Nike(ナイキ)が小売業界全体を震撼させるニュースを出した。

現在3万を超えるリテールパートナーを保有しているナイキだが、今後はその時間や資本をそのうちの40の業者に集中させていくという。

これら少数精鋭のリテーラーは「戦略的リテールパートナー」と呼ばれ、売り場環境内にナイキのためだけに用意されたスペースを作るようになるという。

ナイキはブランドの崩壊から身を守るためにマスマーケットを見捨てるかどうかという大きな決断を強いられていたとも言える。

ハイパーリテイラーやデパート、ディスカウントショップなどがかつて提供してくれたリーチ、普遍性やマーケット・ペネトレーションといったものが今では彼らの大切な商標から資本価値を吸い上げているという現実に気づいているブランド代表者は少ない。

次のトレンドや新商品が常に求められる現代で、マスリテールは露出のされすぎで毒性のあるものになってしまった。

商品よりも購買経験が重要な消費者にとっては、マスリテールは何の価値も生み出さないのだ。

ナイキもまたこうした流通戦略を再考しているブランドの一つに過ぎない。

 

マスマーケットから撤退する大手ブランド

今年Coach(コーチ)が百貨店に入っている250店舗を閉店すると発表した。

Michael Kors(マイケル・コース)も同様の発表を行っている。

高級アウターブランドのCanada Goose(カナダ・グース)もまた卸売から販売を行っていたが、現在は消費者への直売で利益の半分を売り上げるという長期的目標を掲げている。

マスマーケットからのハイブランドの撤退が進んでいるが、それによってマスリテールは大きな影響を受けるだろう。

さらに、ナイキの発表においてより重要なのは、ナイキが現在保有する小売ネットワークのわずか0.1パーセントのみがナイキの時間や資本の投資に値すると公言したことである。

ナイキのリソースとして残った業者は、現在ブランドの売り上げの30パーセントを占める直営店やウェブサイトを通しての消費者直結ビジネスの成長に当てられるという。

これは決して小さな変化ではなく、小売市場の再構築と、卸—小売モデルの崩壊を象徴していると言っても良いだろう。

 

これからのリテールモデル

今日の小売市場はラグジュアリー、中間、格安の3つに分かれているが、次の10年でよりはっきりした2つのアプローチに分断されると予測される。

ひとつはブランドが最も利潤を得られる方法で大規模な消費者に対応することに焦点を置いたアプローチ、もうひとつは実店舗とオンラインショップを駆使し、商品・カテゴリーごとの消費者経験を完成させようとするアプローチだ。

二つ目のアプローチでは理想的な体験を定義し、真にユニークで記憶に残る消費者体験を提供するために「プロダクト・アンバサダー」を採用し様々な技術が使われるようになるだろう。

記憶に残る体験をすることで、長く続くポジティブな体験記憶が消費者に刷り込まれるのだ。

ブランドパートナーに大きな売り上げをもたらすことが新時代のリテーラーの目標である。

4方を壁に囲まれた店舗内での売り上げにのみ焦点を当てている今日の店舗とは異なり、未来の体験型ショップは直接的なセールスや自身のチャンネルなど多様な方法で顧客を満足させるようになる。

売り上げを作る要因よりも強烈な購買経験を提供する方が大切になってくるため、ナイキは新しいパートナーには慣習的な売り上げのマージンだけではなくメディアやエージェント料金などといった費用をも支払うことになる。

ナイキは彼らにとって販売元ではなく、クライアントになるのだ。

こうした文脈において、ナイキの発表は業界のシフトを示唆する重大なものとなった。

ナイキは単に新しいブランド戦略を展開しているのではなく、これまでよりももっと鮮明に、全く革新的な小売の時代を予告していると言えるだろう。