【世界で活躍する日本人#11】私服スタイルも定評なパリ在住ファッションジャーナリスト『乗松 美奈子』

世界に飛び出し、厳しい環境の中で自身のクリエイションに情熱を注ぐ日本人クリエイターを紹介する企画『世界で活躍する日本人』

今回はフランス、パリで活動するファッションジャーナリストの乗松美奈子さんに話しを伺った。

【プロフィール】
乗松美奈子 ファッション・ジャーナリスト
静岡県生まれ、上智大学心理学科卒業。大学在学時に平行して通っていたセツ・モードセミナー夜間コースでファッションを学ぶ。
ファッション誌gap Japan(ギャップ・ジャパン)やカルチャー誌STUDIO VOICE(スタジオ・ヴォイス)編集部を経て、日本での社会人経験2年足らずで渡仏。現在はspur.jpでの連載の他、ファッション誌SPUR、Vogue Japan、Penなどでデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける。
instagram @minakoparis

——いつからパリで活動されているのですか?

渡仏して、20年あまりですね。

——渡仏前は日本で何をされていましたか?

大学を卒業して、カルチャー誌STUDIO VOICE(スタジオ・ヴォイス)のエディターとして1年程働いていました。学生の頃からファッションや写真が好きで、当時私以外にファッションに詳しい人が編集部にいなかったこともあって、ファッション特集は私一人で担当してページを作らせてもらっていました。

執筆から編集、スタイリングやリースの発注まで、指導してくれる人もいなかったので自己流で大変でしたが、とても楽しんで働いていましたよ。

——渡仏を決めたのは何故ですか?

幼少期から、日本を出たいと思っていたんです。文化や言語は素晴らしいですし、日本人としての誇りはありますが、どこか違和感を感じるというか。

かといってパリに憧れていたというわけではなく。もともとはロンドンのアンダーグラウンドなカルチャーが好きで、住みたいなぁと思っていました。ただ当時のイギリスは今では考えられないほどの大不況に陥っていて、「おもしろくない」「行っても仕事はない」と周囲の人に言われ、拠点を置く場所をパリに変えたんです。

渡仏前は旅行以外に、ファッション&カルチャー誌gap Japan(ギャップ・ジャパン)のパリコレ取材で来たことがありました。

当時友達も住んでいましたし、ファッションといえばパリという理由も一つ。素敵な街で色んな面白い人がいるなぁくらいの印象で、1年住んでみようと軽い気持ちで渡仏しました。

——現在はフリーランスとしてspur.jpでの連載や数々の雑誌の取材・執筆の他、2011年にLaduréeのL’art de Recevoirというビジュアルレシピ本のスタイリング、2013年には日本に興味があるフランス人のためのガイドブックGuide du Japon à Paris (Editions du Chêne刊、フランス語)など、日仏問わず活躍されていらっしゃいますが、パリでどのように活躍の場を広げていったのでしょうか?

渡仏前に働いていたSTUDIO VOICEのエディターの仕事を継続し、リモートワークでファッションページを作っていました。ファッション写真特集という企画を機に、パリにあるエージェントや評論家の方々とのコネクションが生まれ、徐々に知り合いが増えていったんです。

ファッション・ライフスタイル・カルチャーのジャーナリストとしての活動を軸に、コンサルティングのほか、スタイリングや撮影のディレクション、プレスリリースの翻訳などの仕事を請け負うようになりました。

日本の企業がフランスで、フランスの企業が日本進出する時に手伝うこともあります。やはり日仏関連の仕事が主ですが、ただ橋渡しをするというのではなく“メンタリティ”も含めて文化や習慣の違いを両者に伝えられるように心がけています。

——“メンタリティ”というのは具体的にどのようなことですか?

例えば、日本の企業だと一つの決断を下すのに、いくつもの部門に確認と相談が必要で時間を要しますよね。フランス人に「社内で確認中のため遅れています」と言っても、疑問に持たれることが多いのです。その他にも、日本人はYesでもNoでもなくグレーで回答するというのが建前として一つの文化でもありますが、フランス人はなかなか理解できません。

言葉を直訳するだけでは、本来の意味が伝わりきらないということは多々あります。習慣や文化との結びつきなど、言葉だけでは伝わりきらない部分も説明し、円滑に進められるように努めています。

——仕事だけでなく、長いパリ生活の中で感じる日本とフランスの違いは何ですか?

日本は細かく、フランスは大雑把。日本だと地下鉄ひとつとっても、女性専用車両、弱冷房車の車両、降車駅の出口に近い後ろの車両に乗る、など選択肢が多くとても細やかです。対照的にフランス人は大雑把で、事前に綿密なコーディネートを組むということはないに等しい。そのためか、予定をガッチリ入れるという人は少なく、フットワーク軽く動きます。

フランス人はよくSpontané(自発的な/素直な)という言葉を口にしますが、これは思いつきで気の向くままに進める、みたいな意味があります。友達同士だと、急に連絡取り合って会うとか、仕事では臨機応変に流れを変更するといった感じで、フランス人の柔軟な性格を表している単語だと思います。

また、フランスには建前という概念はなく、いつでも素直です。Yes/Noもはっきりしていますし、機嫌の悪い時は明らさま。正直無礼で自分な勝手な人もいて腹が立ってしまうこともありますが、一度仲良くなると家族のように親身になって深く関係を築ける人が多いですね。

これも日本語にも英語にもない概念ですが、フランス語には友達という言葉にもami(信頼できる友達を指す)やcopain(amiよりも比較的軽く、遊び友達の意)という単語が存在するほど、関係性を弁えて距離感を大切にする心を持っています。

これらの言葉を例に挙げても分かるように、言語はその国の“心のあり方”と深く結びついていると思いますね。他の言語や国にはない、フランス特有の考え方や人間性が好きな理由の一つです。

私はもともとはっきりものを言う性格で、表面だけで上手く取り繕うことも得意ではありません。それが、日本から出たいと思った要因でもあると思うんですが、パリにいて私が私らしく素直にいられる気がします。1年のつもりで渡仏しましたが、意外と居心地がよくて成り行きで居着いてしまいました。

——今後の展望を教えてください。

まだ公表できないのですが、フランスでのデジタル関係のプロジェクトも動いているので、近々の発表を楽しみにしていてください。

海外生活にはそれなりに気苦労も伴います。仕事で壁にぶつかることも多々ありますが、自分らしくいられる場所を見つけることが大切ではないでしょうか。

私はこれからもパリで、自分にも他人にも素直に私らしく過ごしていきたいですね。

実は筆者は以前から乗松さんの連載や取材記事を拝読し、大ファンだったため少々緊張気味の取材となった。(パリ在住ファッションジャーナリストとしても大先輩!)おしゃれやユニークなんて常套句では形容できない抜群のセンスの持ち主。
取材を通して、乗松さんのライフスタイルや考え方の”自由さ”がすごく魅力的でさらに惹かれてしまった。それは自分勝手に何でも行動するという意味での自由ではなくて、一定の規律の上で成り立つエレガントな自由。自分の意見ははっきりと述べるけれど、相手の意見も受け止める。自発的だけど決して攻撃的ではなくて。芯は強いけれど柔軟な姿勢。
乗松さんのノンシャランで素敵なライフスタイルをspur.jpやインスタグラムでぜひ覗いてみて!