POSTED ON 2022年7月29日 1 MINUTE READ BY 田嶋 嶺子
ソロアーティスト、ボカロP、音楽プロデューサー。様々な形で音楽に関わり、ヒット作を生み出し続けているクリエイターの「くじら」にインタビュー。
くじらといえば、ボカロPとして活動しながら、自分の作品を歌い手に歌わせて発表する『歌い手 feat.ボカロP』の形を定着させた第一人者。さらにyamaやAdoといった数々の才能を世に広めるなど、すでにその功績は計り知れない。
また、今年の4月からは謎に包まれていたベールを脱ぎ、自らの歌唱で作品を発表する形に進化。
生きづらい世の中を懸命にもがくリスナーに寄り添い、自らも「ただ生まれてきてしまっただけなのに、どうしてこんなに頑張らないといけないんだろう」と語るくじらが新作でたどり着いた新たな心境とは。21の質問から、稀代のクリエイター「くじら」の等身大の姿を探る。
Q1.自己紹介をお願いします。
くじらと申します。2019年に、音楽活動をこの名前で始めました。音楽でご飯が食べれることができて幸せです。成人男性です。かわいいものと、食べることが好きです。
–「かわいいもの」とはどんなものが多いですか?
最近だと「ごきげんぱんだ」や「ちいかわ」などのキャラクター、ネイルや服などです。自分がかわいいと思えるものが好きですね。
Q2.小さい頃はどんなお子さんでしたか?
今はかなり落ち着いているのですが、小さい頃はとても活発に遊ぶ子どもでした。
両親が「お前のエネルギーを全部受け止めてくれるのは海しかない」って思ったらしく、ひたすら海に連れて行かれてましたね。
Q3.ボーカロイドとの出会いで人生が変わったとお聞きしました。今でも思い出に残る楽曲はなんですか?
一番初めに衝撃を受けたのは「初音ミクの消失」です。
あとはカゲロウプロジェクトの「カゲロウデイズ」。自分の中の青春でした。Orangestarさんという方の「アスノヨゾラ哨戒班」という曲は、僕だけじゃなくてボーカロイドの歴史の中でも時代を変えた曲でもあります。この3曲はすごく聴いていましたね。
Q4.学生時代はベースボーカルとしてバンドも経験されたとか。デモのためにPCで曲を作り始めたんですよね。
そうですね。自分で楽曲を作るようになってから、音楽を聞く時も分析や言語化を意識するようになりました。
たとえば、すごく好きな曲を聞いた時に、「何で自分は今ゾクゾクしたんだろう?」というのを「この部分でこの楽器が鳴ってるから、今自分はこの曲のこと好きだって思ったんだ」というふうにたくさん抽出していって、自分の楽曲に込めています。
Q5.ボカロPとして活動する中で、ボーカロイドではなく「歌い手」に歌わせるスタイルは当時あまりなかったと思います。どういったきっかけで始まったスタイルですか?
きっかけのひとつは、既存曲についてMVを作って改めて発表する際に「どうやったらファンの方に喜んでもらえるだろう」と考えて、ボーカロイドだけでなく人に歌っていただいたバージョンを出そうと思ったことです。
ボーカロイドでの活動を始めてすぐの頃に、自主制作で『ねむるまち』というアルバムを出したのですが、リードトラックの「ねむるまち」は絶対yamaさんの声で聞いてみたかったんです。でも、こちら側が待っているだけでは「歌ってみた」を投稿してもらえる可能性はほとんどゼロだと思ったので、ダメ元でお願いして「ねむるまち feat. yama」の形ができました。
Q6.その後もAdoさんなど、発掘される前の原石たちとも多くフィーチャリングをされていますよね。普段、音楽をディグる際はどんな基準で聴き込んでいますか?
曲が先にできていて、それに合う人を探す時も多いです。あとは普段音楽を聴いてて、「この人の歌を、自分なら絶対にもっと引き立てられる!」と感じた時に一緒にやりたいと思います。自分がその人のファンだからこそ、より魅力を引き出したいと思うんです。
Q7.アーティストへの楽曲提供も多いですが、楽曲の雰囲気や方向性はどうやって決めていくことが多いですか?
自分の作品にfeat.していただく時は基本的に1回も相談せず自分の中で作り上げます。でも、相談はしない代わりに、めちゃくちゃそのアーティストさんの曲や声の感じを聴きますね。オーダーメイドを作って渡す、という感覚です。
依頼を受けて提供するときは、事前に要望をお聞きすることもあります。
Q8.「春を告げる」のヒットやレーベル所属など、この数年でご自身を取り巻く環境は大きく変わったと思います。何かご自身の中での変化はありますか?
2020年に『寝れない夜にカーテンをあけて』というアルバムを作ったときに、発注やCDのプレス工場への納品、集荷、発送まで全部自分でやったんです。その最中に、自分が思ったよりも多くの方に求めていただいてるっていうのを自覚して、これぐらいの多くの方に求めていただいてるんだったら、人の手を借りなきゃいけないところまで来たんだな、と思ってレーベルに所属することにしました。
実はもともと、あまり事務作業が得意なタイプではないというのもあって……(笑)。でも思いっきり所属っていうよりは、半分フリーみたいな感じで、すっごく自由にやらせてもらっています。
Q9.現在はご自身で歌う楽曲も増えていますが、新しいフェーズに進むきっかけはありましたか?
