと思って。

ーー中でも需要が高いコンテンツは?

俺のチャンネルだと20〜24歳くらいの登録者が多いので、フリースタイルブームの時期に出てきたラッパーの曲はやっぱり人気が高いですね。

ーー特に「CMで使われた日本語ラップ」「亡くなったラッパー10」はかなり再生回数が伸びてるじゃないですか。そういう人気の動画から見えてくるリスナーの層や趣向ってKAMAZOMBIさんが学生時代の頃と変わってきていますか?

正直、俺らの時代って不良やオタク以外の人は誰もHIPOHOPを聴いてなかったんですよ。聴いてたとしてもRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWみたいに本当に主流な人ばかり。ちょっと詳しい人でもZeebra、KGDRくらいかな。ゴリゴリのHIPHOPを聴いてるのは不良ばかりだったから、ライブとか行くとかなり怖くて。ちょうどANARCHYが出てきた頃で、本当は写真とかも撮って欲しかったけど怖くて言えなかった(笑)。

ーーたしかに昔はちょっとHIPHOPをやってる人って怖いイメージがあったかもしれませんね。

でも去年KOHHのライブに行って、久しぶりにライブ会場に足を踏み入れたらお客さんの層が昔とは全然違いましたね。今は普通に一般の方がフリースタイルのラッパーをきっかけにHIPHOPに興味を持つケースが多くて、例えばPUNPEEのようにポピュラーな方の曲を聴いている人が昔のアーティストにまで遡って聴いている感じ。俺は逆に、最近になってPUNPEEの曲を聴くようになったんですよ。そういう意味で昔とは曲の聴き方に差ががあるなって思います。

ーーメジャーなアーティストの客演で知るケースも増えたように思います。

あとは今の10代の子たちはトラップが好きですよね。まあ人それぞれなんですけど、コメントを見た感じそう思います。

ーーコメントをチェックされているんですね。

チェックはしてますけど、嫌なコメントはあまり見ないですよ(笑)。俺は曲を使わせてもらっている立場なので、俺自身というより曲に対しての批判コメントが来ることはあります。でも例えば「REALかFAKEかわからない10人のラッパー」とかは見る人によっては、バカにしてると思われることもあるんですよね。俺自身はもちろんそんなつもりはないですし、ただ良いと思った曲を他の人にも紹介したいだけです。

ーー純粋に今KAMAZOMBIさんが注目しているアーティストや楽曲を「日本語ラップ」「外国語ラップ」、そしてロックやR&Bもお聴きになるとのことなので「HIPHOP以外のジャンル」の3つから伺いたいです。

日本語ラップだとかなりポピュラーにはなってしまうんですけど、KREVAですね。最初にハマったのがKREVAの曲だったんです。まずHIPHOPを聴き始めたのが中学生の頃で、同級生が給食の時間にずっとOZROSAURUSの曲を流してて。それまでは他の人と同じように浜崎あゆみやMr.ChildrenのJ-POPばかり聴いてたんですけど、その時にHIPHOPってすごい「映画的」だなって思ったんです。

ーー「映画的」というのは、どういう意味なんでしょうか?

歌詞にストーリー性があるところがHIPHOP特有というか、言葉数が多い。そこから興味を持って、色々聴くようになったんですけど、中でも一番ハマったのがKREVAで。ただ彼は今やMCバトルの元祖ってイメージがあるけど、俺が中3くらいの頃は「もうKREVAの時代じゃないよね」って言われてたんですよ。というのも当時はSEEDAが所属していたSCARSやSD Junkstaみたいに、刑務所帰りのメンバーがいるような不良グループが人気を集めてて。KREVAやKGDRはちゃんと大学卒だったり、見た目は不良だけど中身はそうじゃないから一時期はディスられてましたね。

ーーその時期は、KAMAZOMBIさんもあまりKREVAの曲を聴かなくなった?

そうですね、あまり聴かなくなっちゃいました。でも最近になってKREVAがPAMPIEEやZORNとfeat.してた曲を聴いて、改めてかっこいいなと。KREVAだったら「瞬間speechless」が好きです。2009年の曲なので、結構前なんですけど。

ーーKAMAZOMBIさんにとって、KREVAはレジェンドみたいな存在なんですね。

みんなそれぞれ自分の中にレジェンドがいると思うんですよね。一番HIPHOPを聴いてた時代に活躍してたKREVAが俺にとってのレジェンドであるように、やっぱり感受性が豊かな頃に好きだったアーティストって特別ですよね。10代の子たちも今ハマってるラッパーが何十年後とかにそんな存在になるんじゃないですか。

ーー続いて「海外のラップ」ではどんなアーティストに注目していますか?

台湾グループの頑童MJ116とかよく聴いてます。最近AIとfeat.してたのをきっかけに知ったんです。AIがアジアにすごいラッパーがいると聞いて、自分からオファーしたみたいなんですよ。今はそれこそ中国でHIPHOPが盛り上がってるらしく、日本だとアメリカのHIPHOPアーティストが来日しても小さい箱でライブするじゃないですか。でも向こうだと、武道館みたいな大きな箱でやるんですって。

ーー聞き手の柔軟性も高いんですね。

そうなんですよ。YouTubeでライブ映像とかを見ると本当に武道館の2倍くらいのキャパがあるような場所でやってる。日本だと、レベルが高くても武道館でライブできるHIPHOPアーティストは一握り。

ーー因みに、HIPHOP以外で注目している方はいますか?

昔はRIZEとかよく聴いてましたね。彼らはロックバンドというより、ジャンルでいうとミクスチャーバンド。曲の中にラップも入ってて、ボーカルのJESSEが名前を変えてラッパーとしても活躍してたんです。それこそOZROSAURUSやZibbraとfeat.してましたよ。あとはZibbraの義弟であるSPHEREとC.I.G.、で Def TechやAIとE.D.O.っていうグループを組んでたこともあって。彼らは同じインターナショナルスクールの仲間だったんですよ。

ーー本当に色んなジャンルの音楽を聴いていらっしゃるんですね。かなりの量を動画でもピックアップされていますが、普段からとにかく聴きまくっているのでしょうか?

YouTube始めてから色々と聴き始めたわけじゃなく、やっぱり昔からの蓄積が大きいでね。昔はどこに行くにも音楽聴いてましたし、俺ら世代はあるあるだと思うんですけど学ランの中からイヤホン通して授業中もこっそり(笑)。ラップの歌詞をコピーして、どこで韻を踏んでるのかを確認したり。当時からHIPHOPだけじゃなくて他の音楽も聴いてました。映画や漫画もそうだけど、色々と後で繋がるじゃないですか。それが面白いですよね。

ーー今後やりたいことやトライしたいことを教えてください。

ラッパーと通じてる友人もいるので、音楽活動はしてるけど表舞台に出ないアーティストと何か一緒にできたらいいなって思います。日本で放送されてるHIPHOPの番組って、深夜枠ばっかりじゃないですか。結局ちょっとイロモノ扱いなんですよね。だからラッパーがもっとポピュラーになるようなきっかけが作れたら、それが一番の理想かな。ゴールタイムにやってるバラエティ番組をベースに、HIPHOPの番組作りをしてみたい。趣味の一環ですけど、やれる範囲で続けていこうと思っています!