アジア各国のファッションディレクターに、ローカルな人気スポットやその国のストリートファッション、HIP HOPの実情を、SIXTYPERCENTのブランドディレクター Nanaが探る連載企画。

感度の高いデザイナー達が集うローカルカルチャーから、アップカミングなアイコン達を探ってみよう。
今回は、トップブランドから新進気鋭のブランドまで幅広いブランドの中国進出をサポートする今注目のファッションエージェンシー「DFO」の創業者 Meimei Ding に独占インタビューをした。

NANA : それではDFOとMeimeiさんのご紹介をお願いします。

Meimei : はい!DFOはマーケットリサーチエージェンシです。私がブダペストに移った約10年前に設立されました。 私は台湾で生まれ育ち、母は香港人、父は中国本土出身です。アメリカとイギリスで学校に通い、その後仕事のために上海と北京に移り、ブダペストに移る前の6〜7年間は中国本土で仕事をしていました。ここに移ったのは結婚したからです!

NANA : だからブダペストにいるんですね!どうしてブダペストなのだろうと思っていました。

Meimei :  よく聞かれます(笑)夫は私の仕事の話には欠かせない存在でして、というのも私たちはセントマーチン校に通っていたので、元々同級生だったのです。その後、卒業してから6年後、私は中国で過ごしていたのですが、偶然再会したんです。そのあとすぐにブダペストに転居して、学校を卒業してからグラフィックデザイナー、ウェブデザイナー、モーショングラフィックスデザイナーとして仕事をするのがとても楽しくて、アートディレクションなど幅広く手を出していました。

ですが10年以上前にブダペストに引っ越してきたとき、実はメディア分野で仕事を見つけるのにとても苦戦したんですよ。というのもブダペストは基本的に東欧的で、国際的なメディアネットワークの多くがかなりローカルだったんです。

NANA: なるほど、それは難しいですね。

Meimei : 西洋に住んでいたこともあったので、ハンガリー語がこれだけ難しい言語だとも思っていなくて!私はプロとして仕事をしたいと思っていたので、何か新しいことを始めようと思い、DFOを設立する前に実は夫とファッションブランドを立ち上げているんです。パリで展示会をしていたので、そこで現場を知ることができたのです。でも、自分としては工場関連のタスクというよりは、よりブランディングに集中したいなと。そこで事業を売却し、DFOを設立したんです。DFOは、本当に当初は小さなブティック・エージェンシーで、アジアを回ってクールなブランドと繋がるのが仕事でした。母親として1日4時間程度仕事をこなしていく程度だろうなという感じでしたよ。それが最初の構想でしたね。

そして2014年に、中国市場について色々な人が私に尋ねてくるようにナゥたんです。そこで私は中国市場に目を向け調査を続けた結果、市場のポテンシャルが非常に高いことに気づき、DFOとして上海にチームを立ち上げました。その後チームは拡大し、5倍以上になりましたね。DFOは”ブティック的”なもので、スタッフの数も少なく、非常にプロフェッショナルな集団で、今もそこは変わらず、2つのオフィスに30〜40人のスタッフを抱えて常時約50のブランドを数100のクライアントに提供しています!

NANA : 最初に想像していたよりもはるかに大きい会社になったんですね!

Meimei : かなりエキサイティングでしたが、予想していたよりも多くの課題や負担もあって。でも大きな学びのプロセスでしたね。

NANA : なるほど。中国市場の話をされていましたが、確かに今アジアだけでなく、全世界的に中国はファッション市場でもかなり注目されていますが、Meimeiさん的にはこのような市場の成長の動きや進化について、どのように感じていらっしゃいますか?

Meimei : 私のビジネスにも繋がるところではあるのですが、DFOは基本的に優れたビジネスアイデアや強力な戦略、ソリューションを考え彼らの悩みを解決し、ニーズを満たしています。中国市場は非常にアグレッシブなので、競争も激しくなります。競争そのものは楽しいですが、どのブランドも市場シェアの一部を狙っているので、かなり市場は飽和状態にあります。だからこそ、ブランドがどれだけできるか・できないかは、私たちが常にブランドに問わなければならない核心的な問です。私たちはミラクルメーカーではなく、人と人がつながるプラットフォームなので。この部分は、私が常に自分自身に問いかけていることでありながら、チームに問いかけていることでもあります。例えば、一緒に仕事をすることを決めたときなどに、社内でそのブランドに対して合理的な予測ができるかどうか、サポートがうまくいっているかなどですね。