今までは周年のタイミングなどで自分の元々あった曲をセルフカバーするくらいでした。去年の「悪者」という、初めて自分名義でしっかりリリースした曲がきっかけで、ここから自分で歌っていこうと思いました。
Q10.これまではあまり顔を出さずに活動していましたが、4月からは徐々に解禁されていますよね。
今までは自分のリスナーの方だけでなく、フィーチャリング先のリスナーの方にも聴いていただいていたので、楽曲が広まっていくチャンスが多くありました。
ただ、やはり自分で作って自分で歌うとなるとなかなか新しいリスナーさんに聞いてもらう機会が少なくなるんです。自分が顔を出すことで広告塔やキャラクターとして、いろんな媒体だったり、前に出ていけるようになるので、自分の音楽に触れてもらえるきっかけができたらいいなと思っています。
あとは、自分の声で届けるので、その覚悟や責任を込めてしっかりと顔を出すことにしました。
改めまして、くじらです🐋 pic.twitter.com/BYZpwOnNbm
— くじら アルバムがでます (@WhaleDontSleep) April 1, 2022
Q11.くじらさんの歌詞を聞いていると、心情と情景の描き方のバランスなどが小説みたいだなと思うことがあります。歌詞を書くときにどんな視点から書くことが多いですか?
歌詞を書くときは、なるべく日常の中で思ったことや、「こんなクエスチョンを持っていて、こういうアンサーが自分の中で出たんだけど、どうだろう?」みたいな感じで書いています。
あとは「綺麗だなと思った景色を、どうやったら言語化できるんだろう」と考えながら、なるべくチープではない言葉で書き表せるようにしています。
なるべく難しい言葉ではなく、みんなも知っているしすごく手頃にある言葉だけど、これとそれをくっつけて、そこの文脈に置いたらすごく特殊な輝きを放つ、みたいなものを発見するのが好きなんです。
Q12.「悪者」では歌詞を小説化してさらにMVで映像化するという多角的なチャレンジもしましたよね。アイディアはどこから浮かんできましたか?
ボーカルを担当した歌い手の相沢ともともと仲が良くて、彼女が歌うならこういうメロディーでこういう内容が合うだろうな、と考えながら書いたのが「悪者」です。
MVを男女それぞれの視点から2本作ったのですが、「別の角度から見ると思ってた話じゃなかった」という構成にしてあります。
小説も、もともと僕が好きなカツセマサヒコさんに書いていただきました。興味を持っていただけた人に、一つのコンテンツとしてより深い世界観を楽しんでいただけるように、そしてより深く衝撃を与えられるように突き詰めて考えた作品になりました。
Q13.新作についてお聞かせください。「水星」ではコーラスにyamaさんやAdoさんが参加していると聞きました。まさにアベンジャーズ感がありますね。
本当に嬉しいし、ありがたいです。曲の雰囲気も今までとは少し違っていて、これまでだったら「いろんなことがあって、それはもうしょうがないよね」みたいな感じだったのが、「思い切っていっちゃおう!」みたいな感じです。
生活する上でいろんな悩みがあると思うんですけれど、その場から離れる決断をするのってなかなか難しいですよね。でも、そもそもそうやって悩んでいること自体がまず正解だから、もし勇気が出ないんだったら飛び込んでみようっていうメッセージを込めました。
より説得力が高まったらいいなと思って、いろんな方に楽曲に関わっていただきました。
—リスナーに対する応援団みたいな?
そう、本当に応援団のような感じです。説得力マシマシでいきたかったので。
Q14.一方で、「生活を愛せるようになるまで」は生きることを諦められない人に対する人生賛歌に聞こえました。アルバムのタイトルでもありますが、どんな思いを込めましたか?
アルバムを作るときって、毎回自分の中で新しい発見があったときや価値観が変わったときなんです。1個前の『寝れない夜にカーテンを開けて』というアルバムの時は、新型コロナが流行りはじめたタイミングで僕も咳と熱が止まらなくなってしまって。結果的に僕の場合は喉の風邪と胃腸の症状が併発してしまっただけだったのですが、本格的に自分の死が間近に迫ってきたように感じました。
その時にまだやり残したことがあるなとか、生きることに対してマイナスの気持ちが多いけれど自分って実は生きたいんだ、と思って作ったのがその時のリード曲「寝れない夜に」でした。
今回の「生活を愛せるようになるまで」は、その上でどうにか生きていくためのゴールとして、”生活や自分の事、自分が歩いてきた道のことを自分で肯定できるというのはすごくすごくすごく尊いことだ”という思いを書いた曲です。
”ただ生まれてきてしまっただけなのに、どうしてこんなに頑張らないといけないんだろう。死ぬほどの勇気はないし、食べていくにはお金が必要だし、どうしようもないね”みたいな気持ちに対する、一つのアンサーです。
Q15.これまで作った楽曲の中で一番お気に入りのフレーズはなんですか?
