中国のダイナミックなトレンド変化を追う。アパレル・コスメの進化し続ける産業構造とマーケティングの秘密を聞く

中国発の若者トレンドが熱い。特にメイク、ネイルの分野ではすでに日本人のTwitterやInstagramでも頻繁にやりとりされ、多くの人の参考になっている。

その情報の発信元と言えるのが、中国版Instagramとも呼ばれる中国発のSNSアプリ、RED(小紅书/小紅書)。世界中からダウンロードが可能だ。

連載第3回では、中国にルーツを持つ日本育ちの「小方・ほーちゃん」さん(以下、ほうさん)にインタビュー。化粧品業界を経て、現在は企業やブランドの中国進出を手助けするブランディングやマーケティングを強みとしたコンサルとして活動している他、自身も中国版TikTok「抖音」で15万フォロワーを抱えるインフルエンサーだ。


REDの使い方から一歩踏み込んで、ダイナミックな中国のアパレル・コスメ産業の裏側や日本との違いについてお聞きした。

連載の過去回はこちらから

–前回、前々回の話の中で、印象的だったのが、「REDではありのままの口コミが一番受ける」という話でした。中国と日本では消費者のスタンスが大きく違うと思いますが、ほうさんから見ていかがですか?

確かに消費者のスタンスは大きな違いだと感じています。

日本ではSNSでもレビューサイトでも、商品や体験に対するポジティブな書き込みがほとんどですよね。逆にネガティブなことを書くと、クレーマーというふうに見られたり、企業側が法律を持ち出して削除させようとしたりする一面もあります。名指しで「この商品をこうやって使ったらこうだった」と言いづらい風潮ができていますよね。

一方で中国だと、悪い口コミが書かれないように企業側が対策を取ることってあまりないんです。というより対策できないと言う方が正しいかもしれません。企業がSNSなどのプラットフォームを介して投稿を消しにいくなどのこともできないですし、REDのようにリアルな口コミを強みとしたプラットフォームはユーザーレビューが第一です。

本当にクリティカルな指摘だったら改善のためのフィードバックとして活用できますし、そうでなければその投稿を見た人がきちんと「私はそんなことなかったよ」「私の場合はこう思った」という風な反応が追加されることが多いからですね。

日本の人に比べて、中国の人は「みんなが同じ意見じゃないといけない」という気持ちが薄いので、「個人によってアンマッチ(合う・合わない)が起こるのは当たり前」という前提がしっかりしているんです。

そういった土壌があるので、企業にとっても正直な口コミというのは基本的に歓迎されますし、わざわざお金を払って市場調査をしなくてもREDや販売サイトでたくさん意見があがるからむしろありがたいほどだと思います。

–確かにそれは大きな違いですよね。正直なやりとりがオープンにされているのは魅力です。


今日本の若い人の間でも人気があるSHEINもそうですよね。


労働など社会的問題が各所で取り上げられSNSでは賛否両論の意見が飛び交っていますが、今回はその部分を一度切り離してお話しすると、サプライチェーンやシステム、マーケティング、PR、広告…と資金面でも能力面でも優れているという点に加えて、個人的にはあのアプリの商品ページ内のレビューコメント欄にも注目ポイントがあるなと思っています。


他のECサイトでもレビュー欄はありますが、SHEINでは購入した人の実際に着用した写真がたくさん投稿されているんです。「このサイズがどうだった」って文字で書いてあるよりも、実際に届いて着た画像とコメントをつけてくれた方が、見ている側からしても圧倒的にわかりやすいですよね。


一番気になる品質の部分や、色合い、サイズ感が一目で見れる。そういうリアルな感じというところは、中国のサービスならではの良さを上手に利用しているなと感じています。


さっき見たアイテムでは、スニーカーの靴底に定規を当てて「実際に何cmだった」というのを投稿している人がいました(笑)。日本のファッションアプリではあまりない光景ですよね。

(↑SHEINアプリ、商品ページのキャプチャより。1000件以上の口コミが集まることも珍しくなく、その多くが画像付きであることも特徴的。)

 

–洋服のトレンドのお話を少し聞かせてください。最近では中国のファッション業界もすごく盛り上がっていますよね。国産ブランドについてはいかがですか?

