【新進デザイナー#4】資金なし学歴なし。17歳で立ち上げた『VEJAS(ヴェジャス)』のLVMH特別賞獲得への道

連載企画【新進デザイナー】

第四回目は、服作りを独学し、2016LVMH特別賞受賞を果たした弱冠20歳のVEJAS(ヴェジャス)のデザイナー、Vejas Kruszewski(ヴェジャス・クルシェフスキー)。

2016年LVMHにノミネートされたVEJASは、歴代最年少のデザイナーとして一躍その名を全国区へと押し上げた。

当時まだ3シーズン目のコレクションで、Google検索をしてもその名でヒットする記事は数える程度だった。

ファイナリストに名を連ねたFacetasmは東京で10年以上前にブランドを立ち上げ、Y/Projectは既にパリコレに参加するなど、他デザイナーとはキャリアと知名度に大きく差がついていただけに、注目度は大きかった。

さらに彼は、高校時代に自己資金でブランドを立ち上げ、ファッションスクールで服作りを学ぶこともなく独学で全てを築きあげてきた。

LVMH特別賞受賞後は全世界のセレクトショップや百貨店に彼の商品が並んでいる。

華やかなキャリアの背後にあるのは幸運だけではない。それは、早熟な奇才とリスクを恐れないチャレンジ精神が裏付けている。

今回はデザイナー、ヴェジャス・クルシェフスキーに、ファッションに目覚めたきっかけから、ブランド立ち上げ、現在までの経緯について訊いた。

17SSコレクション

全ての始まりは、好奇心から

1996年生まれ、カナダのモントリオール出身です。

好奇心の赴くまま、洋服を始めて作ったのは12歳の時。

主婦向けに作られた、日本の裁縫雑誌やインテリア雑誌を読んで裁縫をしていました。まずはランチョンマットやマグコップカバーなどを作ったりして(笑)。

CelineやBALENCIAGA、miu miuにウィンドウショッピングに行っては、実際に服の構造を見たりなんかもしてました。

高校生の頃には “服”として完成できるまでになり、自分で作ったものを着ていました。

夏休みには裁縫工場でアルバイトをして、ナース服を作ったこともあります。

そして、高校卒業前にVEJAS(ヴェジャス)を立ち上げ、高校卒業後にトロントへと移りました。

トロントを選んだ理由としては、モントリオールよりもアーバンだし、僕には都会のコンクリートっぽさが必要だと思ったからです。

自己資金をはたいて24ピースの制作に取り組み、4ヶ月後にはニューヨークのチェルシー地区にあるギャラリーでプレゼンテーションのような形で披露しました。

来てくれたのは友達や友達の友達、あとは友達の友達の友達(笑)。

発表の場をニューヨークにしたのは人が集まる都市だし、トロントからも近かったからという理由だけ。

17SSコレクション 

好奇心、熱意、出会いがパリへと導いた

その後、ビジネスパートナーであるエマと出会ったり、スタイリストから撮影リースの依頼があったりと、ブランドとして一歩を踏み出しました。

「インターネットで見て君の服が気に入った」とか、Tumblrのメッセージで連絡が来て「遊びに行こうよ!」なんて感じで出会ったんです。

オンラインで人と出会うっていうのは漠然としていますよね。それでもそこから縁が繋がっていくこともある。

スタイリストやバイヤー経験のあるエマは僕のスタジオに来て「散乱しているわね。私の助けが必要でしょ」と言って、それからほぼ毎日来てくれるようになったんです。

僕は服作りに集中できる環境を持ち、3シーズン目に2016年のLVMHに応募。

パリではカール・ラガーフェルドやニコラス・ジェスキエール、マーク・ジェイコブスなど、普段接する機会のないファッション業界人と話すことができました。

最初に服作りを始めた時の好奇心と、頭の中に描いたイメージを形にしたいという熱意、世間知らずな性格、全ての要因がVEJASというブランドを作り、ここ(パリ)に連れてきてくれたのだと思いましたね。

高校を卒業したばかりの僕に資金はなかったし、専門学校で服作りを学んだこともありませんでしたが、あえてリスクをとっていく姿勢が功を奏したのかもしれません。

LVMH特別賞を受賞でき、4シーズンを経て多くのことを学びましたが、立ち止まって入られません。

流れの速いこの業界に取り残されることなく、常に変化し成長し続けなければいけないのです。

 

VEJASの服は、普遍性を引用した新鮮な服

VEJASを見た人に「フューチャリスティックなデザインだ」とか「新しいムーブメントの象徴」という言葉をもらうことが度々あります。

しかし、僕自身はそれらを意識しているわけではないし、むしろ偶然的に現代の思想や価値観にマッチしたに過ぎないと思っています。VEJASの服はウェラブルでユニフォームみたいなもの。

古くから使われている誰もが慣れ親しんだファブリックや、どの時代だと特定できないような普遍的なデザインを引用しているのですから。そこに僕なりのヒネリを加えたり、異質の素材を組み合わせたりと予想外のアイディアを用いて、他にはないデザイン、テーマ、スタイルに挑戦することでVEAJSの服が完成します。

学校へ通ってファッションや服作りについて勉強したことはないので、リスクはあるしトライアンドエラーの繰り返しです。しかし、だからこその僕の強みもあります。服だけではなく他の分野からのアイディアを融合させたり、教科書通りではない方法で規格外のデザインが生まれたり。それがある種の”新鮮さ”を生み出している要因かもしれません。

17FWコレクション

VEJASは自分で作り上げた現実の世界

当初は青二才で無知なデザイナーのブランドだったかもしれないけれど、さまざまな経験を通して、自信を持って自分のブランドを語れるようになったと思います。

高校生の頃はインターネットやSNSを使ってアイデンティティを探求し、理想を追っては幻想を抱いていました、現代の多くの高校生と同じように。

でも幻想は僕にはもう必要ないのです。VEJAを通じて、自らの考えを世の中に提示し、自分だけの世界を形作ることができるから。今は自分自身でいることが心地良く感じられます。何故かって、うまく言語化することはできませんが……。

17FWコレクション

ラグジュアリーブランドとして成長させていきたい

デザインやクリエーションの部分を磨き続けることと同時に、ビジネスの部分も拡大できるよう、顧客やバイヤーが求めているものを見極めることも大切です。バランスの取れたラグジュアリーブランドへと成長させることが今の目標。現代の人々はお金を費やす対象に対して深く興味を持ち、目も肥えてきたように思います。

プロダクトのクオリティだけでなく、その背景にあるコンセプトも重要視しますよね。トレンドも需要も変化し続ける中で、VEJASを着たいと思ってくれる人のために、ブランドとしてしっかり確立させていきたいですね。