NANA : DFOはすでに、トップ企業のさまざまなブランドと仕事をしていますね。

Meimei : そうですね、なのでデータも豊富です。どのようなブランドが、どのようなレベルで、どのような状況で、何を必要としているのかを把握しています。私たちは、ブランドを作るのではなく、商品を作るのでもないのですが、現場の知識をたくさん持っているのが特徴かと。時には、ブランドを中国市場にうまく適合させ、市場開拓を成功させるために、ブランドの多少の修正が必要な場合もあります。シーズンレビューでは、コレクションの好調、不調の理由を評価しますよね。私は「ブランドの中国でのローカライズ」についてはかなり重要ポイントだと考えています。

基本的にはクライアントにまず選択権を与えます。「どれだけのことができるかは、あなたの力量にかかっています。そのままブランドを持っていってもよし、ただもしあなたが少し A B Cのアクションをしてくれればもう少し上を目指せるかも?」というような感じですね!

デザインは私のものではないですからね。我々の仕事はクライアントのブランドDNAがどのように市場に認識されるべきかを伝えるために存在します。その結果を気に入っていただければ、嬉しいことですから。気に入らなければ提案も行いますが、どこまで手を加えるかはブランドのデザイナー次第ですね。

NANA : そうですね。というのも、私はセレクトショップのプラットフォームであるSIXTYPERCENTのブランドディレクターとしても活動しているので、DFOが担当しているブランドのリストを見ていました。今韓国の200以上のブランドとも仕事をして、日本でのローカライズが必要だなと思うブランドもありますがなかなか提案というところまでは足が踏み出せないところでもありますね。

Meimei : そうですね、私は話をとにかくシンプルにするようにしています。というのも、最終的に必要な要素は極少ないですから。大きなクライアントの場合は、こちらから小さなステップで歩み寄り、両者が幸せに仕事ができるようにしていますね。

NANA : Meimeiさんは基本的にブダペストで仕事をしていましたが、中国との行き来も頻繁に行っていましたか? 

Meimei : コロナ以来、中国には行っていませんね。以前は年に4・5回は行っていましたよ。今はオンラインですべてを監視しています!上海のファッションウィークは、3つのブランドが出るのでかなりチャレンジングでしたね。1日に大体15時間くらいパソコンに向かっているので、何100ものチャットグループをチェックしています!クライアントから懸念が寄せられれば、私が現場にいないときは、私がチェックしていれば文字通りすべてのチャットグループをフォローして、ボトルネックを見つけて問題を解決できますから。

NANA : Meimeiさんは日本人よりもワーカホリックですね!

Meimei : 本当に仕事が楽しいんですよ!(笑)私がこの会社を始めたのは30代前半で、何の野望もなく始めたのですが、今のような状況になったのは、まさに一生に一度の奇跡のようなものだと思っています。ですから、毎日、感謝の気持ちを持って仕事をしていると、チームのモチベーションが上がってくるのです。長い間、一緒に仕事をしてきた仲間もいますし、長い間一緒に仕事をしてきたブランドもありますから。

NANA : 中国の市場の成長は同時に成長痛のものがあると感じているのですがいかがでしょう?例えば、私は上海でインナーセクトに参加したのですが、スニーカーを手に入れるために6万人もの人がレースに参加しているような感じて本当に驚きました。ただ関係者の方が、買ったものに価値を見出すというよりは転売が横行しているのが問題になっていたりすると。

Meimei : ブランドにとっては勿論すでにロイヤリティが確立されていると思います。しかし中国はお客さん側のロイヤリティはまだ時間がかかると思います。中国の消費者は、トレンドにも敏感です。今、話題になっているものは何でも手に入れようと。また非常に競争の激しい市場なので、魅力もありますが競争力を維持しながら、持続可能なブランドであるためにはどうしたら良いのかというのはブランドの課題ですね。

というのも、エージェンシーとして多くのブランドを見てきましたが、数シーズン、あるいは数年の間、非常にうまくいったブランドが突然市場が彼らに興味を失い、次のスポットライトを見つけるのに苦労したりします。これは中国以外のブランドや、生産拠点が中国にないブランドにとっては、より大きな問題です。

