【世界で活躍する日本人#8】ロンドン在住、住まいを変える壁紙デザイナーYUKARI SWEENEY

世界に飛び出し、厳しい環境の中で自身のクリエイションに情熱を注ぐ日本人クリエイターを紹介する企画『世界で活躍する日本人』。

ロンドンで活躍するブランド YSD LONDON(ワイエスディ・ロンドン)のサーフェイスデザイナー、Yukari Sweeneyさんにお話を伺った。

ー日本にいらした時の経歴を教えて下さい。

日本では某アパレルメーカーで働いていました。一つ目の所ではショップアシスタントとして接客に始まり、人間としていかに幹をしっかりさせるのかを勉強させてもらいました。

次の某アパレルは、代行会社に所属して、ショップの構成や人事などに関わっていました。どちらも、もちろんファッションにフォーカスでしたが、それ以上に、人間として育ててもらったような気がします。

ーなぜロンドンに行かれたんですか?

ロンドンに来たいきさつは、日本で長年勤めていたVidal Sassoonのアカデミーをやめてセミナーをしていた今の主人Kevinに出会ったからなんです。

ではご主人との出会いが、ロンドンに来るきっかけになったんですね。その後にサ-フェスデザインを勉強したということですか。

はい。たまたまロンドンで私がサーフェスデザインを勉強したいと思ったきっかけは、育児が少し落ち着いたときに東ロンドン大学サーフェスデザイン科に入ったときなんです。

そのとき、どうしてロンドンでサ-フェスデザインを勉強しようと思ったんですか?

ロンドンには大好きなヴィンテージのプリントファブリックが沢山あって集めていました。それだけではなく、デザイナーやプリントされた年代などを知るようになってから、ミュージアムにも通って掘り起こし始めたらやめられなくなっちゃったんです。で、本腰を入れて勉強したくなり、大学で専門的にプリントデザインを専攻することに決めました。

大学を卒業して、ロンドンで活動を開始した、と言う感じですか?

そうですね、大学を卒業する時にはPaul Smith(ポールスミス)でのトレーニングが決まっており、その最中にオックスフォードサーカスにあるTOPSHOP(トップショップ)の中のショップの壁紙をデザインするというコミッション、そして、アメリカのアンソロポロジーの壁紙デザインと決まっていき、必然的に事の始まったロンドンに活動の場をおくという感じになったんです。

現在は独立されているかと思いますが、そのいきさつを教えてください。

大学在学中、そして卒業後にELEY KISHIMOTO(イーリーキシモト)、Paul Smithでトレーニングを受け、2年ほどフリーランスのテキスタイルデザイナーとして仕事をしていました。そのあと2008年に独立をしたんです。

何故日本ではなく、ロンドンで活動する事を決めましたか。

正直なところ、たまたまロンドンにいたから、ということもあります。しかし所謂大人になってから、デザインの仕事に移行しようと決めるチャンスと余裕を、私に与えてくれたのがロンドンだったともいえます。

ロンドンで活動するにあたり、ロンドンの魅力とはなんですか?

ロンドンにいると、好きなデザイナーのオーガニック的なところがよく見えるのも魅力の一つかもしれません。例えば、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)も、社会的な背景を持ってデザインが派生しているところがわかったり、ポートレートギャラリーでは、彼女のインスピレーションが手に取るように見ることができたり。Paul Smithの、いい意味での収集癖を知ることができたりします。

現在は独立されて活動されているとのことですが、ロンドンでの活動内容を教えて下さい。

今はロンドンの南東部、グリニッジに小さなスタジオを構えていてそこをベースにしています。フリーランスのイラストレーター兼モデルである、娘のきみかパートナーとして働いてくれていて。スタジオはワーキングスタジオですが、そこでプロダクトを見ていただけるようになっています。一般のお客様からのプロジェクトもここでお受けしているんですよ。

具体的な活動内容を教えていただけますか?

私達はサーフェスデザイナーとしてあらゆるものにデザインをしていますが、メインのプロダクトは壁紙です。その他、基本的に自分たちの興味のある物、欲しいものにこだわってプロダクトを出しています。壁紙は、イギリス国内、アメリカ、ドイツ、イタリア、オーストラリア、ニュージーランド、そして日本のエージェントを通して販売しています。
スタジオ外でも活動されているんですか?

