【ASIAN FACE】クボタカイにインタビュー「伝えたいというより、承認欲求なんだと思います」

2020年12月9日に約9ヶ月ぶりとなった新曲「MENOU」をリリース。メロウなトラックと日常を描写した些細なリリックの効いた、自身の真骨頂を筆頭に「MIDNIGHT DANCING」、「Youth love」を発表したクボタカイ。彼のイメージとは一風変わった軽快なダンスミュージックや独特の言葉使い、その引き出しの多さに楽曲の都度驚かされる。
インディーズの勃興を見るにあたって、福岡の音楽シーンはそれと切っても切れない関係にある。あのビートルズが産まれたリヴァプールの様に、地方からの緩やかなぬくもりがもはや新鮮に感じるのだろうか。そんな、福岡新鋭アーティストの1人、クボタカイに聞くストーリーで、彼が彼の場所で掴む感触と今を読み取って欲しい。

ーーまず最初に、音楽自体に興味を持ったきっかけを教えてください。

父親の高校の時の後輩にコブクロの小渕さんがいて、コブクロのライブに連れて行って貰ったのがきっかけです。小渕さんが「今日友達の息子さんが来てくれています」と紹介してくれたりも…。それが最初のきっかけですかね。そこから、一番最初にハマったのはロックでした。

ーーかなり贅沢な初動ですよね…。ポップスやロックを聴く中でMCバトルに進まれたのは、何か理由があったのでしょうか?

高校3年生の頃に高校生ラップ選手権が始まって、視聴者として最初は楽しんでいました。同じクラスにもMCバトルU22の西日本チャンピオンがいて、それがいる手前バトルにはチャレンジ出来なかった…。そこから福岡に進学したタイミングで、サイファーのサークルを見つけたんです。Twitterにいいねしたら「今からサイファーやるんで来ませんか」って誘って貰えたのが具体的なきっかけです。すっごく怖くて、持ってる服で一番黒いものを着て行きました(笑)。

ーーMCバトルを始めた当時から今にかけて、音楽の聴き方やキャッチの仕方は変わりましたか?

変わりましたね。もちろん純粋な感動はあるけど、ここの文法がこうで、Aメロは情景描写だけどサビに感情描写が来るからこんなに感動するんだとか、小賢しい聴き方をしちゃう時もあります。でも、本質的な聴き方は変わっていないです。

ーーメロディーに馴染む嫌味のない韻もクボタさんの魅力かと思います。韻の節々のインスピレーション源となるものはあるのでしょうか?

もともとMCバトルでは、嫌味まくりのかっちりした韻の踏み方をしていました。今は、MCバトルでのかっちりした韻から引き算をして、楽曲に落とし込んでいます。そもそも、韻というより音を意識することが多いのかな。日本語のカクカクした特性を良い意味で使ったり、日本語だけどニュアンスは英語っぽい語感を入れたり。

ーー確かに、『MENOU』も語源は宝石の“瑪瑙”ですが、楽曲で聴くとどこか英語に聞こえる、そういった語感とメロディーの組み合わせが面白いですよね。

母音だけでなく子音も使っているんだと思います。そもそも韻がドラムっぽいなと思っていて。ドラムは同じような響きの配置じゃないですか。「俺の名前はクボタカイ、俺の名前は嘘じゃない」みたいな。僕の楽曲もリズムをポイントにしている面もあります。

ーークボタさんのスタイルの原型となった『Nakasu night.』もリズムの加速・スローな部分のコントラストが面白いと思います。詩を見ずとも、リズムで韻を踏んでいることが分かるというか。

そうですね。早いのも好きだし出来るけど、作る曲がスローなものが多いから、スパイスとして早いリズムを入れてみる。そういうポイントがあっても曲に馴染むのかなって思います。

ーー詩に対する言葉自体のインプットはどこから来ているのでしょう?

意外と本読み始めたのは最近で…。でも、昔から日本語に敏感で、ことわざ辞典やかるたとか凄く好きでした。インプットの量自体は多くないけど、そこから吸収する率が高いんだと思います。「都営大江戸線」とか些細な街中の文字に反応してしまう。「全部の看板で韻踏んでやる!」みたいな時期もありましたね(笑)。

ーー“全部の看板で韻を踏む”めちゃくちゃ気になります…。そもそも、“瑪瑙”という単語はどこから…?

