近年、ファッションショーというランウェイ形式のプレゼンテーションの演出に、一躍話題となったショーがあっただろうか。
ファッションショーでは、モデルが着用している「服」が主役であることは当然なことで、服そのものの話題は後を絶たない。それとともに、ブランドを「見せる」、デザイナー自身を「表現する」唯一の場として、新作発表会という空間演出は欠かせない。
近年は、さまざまな新作発表を行う形式があっておもしろいが、ランウェイ形式での「演出」に対する衝撃を与えたショーは少ない。
「英国ファッション界のバットボーイ」と称された、生前のAlexander McQUEEN(アレキサンダー・マックイーン)のショーは、服やヘアメイクだけでなく、卓越した演出のエンターテイメント性をも賞賛されたていた。
ときにはマスコミからのバッシングを受けながらも、自分の信念を曲げず、最後までLee Alexander McQUEEN(リー・アレキサンダー・マックイーン)という自身をショーで表現し続けた。
そんな生前Alexander McQUEENのファッション界に衝撃を与えたショーをいくつか紹介する。
1998 S/S 「無題(Un-titled)」

このコレクションでは、ショーの途中、水をはって下から光を当てた水槽のステージが黒いインクに染められ、雨が降り出す。
その中モデルたちはびしょびしょになりながらランウェイを歩く。光によって、ゴールドの雨が降っているような演出がなされているのだ。
本来、元々のタイトル名は「ゴールデン・シャワー(放尿の意)」といった過激なタイトルがつけられていたのだが、長年のスポンサーであるアメリカン・エキスプレスが抗議したため、「無題」と変更されたみたいだ。
Alexander Mcqueen 1998 S/S 「Un-titled(無題)」
1998-99 A/W 「ジャン(Joan)」

このコレクションのテーマはジャンヌ・ダルク。ステージには火山に見立てた黒い砂のようなものが敷きられ、そのステージの上にはいくつものランプがランダムに吊られていた。
注目のフィナーレでは、ステージ中央で頭からすっぽりと包み込むような赤いドレスを着た女性が登場し、円状に炎に巻かれる姿は、まさに圧巻の演出である。
Alexander Mcqueen 1998-99 A/W「ジャン(Joan)」
1999 S/S 「♯13」

このコレクションでは、ステージが木目調であり、いくつかの場所に円形状のモデルが回転するステージも設置されていた。
そして最後のフィナーレでは、ずっと中央に備え付けられ、おそらくほとんどの人が気になっていただろうロボットが動き出す。
真っ白いドレスを着たモデルが、中央の回転するステージに乗り、回り始めるとロボットアームから発射された黒とイエローのインクが、見る見る真っ白いドレスを染めた。
ドラマティックな演出に会場も拍手喝采であった。
また、義足のモデル、Amy Mullins(エイミー・ムリンズ)を起用するなど、何が美しく何が美しくないのかという概念に対する、社会の固定概念を批判した。
Alexander Mcqueen 1999 S/S「#13」
2000 S/S 「目(Eye)」

このコレクションでは、当時ハリケーンに襲われたニューヨークで発表された。今回はイスラム民族からインスパイアを受けたそうだ。
そんな演出には、ステージに水がはられており、モデルが歩くたびに水しぶきがとんでいた。
そしてショーの後半、一人のモデルが去り、真っ暗になった途端、会場の全員がおそらく終わりだと思い、拍手喝采となっていた。
すると、水のはったステージから無数の針が飛び出した。上空ではダンサーが登場し、空中を舞うという摩訶不思議な演出が会場を沸かした。
Alexander Mcqueen 2000 S/S「目(Eye)」
2001 S/S 「VOSS2001」

このコレクションでは、マジックミラーで覆われた四角い空間にモデルたちが、不安そうな表情でさまよい歩いている。
そしてフィナーレ、中央に置かれた巨大なガラスケースの壁が倒れると、ガラスは一気に割れ、中から蛾や蝶が飛び出し、裸体のモデルが登場した。
ガラスケースが割れ、中から裸体の女性が現れる不思議な演出に、会場は衝撃の一言が頭をよぎったに間違いないだろう。
Alexander Mcqueen 2001 S/S「VOSS2001」
Alexander McQUEENのショーを見て、みなさんはどんなことを思っただろう。
15年以上前のショーとは思えない新鮮さや衝撃を感じたのではないだろうか。
マックイーンのショーを手掛けてきた、Sam Gainsbury(サム・ゲインズベリー)は彼のショーを
「モダンなものとオーガニックなものの融合がアレキサンダーの世界である」と語っている。
先程紹介したショーの中にも、雨とアクリル、ロボットと木、砂と炎といったAlexander McQUEENの独自の特徴が見うけられる。
また、彼は「女という性」に対する自分のネガティブなイメージを、頭からとっぱらいたかったという。
洋服やショーで自身だけでなく、社会に対する「女性」という概念をも批判し、自らの女性像を表現し構築したのである。
たった約15分間のファッションショーという空間には、ただ服を引き立たせるだけでなく、デザイナー自身の表現したい伝えたい思いが、演出の中に大いに重要な要素として組み込まれていることを、改めて認識しなければならない。
source:片桐義和(2001)、『流行通信』 2001年10月号、p.45-53、インファス
スザンナ・フランケル(2006)、『ヴィジョナリーズ ファッション・デザイナーの哲学』、p.11-21、ブルース・インターアクションズ