はい。年に一度、ショーに参加しています。今のところ、ロンドン、ニューヨーク、日本の3つの国のショーから選んでいます。ロンドンのショーはソロですが、ニューヨーク、日本は英国デザイナーのメンバーとして参加させてもらっています。又、スタジオのコレクション以外にも、コミッションやコラボのお仕事もさせていただいていて、英国の老舗デパートDebenhamesさんからコミッションのお仕事がありました。日本では、私達の壁紙のエージェントWALPAさんから、British vintage collectionという全14色のペンキや、Hattemeというオーバーサイズのウォールスティッカーなどもデザインの仕事をしました。

イギリスだけでなく、日本でも活躍されているんですね。最近のロンドンでの活動はいかがですか?

去年の11月のアメリカ大統領選挙結果にあわせて、イギリスのテレビ局BBCがこちらでは有名なコメディアンの番組『Frankie Boyle’s US Election Autopsy』の中で、私達のカウボーイ柄のWildwest Toileをステージに使ってくださったりもしました。また、今年は英国のメーカーさんとのコラボで、2つのデザインのベッドカバーセットが発売されます。

日本でもYukariさんの作品が拝見できるんですね。

はい。日本ではイエロースタジオさんから、私達のデザインしたランチボックスが2コレクションでています。それとともに全国展開でラグ、クッションなどももうすぐ発売になる予定です。最近2017年秋冬のサンプルも終了し、他の会社からですが2018年春夏に取りかかっています。

日本でのYukariさんの活動も教えてください。

2015年からホームタウンである名古屋で、年に一回小さなイベントも行っています。去年は、古くからの友達の協力を得て名古屋でもおしゃれなエリアのギャラリースペースで、いろんなワークショップも含めたイベントを開催しました。「English & Eccentric」というタイトルのもとで、英国風、またはエキセントリックな、物・人・空間を作り、そこで時間を共有するというコンセプトのものでした。今年は、私達がここのところずっとやってみたかった、日本の職人さんとの仕事ができることになりました。注染という染めの職人さんと、手ぬぐい・木工・漆を取り扱ってらっしゃる方とのお仕事や、漆塗りのプロダクトデザインに関わらせていただくことになり。東京の素敵な町工場の三代目さんと革製品をともに作る事にもなっていて、海外にでて初めて興味を持ち出した日本の工芸や、日本の伝統的な技術と関わる仕事を始めることができたんです。それも本当に光栄なことだと思っています。

お仕事において日本とロンドン〔イギリス〕の違いはなんですか?

日本は何においても便利で、スムーズに仕事がはかどります。それはメーカーさんにしても、デリバリーにしても、きちんと仕事をしてくださるからだと思うんです。なんだか、いつも仕事をされているような担当さんもいらっしゃったりして、すごいなあと思うこともありますね。

だから私達も、日本との仕事の時はいろんな意味で日本時間で仕事をします。イギリスは、「仕事は生活の一部」的な姿勢がよくわかります!デッドラインもこちらが守っても、メーカーさんのデッドラインはあってないような物ですね。「もう週末だから、来週やるね」とか、「来週からホリデーなので、2週間後に返事するね」というのは普通なんです。なので、週末、ホリデーシーズンはこちらが先読みをして発注をしたりデリバリーをしたりする必要があります。でもその反対に東日本大震災の時は、「もしかしたらYukariのファミリーが被災したかもしれないから」と、そっと時間を置いて電話やメールをくれたりする暖かさがあります。

働き方が両国では違うんですね。他にも相違点はありますか

日本ではデリバリーをする箱も商品の一部、という感があるので気を使います。やはり箱を開けた時ににっこりしてもらうというのが私達のモットーなので、色々な工夫をしますが、そういうことに気づいてくれるのも日本人ならではのような気もします。逆にイギリスは、プロダクトが五体満足に届けばよし、という感じが多いですね。

ロンドンで活躍する利点はありますか?