もともと友達と「瑪瑙」って言葉良いよねって話してて。どっちが瑪瑙って曲作れるか勝負をしていたんです。それで、俺の方が作るの早かったので、その勝負は勝ちました(笑)。最初は言葉の響きに惹かれたけど、瑪瑙には魅力が沢山あって。宝石って透き通ってるけど、瑪瑙は濁ってたり。瑪瑙側からクリスタルを見たら、自分のコンプレックス感じちゃうのかなとか思ったり。

ーーなるほど。正に「クリスタルの横で霞む瑪瑙」。

そうなんです。因みに“瑪瑙”は、地元のイオンとかにあるので、存在はずっと知っていました…(笑)。

ーー因みに、地元宮崎や福岡で、普段何をされていますか?

近所の子たちとよく遊んでいますね。地域のちびっこたちと、ガチ鬼ごっことかしてます(笑)。僕は片足で走るとかハンデがあるんですけどね(笑)。いつも家で作業してるから「あそぼ」って誘ってくれるんです(笑)。

ーーどんなジャンルでも大丈夫です。こだわりを教えてください。

大前提だけど、自分がかっこいいと思ったものを作る。こういうのが売れるだろうなって曲を作りたくなくって、「俺はこういうのが好き」ということを分かってもらえるように工夫したいです。これからも曲の振り幅は増えていくと思うけど、どれも自分がかっこいいと思ったものなんです。

ーー『MIDNIGHT DANCING』もこれまでのイメージとは変わったディスコ調が印象的でした。MV公開前配信でも「純粋に踊れる曲を作りたかった」と仰っていて、クボタさんの好きの初期衝動が現れているのかなと。

食べてるものからしか排泄できないというか。僕自身、いろんな曲を聴くんですよ。ディスコもフォークも聴くし…。その吸収した色んなものを自分でやりたいんです。

ーー多ジャンルの楽曲を作成していく中で、変わらないであろう軸はありますか?

どうしても結果論、クボタ色が出てしまうので…。あ、でも、100%ポジティブな曲って作れないかも…。

ーー以前、「悲しい時に曲を作る」と仰っていましたよね。

そうなんです。何が普通か分からないけど、普通の人を作れないというか。『Youth love』もネガティブ無しの、若い子のキャピキャピした恋愛を書こうと思ってたんです。結果、一癖ある子の像が出来上がった。そういう一癖がどうしても出ちゃいますね。

ーー楽曲の変わらない軸をお伺いしたのですが、より大枠の、活動を通して伝えていきたいことはありますか?

伝えたいというより、承認欲求なんだと思います。裏垢の愚痴ツイートに、「わかる」って言ってもらう。それと似てるのかな。僕はツイートをしないから、それを曲にして昇華しています。ファンの方々からは「すごく共感できる!」って感想を頂くことも、僕からしたら「あぁ分かってくれてありがとう!」って。本当に思って悩んでる事だからこそ、分かって貰えるのは嬉しいし、気持ちの再現度を高くするために、歌詞を大切にして表現していきたいですね。

ーー承認欲求を確認するために、ファンやリスナーの反応もチェックされているのですね。YouTubeのコメント欄では、“クボタカイ”をもじった大喜利が展開されていますよね。“エモタカイ”とか“クボタカイを聴きたいカイ?”とか…(笑)。

もう一捻り欲しいですね(笑)。初期だったら許されてたけど、どんどん自分もコメントのハードルが高くなって来たんだと思います(笑)。僕もサブアカウントで大喜利ばっかしてるから、リスナー達にもそういう人が増えて来たのかな。でも、たまにコメントをスクショして保存してます(笑)。

ーー印象に残ったコメントは?

最初目にして笑ったのは、“エモタカイさんこれはクボイっすわ”ってコメントです(笑)。最近は毎回そのコメントがあるので、みんな味しめたのかなって(笑)。後は、ざっくり“エモい”じゃなくて、歌詞を考察してくださったり、“何分何十秒のここがエモい”とか明記してくださったり、そういう深読みリスナーは特に嬉しいですよね。

ーーライブ中もクボタさんは、観客の方々を小まめに見られていますよね?