「生活を愛せるようになるまで」がやっぱり一番かな。
こういった言葉が自分の中から出てきたこと自体がすごく嬉しいですし、レコーディングとかで歌っているときも、すごい曲を書いたなと思っていました。この曲に自分が勇気づけられることもあるので、これが多分一番好きなフレーズですね。
Q16.最近ヘビロテしている楽曲はありますか?
銀杏BOYZさんの「BabyBaby」ですね。ここ1週間くらいこれしか聞いていないです。
オードリーの若林さんと、南海キャンディーズの山里さんが「たりないふたり」という2人のライブをするときの出囃子なんですよ。銀杏BOYZさんのライブバージョンって熱いんだろうなと思って今日改めて検索してみたら、MCがついている動画があって、それを見ながら電車の中で泣きました(笑)。
Q17.本や映画のおすすめはなんですか?
本で大好きなのは、村上春樹さん。全部読んでいます。あとは村田沙耶香さんの『地球星人』を読んで、彼女の思想に引っ張られないようにするのが大変でした。ある視点から見ると純粋にすごく正しいことを言っているので、頑張ってひいてひいて、読みましたね。
映画は『生きてるだけで、愛。』が好きです。こういうガツンとくるタイプの映画も好きだし、『アイアンマン』みたいにエンタメに振り切ったのも好きです。
Q18.ご自身の中で譲れない“こだわり”を教えてください
うーん……強いて言うなら、「徹夜の遊び場には行かない」ですかね。シンプルに苦手なのと、徹夜すると次の日体終わっちゃうし、肌荒れもすごくなっちゃうので。ずっとお家にいます。
Q19.現在は楽曲以外にもSNSなどリスナーとの繋がりは増えていますよね。何か気をつけていることはありますか?
「なるべく弱音を吐かないこと」ですかね。楽曲を聴いていただいたら分かると思うんですけれど、元々とても心配性だし、落ち込みがちなタイプなんです。
でもそういう人が楽しそうに活動してる姿を見せることで、「自分もちょっと頑張ろう」って思ってもらえるかなと思っています。曲に書き起こせない意見も1年に1回ぐらい言うことはありますが、基本的にはただただ楽しそうにやっていくことを心がけてます。
あとこれ最近見つけた絵文字なんだけど可愛すぎない?ずっとマインドこれがいいわ🫶🫶🫶
— くじら アルバムがでます (@WhaleDontSleep) May 11, 2022
Q20.将来自分が何をやりたいか悩んでいる若い世代に向けて、何か伝えたいことはありますか?
選択肢が多すぎるからこそ、やりたいことを見つけるのが大変な時代ですよね。
その分、やってみたいと少しでも思ったら失敗してもいいから挑戦してみてほしいです。自分が思いついたことを実現できるプラットフォームが、きちんと探せば100%あるので、アイディア次第で何者にもなれると思います。
悩んでいるということは自分の将来とか自分に対して真摯に向き合っているということだと思うし、若い世代ならではの生き急ぐパワーに勝てるものってなかなかないと思うので、僕もまだ20代ですが生き急げるだけ生き急いでいいと思います。
Q21.最後に、今後の展望を教えてください。
今後は、このアルバムを出してライブをやったりしていきたいですね。もう少し、生身対生身で音楽をできる時間があるといいなと思っています。
Photograph:Korogi Maho
Interview&Text:Tajima Ryoko
【くじら】
2019年4月1日に活動を開始。
作詞作曲編曲全てをくじら自身でこなしVOCALOIDを使った作品や、yamaやAdoなどのボーカルfeat.作品、また楽曲提供など精力的に作品を世に出し続けている。
2019年7月VOCALOIDアルバム「ねむるまち」を発表。2020年10月には、feat.とVOCALOIDを主としたアルバム「寝れない夜にカーテンをあけて」を発表。2021年からは、小説家・カツセマサヒコなどともコラボレーションした「悪者」を皮切りに、自身歌唱の新曲も発表。
楽曲提供依頼も後を絶たず、yamaの初オリジナル楽曲「春を告げる」を皮切りに、DISH//やSixTONESなど、シーンを問わずそのクリエイティブを発揮している。
活動歴たった2年にも関わらず、圧倒的な実績を積み重ねる「くじら」。新世代クリエイターとして音楽シーンの高い注目を集めている。
Official HP→ https://www.whaledontsleep.tokyo/
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【リリース情報】
くじら 初の歌唱アルバム「生活を愛せるようになるまで」
2022年8月17日(水)発売
数量限定完全生産限定盤:CD+オリジナルグッズ、特殊パッケージ仕様 / \8,000+税 / SRCL-12191~2
ご予約はコチラ⇒ https://smr.lnk.to/wdsseikatsuCDnWN
通常盤:CDのみ / \3,300+税 / SRCL-12193
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