ロンドンは私の興味のある物が豊富なのが一番の利点です。ミュージアムや、アートギャラリー、ヴィンテージもの、少し遠出をすれば、マナーハウスのインテリアを見に行けたり、人があまりいない冬のビーチを散策できて、犬と一緒に気軽に散歩にでられるパークがあるので、そこでいろんな世界の人と知り合うことができたり、色々な物の見方を習うことができたりするんです。それがすべて私の仕事にも影響してくるので、利点といえますね。そしてロンドンでしっかり頑張っていると、結構地方自治体や、国からのサポートも受けられるというのも大きな利点です。そのおかげで私達も、ニューヨークや日本のショーに参加ができるわけですから。

ロンドンにいて、日本人として経験した苦労はありましたか。

言葉はもちろん、習慣や文化になれるまでに時間がかかりました。特に英語は、なんとか人と話せるようになったなと思ったら、大学で専門用語を使った授業を受け、自分の考えをきちんと伝えるのが前提であるプレゼンテーションや論文を抱えて、目の前が真っ暗になったこともあります。仕事でも自分のデザインをきちんと相手に伝える事は大切で、ボキャブラリーを増やす努力は今でも続けています。

やはり言葉は大事なんですね。それ以外にロンドンで活動するのに、大切なことはなんですか?

自分に自信を持つことですね。そしてそれをきちんと表現できるようになることが、一番大事です。「自分を信じられなかったら、どうやって人に信じてもらえるのだ」と、よく言われます。仕事でもとても大切なことなのですが、自信がなければどうやって次のレベルに進むのか、自信がなければどうやって自分の馬に自信をもたせることができるのだ、とか。自分が積み上げた小さな石に気づきなさいということなんですね。

ーーロンドンにいて、日本人として良かった事はありましたか。

一般的に、こちらの人は日本という国はとても発達して、おしゃれで、風変わりな国だというイメージが強いので、「日本人です」って言うだけで、その恩恵を受けることができるような気がします。だからデザイン一つにしても、日本という背景を感じようとしながら見てもらえるというか。私は自分が日本で教育を受けてきた日本人という自然体で仕事も人付き合いもしますから、そこにある意味勝手に付加価値をつけていただけることが結構多く、ありがたくお受けしています(笑)

ーー今後、日本に帰国して活動しようとは思いますか。

取引先やエージェントが、ヨーロッパや、アメリカにもありますから、やはりベースはロンドンにおきたいと思います。一方でやはり日本人ですし、日本で仕事をしたいなあと思うこともあります。

ーーそれは何故ですか。

ロンドンでデザインをしてイギリスでできたものと、ロンドンでデザインをして日本でできたものには、必ず差があると思うんです。その差を目の当たりにして見てみたいというか。そしてそれをイギリスに持ち込んで、どんな風に受け入れてもらえる物なのかも知ってみたいですね。あと、やはりくじけそうになる時に、知らん顔をしながら偶然のように励ましてくれる人がいるのも、おいしいおにぎりがあるのも日本ですから。

ーー今後ロンドンでどんな活動をしていく予定ですか。

今後も、壁紙コレクションを出していきたいと思います。2015年から新しいレーベルの、Plain Jane & Average Joeを立ち上げました。去年、イベントで発表したSafety in numbersは、このレーベルの初めての壁紙デザインで、今後もいろんなプロダクトに延長させていく予定にしています。それと同時に、フューチャークラッシックとして作り込んだ一点もののクラッチバッグや、スカーフも出していく予定にしています。スタジオのマスコット犬テディの関係で、ロンドンの動物レスキュー団体へのチャリティや、日本のレスキュー団体のためのチャリティー商品もできる限り出していきたいと思っています。これはスタジオをオープンさせてすぐにはじめたことで、私達にとってはとても大切なことなんです。

ーーロンドンで活躍したいと思っている日本人アーテイスト、クリエイターさんに一言お願いできますか?

ロンドンはアートやデザインに関してとてもオープンな場所です。「変わっている」とか「人と違う」ということに、とても鷹揚な街でもありますが、「本物」にもうるさい厳しい街でもあります。ストリートファッションにも見られる通り、個性を大切にします。日本のように便利でもないし、大変なことも沢山あるけれど、飛び込んでみるとちゃんと育ててくれる懐の深い街です。年齢も、性別も、関係ないところですね。アーティスト、クリエイターとして育ちたくなった時に飛び込む価値のある場所だと思います。