「自分が好きなことに時間を使えて、生きたいように生きられたら」 PURPLE THINGSデザイナー・菊乃の価値観とは?

スケートやヒップホップ、メンズカルチャーにインスピレーションを受けるPURPLE THINGSデザイナー・菊乃。あまりこだわりが無いようで芯のある価値観、そして彼女が映し出すメンズファッションの世界にフィーチャーする。

PURPLE THINGSを立ち上げた理由

―まず初めに、自己紹介と簡単にこれまでの経歴を教えて下さい。

東京都出身、1990年生まれ27歳の菊乃です。高校を卒業してから、写真の専門学校に2年ほど通った後、サンフランシスコ、ロンドンに行き、少しアートの勉強もしていました。帰国してからは、デザイン事務所でしばらく働いて、2015年より、PURPLE THINGS(パープルシングス)というブランドを立ち上げています。やり始めた頃は、Tシャツとか簡単なアイテムのみを作っていたんですけど、昨年2018SSシーズンより本格的にブランドとして始動しました。

―ブランドを始めようと思ったきっかけは何だったのですか?

日本に帰国したときに、自分の着たいと思う洋服が全然ないことに気が付いて。サンフランシスコとかロンドンは、もっとジェンダーレスだったんです。オーバーサイズも当たり前だったし、女の子がメンズを着るのも珍しくなくって。それに比べて日本は、まだそういうのがあんまりなかったので、何となくギャップを感じちゃって。 “だったら、自分で作ってみるか”っていう軽い気持ちで始めました。

 

―ブランド名はどのように決めたのでしょう? PURPLE THINGSという名前ですが、紫は菊乃さんにとって特別な色ですか?

紫が好きだから。自分が好きなもの、選ぶもの全部、紫が多かったからっていう簡単な理由です。昔から、何かをずっと好きでいることはあんまりなかったんですけど、紫だけはずっと好きだったんですよね。

 

―2015年にブランドをスタートさせて、昨年18SSよりユニセックスブランドから、メンズブランドに変更しましたよね。それは、どうしてですか?

自分がどんどんウィメンズの服を着なくなったんですよ。私が生活をする上で服に求めているのが、着心地の良さとか過ごしやすさで、それを求めるとメンズ服に辿り着いて。それに、興味があるのもストリートやスケートカルチャーだったので、“メンズブランドにしちゃえば良いんじゃない?”って感じで、メンズブランドに変更しました。

デザインに影響をもたらすもの

―デザインする上で大切にしていることって何でしょうか?

毎シーズン、テーマとかは設けていないのでその時の気分を一番大事にしてデザインしていて。ボディはいつもと同じなんだけど、世界のスケーターとか若い子を見て、グラフィックとかプリントが今はこういう気分だよねっていうのを汲み取ることを重視しています。

ニューヨーク、パリ、ロンドン、まあ日本も、スケーターって場所によって気分が違うし、ファッションも違うんですよ。それを見るのが楽しくて、ちょっとずつ摘まんだりもする。サンフランシスコは男女問わずにスケートやっている人が多くて、私もそこでスケートを始めたんです。それから、男友達に上手いスケーターのYouTubeを見せてもらったり、スケーターの子に「最近いい子いる?」って聞いたり。

 

―スケートからかなりの影響を受けているんですね。他にもデザインに落とし込むときに参考にするものはありますか?

音楽が凄い好きなんですよ。元々、中学生くらいからヒップホップを聞いていて。ソウルとかファンクもそうですけど、その歌の歌詞をグラフィックにしたことはありました。あとは、昔のラッパーがこんな配色でこれを着ていたみたいなところから、アイデアを貰ったこともありましたね。

人気ブランドとのコラボレーションも

―本当にメンズカルチャーが好きなのが伝わってきます。最近では、セレクトショップとのコラボレーションという新しい活躍も見せてくれましたよね。どんな流れで実現したのか教えて下さい。

BEAMSには本格始動した最初のシーズンからお世話になっていて、次の19SSで3シーズン目になります。スケーターにとって、Dickiesってやっぱり王道のアイテムなので、ずっと作りたいなとは思っていて。BEAMSに相談したら、快く受けてくれたので、PURPLE THINGS、SSZ(BEAMSのサーフ&スケートレーベル)、Dickiesの3ネームで作らせてもらいました。