以前に比べると中国のファッション全体が洗練されてきたと感じますね。

ファッションのジャンルでいうと、数年前から流行っている、中国の伝統的なファッションを取り入れて現代風にアレンジする「国潮」ファッションも今では定番になりました。ロリータを普段着でも着やすいようにアレンジされたブランドやガーリーなブランド、レトロ系にストリート系のブランドもそれぞれ人気があり、カテゴリーが増えてきました。

個人的には派手な色の色使いが上手なブランドがたくさん増えていると思います。日本ではあまり見かけない色の組み合わせも、個性的に、斬新に組み合わせてカッコよく仕上げている印象です。

当たり前かもしれないですが、中国人が好むデザインの服をうまく作り出せるのはやっぱり中国人なんです。中国はある意味閉ざされた空間でもあるので、マーケティングの面からも中国国内の事情やトレンドがわかっている人が勝ち残っていきます。デザインから生産、販売まで国内で全て完結できるので、スピード感も値段も他の国のブランドと比べると段違いですね。

–「ブランド品」に対する意識も変わってきたと思います。中国といえばコピー品が多いイメージをいまだに持っている日本人もいますが、その辺りの温度感はどうでしょう。

確かに変わってきていますね。物によっては、本物を証明するための商標や証明書をプラットフォームに提出しないと販売できない仕組みになっていたり、国全体がきちんと対策を取っています。

特に、体内に直接取り入れる食品や化粧品に関しては、効能検査や安全関連情報の提示が必須になっていて、どんどん取締りが厳しくなっています。品質の保証だったり、安心・安全の面ではかなり良くなってきていますね。

–確かに、品質面での後押しもあって、中華コスメは日本の量販店でも買えるようになったりどんどん人気が伸びていますよね。中国国内では近年フェイスパックが大ブームという風にお聞きしました。


そうですね、2・3年前の時点で「もうフェイスパック業界はレッドオーシャンだ」と言われるくらい相当な人気があったのですが、実は今でもまだまだ伸び続けている一大トレンドです。


フェイスパックといえばシートマスクが定番ですが、この数年はそれに加えて「泥パック」タイプの物や、「自分で混ぜて作る」タイプなどバリエーションがどんどん出てきています。


この数年のステイホーム期間でも、みんなが家で気軽に試せて投稿もできるので、情勢的にも相性が良かったのかもしれないですね。


それと、最近は美容液やセラムも売り上げがとてもいいと聞いています。これまでは海外の有名ブランド(日本でいうデパコス系)のものがずっと上位シェアを占めていたのですが、この数年で国産ブランドを中心にした中価格帯の商品がぐっと増えましたね。


これまで美容液といえば10,000円以上出さないと買えない高級品だったのが、今は安いものだと3,000円くらいの価格帯で手に入るようになったイメージです。瓶のデザインが可愛かったり、安価な割にきちんと品質の保証がされていたりするのが魅力ですね。

–個人的には中国の若者カルチャーがこれから日本でもどんどん流行するんじゃないかと期待しているのですが、ほうさんから見るといかがですか?


中国は古いものを活かしながらも、どんどん新しいトレンドを生み出すサイクルがすごく早いです。ただ、なかなか食以外の中国文化が日本に入ってこないんですよね。


中国企業の日本進出が難しい部分もまだあります。日本と中国では文化や商習慣の違いもありますし、そもそも国内市場が大きいのであまり海外進出に力を入れられないというのもありますね。


しかし、2022年の年末にようやく中国でもコロナが明け、来年春以降には国と国同士の行き来がしやすくなります。となると、まずは日本に観光と買い物をしに多くの中国インバウンド客が来るでしょう。


東京と大阪の中心都市に限らず、地方もこれまでの何倍もインバウンド客で溢れかえる想定です。その時に、インバウンド客の対応が追いつかない、なにかの機会を取りこぼしてしまわないよう、今から準備をコツコツ始めている企業も多く見受けられます。


最小コストから始められる手法も多種多様です。インバウンド客が戻ることをきっかけに、日本企業や産業の活気づけに繋がることを祈るとともに、私もその手助けができたら嬉しいなと思っています。

【お話を伺った方】

虞 方瀅(Gu Houei)

武蔵野美術大学卒業。

メーカーで販売促進、広告代理店でイベントの営業企画を経験した後、中国企業の日本国内におけるインバウンドプロモーション、日本企業の中国向けアウトバウンドの企画ディレクションに携わる。上場企業にて化粧品ブランド中国市場展関の0→1立ち上げに従事し、2022年に独立。同年ZEREN株式会社を創業。

IT先進国である中国から範を取った新規事業やtoCサービスの立ち上げ及びリブランディングのサポートをはじめ、中国進出における戦略立案からブランディング・SNSマーケティング・物販を一貫してディレクションできることが強み。

さらに、中国版Tiktok “Douyin”にて運用開始3ヶ月で10万フォロワーを獲得した実績を持つ。中国系インフルエンサーのマネージャーやブランドの中国進出の支援をしながら、自身でも動画コンテンツの企画や撮影、制作そして発信を行い、自社ブランド及びサービスの開発を手がけている。

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