NANA : 私は少々逆の意見でしたね!例えば、日本のデザイナーは中国で勝つ方法は日本産というところにあると言っていたり。

Meimei : 例えばとあるフランスのブランドですと、ランウェイ用のアイテムはすべてフランスから輸入すると決めていました。それはブランドのDNAとして非常に重要なことだと思いますが、彼らは中国で大ヒットしたローカルなTシャツを持っていて、それは1年中売るために中国産にするべきだと。消費者は常にTシャツを求めていますが、そのたびに数100枚を常にフランスから出荷されるのを待たなければならないとしたら、市場は待ってくれませんから。私たちは多くのブランドと仕事をしていますが、中には戦略をカスタマイズしているブランドもあります。そのようなお客様には、先ほどお話ししたローカライゼーションのように、よりカスタマイズされたアイデアを提供しています。なので、非常に革新的な生地を用いているブランドの商品は勿論現地化する必要はないと思いますよ!

中国は非常に”オープンマインドな市場”なので、あとはブランドの認知度・製品の独自性・価格帯・いつ届けられるか・コレクションの規模・サプライをどうコントロールできるかを総合的にコントロールする必要があります。

NANA : “中国市場はオープンマインドである”という言葉はかなり印象的ですね!

Meimei : なので有名であればいいというわけではないんですよ。例えば、インスタグラムのファン数が700人しかいないブランドでも、中国でとてもよく売れました。ただその後、3シーズン後にそのトレンドが廃れてしまったりして新たな課題が生まれたりもしますが・・。クリエイターにとっては非常に難しい課題だとつくづく感じますね。彼らはアイデンティティを持っているからこそブランドを作るのであって、そのアイデンティティがその場にあって、市場がそれを評価してくれればいいのです。自分が進化していくと、ファッションは永遠に進化していくもので、それが止まると市場が繰り返していると感じていて消費が引いてしまいます。でもデザイナーが「いや、これは私のDNAだ」と言われてしまっては終わりですから(笑)このジレンマをどうやって解決していくかが大切だと思っています。

NANA : これは日本でも同じだと思いますね。韓国のブランドでも、例えばBTSが着用して売れて、でもデザインが1−2年同じだとお客さんは買い控えをしたりとか。デザイナーとの綿密なコミュニケーションがMeimeiさんの立場だともっと回数も多く、もっと深いところまでコミュニケーションすると言った感じですよね。学びがとても多そうだなと思いました。

Meimei : そうですね!よく取材を受けたり、官公庁などからはセミナーを依頼されますし、学校からは先輩や私に講義を依頼されることもありますよ!私はなるべく全て受けるようにしています、私と同じ問題を経験して欲しくないですから(笑)

NANA : このポッドキャストも同じ目的です!そししてこれが最後の質問になりますが、何か読者に対してファッションビジネスにおけるアドバイス、起業やブランド立ち上げを考えられている人にアドバイスはありますか?

Meimei : 私もまだ道半ばではありますが、最も重要なことは、もしうまくいかなくても、失敗しても、それは人として失敗したということではないということを理解することですね。起業は好奇心とやる気からスタートするもので、それはたいてい未検証ですし、好奇心も未検証ですから。もちろんリサーチは重要です。なぜなら、才能のある人だけが勝つわけではなく、タイミングやケミストリーも大切だからです。あとは、「Dont’ be too greedy = 欲張りすぎないように」

NANA : いい言葉ですね!

Meimei : 野心を持ちすぎると、その代償を払わなければならないかもしれません。これまで得た以上の何かを犠牲にする必要が出てきます。レゴの設計みたいな感じですかね。自分のインフラを持ち、業界を尊重しながら自分の意見を言える自分のプラットフォームを持ち、それが持続可能であることが大事だと。あとは、何のためにこれをやるのか、なぜそれをやりたいのかを自分で考え、短期、中期、長期とは言わないまでも、1年後、3年後の短期的な目標を立て、それに到達しなければやめて、次のステップに進むべきだと自分に厳しく言い聞かせることも重要です。あとは、どのペースで成長したいかもですね。基本的にはこのレベルで管理し、毎年一定の割合で成長させていきたいと思っています。私はそれが自分の満足値だとわかっているので!

「自分自身に正直であること」「自分に言い訳をしないこと」「うまくいかなくても本当に気にしない」ですね。

NANA : ファッションでの起業を考えている人だけではなく、他の人にもぜひこのアドバイスを聞いていただきたいです!

Meimei :ありがとうございます!