普段自分だけでやっているときには、そうでもないんですけど、BEAMSにもDickiesにも名前を借りてやっているから、今回ばかりは評判が気になって。インスタとかSNSをチェックすると、「発売日に服買いに行ったのは久しぶり」っていう嬉しい投稿が、幸い見られました。おかげ様で完売もしたみたいで、ブランドやっていて、良かったって思った瞬間でした。まだ、あんまり知名度が高いブランドじゃないし、すごく売れているわけでもないから、モノが良くって評価してもらえたんだなって。

私は私のやり方を

―菊乃さんにとって、良かったなと思える仕事だったのですね。自分が仕事をする上でこれだけは譲れないというルールはありますか?

自分の目指しているところがぼんやりとあって、そこに向かっていけるような仕事ならいいけど、自分の価値を下げたり、自分でダサいなって思うようなことはしたくない。例えば、めちゃくちゃ流行を追う、とか。そういうブランドがあるから、ファッション業界回っている部分もあると思うんですけど、私はそういうやり方は出来ない。お金のため、人のため? 何のためにやっているのか分からないですけど、やりたくないことをやっていても気分上がらないじゃないですか。

これ、自分が着る服とかにも共通しているんですけど、みんなと同じはしない。そのデザインが本当に可愛くて、本当に好きなら良いんだけど、流行っているだけで服は買わない。むしろ、みんなと一緒は嫌だから、可愛いと思っても意地張って着ないかもってくらい(笑) ほとんど同じものしか着ないし、気に入ったものは7、8年とかずっと着ています。

 

―仕事に対する、芯の強さのようなものを感じます。仕事以外の時は、どのように過ごしているのでしょう?

友達と飲みに行ったり、スナックに行ったりですかね。音楽が好きだから、クラブに行くこともある。あとは、がっつり働いて、お金も休みも貯めるのが好きで。それで、一気に使うのが好き。だから、旅行によく行くんですよ。10月にもロンドンに行って、向こうでスタイリストをしている親友に会う予定です。あんまり社交的ではない私にとって、凄く大事な友達だから、その子に会いに毎年ロンドンに行っている(笑)

自由に生きてきた菊乃のこれから

―これまで、写真やデザイン、色んな活動をしてきたと思います。そんな菊乃さんが、今後ブランド以外で、やってみたいことは何かありますか?

今、コラムを書く活動もさせてもらっているんですけど、雑誌で連載もやってみたいですね。中学生くらいから女性誌はもちろん、メンズ誌、ビューティ誌、カルチャー誌、色んな雑誌めちゃめちゃを読んでいて。文章読むのが好きなんですよ。面白い人の連載って、毎号その人らしさが出ていて、この人はこういう癖があるなとかって勝手に想像しちゃうから。友達呼んで適当にしゃべるみたいな連載とか、自分が読んでいて面白いなって思うし、いつかやってみたいです。

 

―最後にPURPLE THINGSを今後、どのようにしていきたいかを教えて下さい。

具体的にどうしていきたいみたいなのは、あんまりないんですけど、1つのことだけに囚われたくないっていうのは思っていて。だから、PURPLE THINGSも自分自身も、服だけに留まらずにカルチャーと絡めて色々やれたら良いなと思います。私が人生において一番大事にしたいことって、結婚とかじゃなくて仕事なので、忙しくてもいいから、自分が好きなことに時間を使えて、生きたいように生きられたらなって。何となくで始めたブランドではあるんですけど、自分で良い感じだなと思える瞬間が何度かあって、少しずつステップアップしていくのが実感できれば最高ですよね。

 

まわりや流行に左右されずに、いつも自分の気持ちに素直に従ってきた菊乃。その生き方は、周囲に足並みを揃えるのではなくて、もっと自由に好きな道に進んでも良いのではないだろうかと、まるで私たちに問い質してくれるようだ。数年後、彼女に再開した時には、今とは全く違った分野での活躍を見せてくれるかもしれない。

菊乃(きくの)

19歳から22歳までをサンフランシスコとロンドンで過ごし、写真とデザインを学ぶ。帰国後はデザイン事務所で働く傍ら、NYLON JAPANのオフィシャルブロガーとしても活躍。2015年よりPURPLE THINGSを立ち上げ、デザイナーとして活動している。

Instagram: @kiki_sun

HP:purple-things.com