【新進デザイナー#3 】ロンドンのアンダーグラウンドな世界を映し出すブランド『Martine Rose(マーティン・ローズ)』

「服が売れない時代」と言われて久しいが、毎年世界で多くのファッションデザイナーが生まれている。

潮の満ち引きが激しい業界において、それでも尚ファッションに夢見て、ファッションを通して自身の想いを発信しようとするデザイナーは多いのだ。

連載企画【新進デザイナー】では、独自のコンセプトを武器に荒波のファッション業界に挑む、注目株のデザイナーのリアルな声を届ける企画。

第三回目は、ロンドンのアンダーグラウンドなシーンで活動するMartine Rose(マーティン・ローズ)のデザイナー、Martine Rose。

ブランドの始まりはニューヨークのソーホーにあるブラック・プライベート・メンバーズ・クラブ。

10枚のシャツを作り、メンズウェアのシャツレーベルとしてスタートさせた。

音楽から強く影響を受けたという彼女のデザインは、懐かしさと斬新さが共存する、予想外のユニークさが魅力だ。

ボリューム、シルエット、生地のハリなど思いも寄らぬアプローチはシーズン毎に磨かれ、ファンを増やし続けている。

現在はデムナ・ヴァザリア率いるBalenciaga(バレンシアガ)のメンズチームに参加し、ますます注目を集める彼女。

ウィットに富んだクリエーションで、謎が謎を呼ぶ魅惑的なブランドの魅力に迫った。

 

幼少期に触れた音楽文化

私の家族はジャマイカ出身で、私はイギリスで生まれ育ちました。

とても大きな家族の一番下の妹で、年の離れた姉や従兄弟の影響で幼い時から音楽に触れていました。

ティーンエイジャーにも満たない8歳の頃には、レゲエに夢中だった姉に連れられて、ジャマイカからイギリスに収録に来ていた有名アーティストのスタジオに遊びに行ったりしていましたね。

10歳も年上の従兄弟はレイブに夢中で、毎週末イベントやクラブをはしごしてベロンベロンになって帰ってくるのを見ていたのを記憶しています。

公園で行われる非公式のレイブや、潜りのクラブに通い始めたのが13歳の頃。

音楽文化に出会ったのが普通よりも早かったというのは、私というパーソナリティを形成する上ですごく影響を受けたことだと思う。

今のクリエーションにも大きく影響していると思いますね。

 

14秋冬コレクション

音楽からファッションデザインへと興味が派生した

ファッションに目覚めたというのがいつだったか……。それは今でも分からない。

私は、昔からファッションやデザインに興味があったタイプのデザイナーではないのです。

けれど、姉や従兄弟がドレスアップして出かけていく姿を見ていて、興味を引かれたのは確か。

当時の彼らはオーバーサイズのダボダボの上下、それもプリント柄がパンチの効いた派手なアイテムを身につけていましたね。

90年代の時代の先端をいっていて、とても挑発的で勇敢なファッションをしていた。

様々な時代や音楽シーンからインスパイアされたコレクションをこれまで発表してきましたが、共通しているのは”機能的”であること、かしら。

踊る人のニーズを満たすデザインであったり、色々な文化のユニフォームを発展させると、機能性というのは欠かせない要素として残ったという感じ。

 

ユニセックスブランドと定義したことは一度もない

アートスクールに通いながら、徐々にファッション・デザインという概念を見え始めてきたの。

初めてデザインを手がけたのは、ノルウェーのブランケットを継ぎ接ぎして形成させた妙な形をした”コクーンドレス”でした。

今ではユニセックスのブランドだと定義されることが多いけれど、自分では一度もそう発したことはないです(笑)。

男性は何を着るのか、それを追求するのが面白くてメンズウェアブランドとして進んで来たけれど、私のアイテムを着る女性がいたの。

今の時代、ジェンダーを定義するのも難しいし、中性的なアイテムもたくさん登場させてきたから、ユニセックスになり得るのは不思議なことではないけれど。

特に16秋冬コレクションで製作したファッション・フィルムは、その印象を強く与えたかもしれない。

70年代のゲイのアンダーグラウンドな音楽シーンとセクシュアリティに着目しました。

 

 

あらゆる境界線を曖昧にして生まれるスタイル

デザインの過程においては、過去のモチーフやスタイルを取り出して、現代という文脈に落とし込む、そういう作業をしています。

本来の姿が歪曲し、その背景から引き離すことで、新たな個体としての存在になる。

ひっくり返したり、拡大させてみたり様々なアプローチを仕掛けるのが好きなんです。

すごく馴染みがあって、一見ありふれたものに着目して、着る人のイメージで膨らませながらデザインを手掛けます。

例えば18春夏コレクションの着想源となったのは、「お父さんの服」。

野暮ったくて無頓着で、”どうでもいい”と言っているような、どこにも属さないスタイルさえも、プロポーションを変えてしまえば全く新しくカッコ良いスタイルに生まれ変えることができるのです。

スタイルって変化し続けるもので、時代に応じて別の意味を帯びてくる。

その瞬間は新鮮に見えるけれど、やがてノスタルジックの象徴のようになシンボルへと変わる……。

そんな過去のものを引き合いに出しながら、過去、現在、未来、人種や性別などあらゆる境界線を曖昧にしていく作業が、服のデザインへと繋がっています。

境界線を曖昧にして一体感を得たり、共有したりする感覚こそが、音楽から得た大きな影響。

 

17秋冬コレクション

 

”適応能力”こそが生き抜くために必要なもの

これからも音楽と密接に結び付いたアティチュードでMartine Roseのスタイルは確立されていくと思います。

でも正直なところ、先のプランをしっかり立てているわけではありません(笑)。

今までと同じように、本能的にその時”心地よい”と感じるものだったり興味をそそる事柄に着目して、デザインへと落とし込む作業を続けていきます。

ガチガチに固め過ぎずに、柔軟に対応して時代と呼応する、そんな”適応能力”こそが現代を生き抜くために必要なんじゃないかしら。

ブランドとしても個人としても、新たなことに挑戦して自らを成長させながら、発展していきたいですね。

 

18春夏コレクション