ファッション業界で労働者搾取が蔓延していることは、あらゆる調査や研究、レポートで証明済みである。
ではなぜこの問題は未だに解決されていないのか。
そこには、仮に労働者搾取を解決したいと望んでも、現行法制度によって妨げられてしまうという現実が存在する。
Oxfam(オックスファム)による最新レポートによると、衣類関係労働者は実際に販売されている衣服価格のわずか2%程度の給与しかもらえないという。
今月初め、Zara(ザラ)イスタンブール店で、買い物客が服の中に隠されたあるメッセージを発見した。
そこには「私はあなたが買おうとしているこの服を作りました。でも1銭ももらっていないのです」と書かれていたという。
また4年以上前のことだが、バングラデシュの衣類工場の崩壊で1,000人以上の労働者が亡くなった事例もある。
これらは衣類労働者を取り巻く危険性を示すほんの一例にすぎないが、それでも問題は解決に至っていない。
グローバル・バリューチェーン
過去数十年にわたり、モノの生産過程は変化し、より複雑になった。
『グローバル・バリューチェーン』とは、デザインから制作、販売など、製品のライフサイクルに必要な全てのアクティビティを指す。
この膨大なサプライヤー・ネットワーク全てをブランドの統制下に置くのは不可能に近い。
一般的には、ブランドは自分たちが直接コントロールできるサプライヤーに対してのみ法的責任を負い、広大なグローバル・バリューチェーンの中で直接管理の行き届かないサプライヤーに対しての責任を負うことはない。
オックスファムは、発展途上国にある子会社やサプライヤーの労働慣行を改善するよう、ファッションブランドに要請している。
たとえば、『生活賃金』といって、労働者が生活するために十分な賃金を適用するようブランドに要求。
オックスファムの調査によると、この『生活賃金』を実際に適用しても、商品の値段が最終的に1%上がるだけだという。
個々の労働者が生活賃金を受け取れるようにするためには、ブランドはサプライヤーと子会社の監督・調整をさらに強化する必要がある。
つまり、直接的サプライヤーに対してのコントロール強化だけでなく、サプライヤーのサプライヤー、そのまた下のサプライヤーというように全範囲にわたってコントロールを維持する必要があるのだ。
これがいわゆる『チェーン・インテグレーション』と呼ばれるものである。
ブランド側も、実はサプライチェーンを一つに集約したいと望んでいる。
というのも、サプライチェーン統合により、生産効率、品質管理向上につながるからだ。
つまり、ブランドもより幅広いチェーン・インテグレーションを求めているという点では、オックスファムなどの活動団体と同じ方向を向いていると言える。
では何が障壁となっているのか。
それは、ブランドが巨額の責任にさらされるという法的側面に他ならない。
実際にどれだけの金額になるかは定かではないが、たとえば、たった一人の労働者に対する不正行為に対し、裁判所がブランド側に100万ドル(1億円)以上の支払いを求めたという事例がある。
この事例からも、すべての海外労働者に対して負う法的責任の大きさ、そしてブランドがそれを恐れていることは想像に難くない。
ブランドを取り巻くジレンマ
要するに、積極的にサプライチェーンを統制しようとすると、ブランドが法的に不利な立場に立たされるというジレンマがゆえに、この問題は宙に浮いたままなのだ。
労働者搾取に対して企業に責任を求めることはもちろん正しいのだが、かと言って必要以上の制裁は避けるべきだろう。
現段階でリスクだと捉えられている法的責任問題を、変化へのインセンティブに変えられるような方法を見つけられたらいいのだが。