そうですね、結構見てると思います。僕はグループやバンドじゃないので、1人でマイク持ってるから、間奏中とかカラオケの気まずさがあるんです(笑)。手持ちぶたさで見られてるのに何しようみたいな(笑)。なので、うろうろしています(笑)。後、事前に練習しても歌詞が飛んでしまうことが人より多いんですよ。そういう時に、昔やってたフリースタイルのスキルが活きています。トラブルも含めて、本気で楽しむことが1番ですよね。

ーーそれもライブならではのリアルがありますよね。用意されたものだけでなく、瞬間的な物を見れるという。話は変わりますが、ステージ衣装でもトレンチコートを着用されていたりと、ファッションもお好きなイメージがありますが如何でしょう?

詳しくないけど、好きです。でも、今日のパンツは高校の制服です(笑)。これは、今でも1軍パンツですね…。制服のブレザーも2年前に挑戦したんですけど、流石に無理でした(笑)。地元歩けないなって。これを取り入れるくらいだから、このブランドが好きとかそういう拘りは無くって、良いなって思った物を自由に着ています。地元の古着屋もずっと通っています。

ーー因みにクボタカイさんから見て、九州のユースシーン、音楽シーンはどのように見えていますか?地方のコミュニティが底上げされ、そこに伴って各アーティストが全国区に広がっている印象があるのですが。

すごい才能ある人が、才能前提の付き合いをしていない所が、盛り上がっている1つの根源なのかな。仲良くなって遊ぶうちに、こいつすげえじゃんってなる。Rin音もMCバトルで知って、お互いYouTubeのチャンネル登録者数0の状態から知っているし、Mega Shinnosukeも公園でたまたま知り合ったし…。音楽にも現れているけど、全体的な緩さが結果横のつながりを広げたのかなと思います。

ーー引き寄せの法則かもしれないですね。または、福岡の緩さがその繋がりを生み出すのか。最後に、今後の展望や目標を教えてください。

最終目標や根本的に大切にしたいことは、自分が100点で納得できるものを作ること。今、1曲それがあるのですが、まだ出していないです。そういうのを続けて、沢山の人に聴いて頂いて、色んな人を巻き込めたらと思います。頑張ります!

Photographer:Kotetsu Nakazato
Interview&Text:Ayaka Yoshimura

【リリース情報】

1st Full Album『来光』

2021.04.07 Release
DDCB-14076 / ¥2,727+税

-収録曲-
01. 僕が死んでしまっても
02. MENOU
03. ベッドタイムキャンディー2号
04. MIDNIGHT DANCING
05. TWICE
06. 春に微熱
07. 博多駅は雨
08. インサイダー
09. パジャマ記念日feat.kojikoji
10. Youth love
11. 拝啓(Freestyle)
12. せいかつ
13. アフターパーティー

New Digital Single『Youth love』

2021.2.17 Release
配信はこちら:https://ssm.lnk.to/Youthlove

【クボタカイ】

宮崎出身1999年生まれ。ラッパー/トラックメーカー/シンガーソングライター。2017年より拠点を福岡に移し、フリースタイルラップ、楽曲制作を開始。Hip-Hop、R&B、RockからPopsまで幅広い音楽と文学の香りを感じさせるリリックで注目を集める中、2019年3月に自主制作EP盤「305」を販売するが即完売し話題となる。リスナーであった石川陸監督よりオファーをうけmoosiclab2019にて映画主題歌に抜擢。フリースタイルラップでも頭角を現しており、NHK番組「# ジューダイ」のラップ企画にてラップ歴3ヶ月での優勝や国内最大級のMCバトル「KING OF KINGS」西日本選抜、またその他の大会でも数々の好成績を残す。2019年12月デビューEP「明星」をリリース。収録曲「ベッドタイムキャンディー2号」「せいかつ」「TWICE」のMVが話題となり、各種チャートにランクイン。福岡KiethFlack、渋谷VUIENOSで行われたリリースパーティは即時完売となり大盛況を収めた。2020年2月シングル「パジャマ記念日 feat. kojikoji」リリース。3月に連続リリースした「春に微熱」のリリックビデオYouTube再生回数は230万回を超える。。

2020年8月みゆなのシングル「あのねこの話」にフィーチャリングとして参加。SpotifyバイラルTOP50入りし、AWA急上昇ランキング1位を獲得。2020年12月4日に大阪ANIMAにてライブを行い大盛況となる。そして2021年4月7日に初のフルアルバム「来光」をリリース予定。

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