Manolo Blahnik(マノロ・ブラニク)の靴は、マドンナがかつて「セックスより最高!」と名言を放って称賛したほどに、女性なら誰もが憧れる。
「もし神様が女性たちにフラットシューズを履きなさいと言うとしたら、神様はきっとマノロ・ブラニクというデザイナーを生み出さなかったからよ。」
と書いたのは元英ヴォーグ誌エディターのAlexandra Shulman(アレクサンドラ・シュルマン)だったが、45年に渡って女性のために靴をつくり続けてきた古参のデザイナーは、上質ではき心地が最高でワクワクするようなメンズシューズのデザインに専念すべく、初となるメンズストアをロンドンにオープンした。
ブラニクの友人で俳優のRupert Everett(ルパート・エヴェレット)は「彼のデザインするメンズシューズはどこか少しだげ女性のものよりフェミニンなんだ」と語る。
さて、マノロブランドはどのように世の男性たちを魅力していくのだろうか。
The Gurdianのインタビューで見せたデザイナーの素顔に触れていこう。

「マノロブランド」への忠誠心
Vetements(ヴェトモン)といったラディカルなブランドや、あるいはブラニク曰く「とんでもなく希有な」存在のGrace Wales Bonner(グレース・ウェールズ・ボナー)といった若手のデザイナーの登場にしろ、ファッションはブラニクの周りで目まぐるしく変化する。
他のデザイナーたちが分厚いソールのプラットフォームシューズに傾倒しがちな中、マノロはトレンドによらずそのスタイルを誠実に貫いている。
控えめなピンヒールに、パテントレザーと華やかなカラー。
彼が大切にしている顧客の一部は恒例のサンプルセールでマノロの靴をゲットするべく、明け方に家を発ち遠方から足を運ぶ。
「私の孫娘であってもおかしくない若い女性たちが長い行列をつくってくれるんだ。始発の列車に乗って、ウェールズとやそこらから来てくれて。そんな女性たちが大好きだ。」
そのような熱狂的なファンは映画『Sex and the City(セックスアンドザシティ)』でサラジェシカパーカー扮するキャリーを思い出させる。
キャリーがマンハッタンの路地裏で強盗に遭遇した時のあのセリフはあまりにも有名だ。
「フェンディのバッグも、指輪も時計も盗んでいいわ。でもどうか、私のマノロだけは盗まないで!」

変わらずに大切にしているものとは
ドキュメンタリー映画「 Manolo: The Boy Who Made Shoes for Lizards(マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年)」の公開は記憶に新しいところだろう。
John Galliano(ジョン・ガリアーノ)やNaomi Campbell(ナオミ・キャンベル)、そして偉大な友人のMary Beard(メアリー・ビアード)といった数々の著名人たちがブラニクの芸術性について語り、そして彼のデザインの至る所に織り込まれた歴史的知見について言及している。
ブラニク自身は、(ディケンズとフローベルの小説と同じくらい)映画をこよなく愛している。
インターネットの良い点は古い映画を蘇らせてくれたことと話す彼は、時間が許すときにはイギリスのBath(バース)にある自宅で女優 Angela Lansbury(アンジェラ・ランズベリー)が出ている映画ばかりを観ていた。
『ガス燈』や『スウィーニー・トッド』といった映画、特に前者のストーリーは昔の映画がよく政治的事実を含んでいたことを彼に思い出させた。
「今の時代は全てが政治的で、腹立たしくなるよ。政治にも政治家たちにも興味はないけれど、みんな不恰好で見苦しい。もし彼らが美しかったなら、私の考え方も変わっていたかもしれないな。実際にそこにあるけれど手の届かない美しさが好きなんだ。」

昨年米メラニア大統領夫人がエアーフォースワンに乗り込む際、彼女はマノロのスネークスキンのピンヒールを履いて報道陣の前に登場した。
ハリケーンで被災したテキサスの視察へ向かうためだったので、「誰がピンヒールを履いて被災地へ向かうんだ?」と一部メディアからは不適切なファッションへ疑問の声が上がった。
メラニア夫人は実は20年に渡ってマノロの上顧客だったので、配慮に欠けたと思われる彼女のファッション騒動の最中、ブラニクは彼女を擁護するようにこう語っていた。
「私は彼女が無神経だったようには思わない。私が思うに、靴を履き替える余裕がないほど職務を全うすべく彼女は必死だったんだ。私は政治のことなんか少しも知らないけれど、彼女が美しいという事実以外何も必要ない。」

メラニア夫人の話題が上がった時ブラニクはわずかにため息をついた。好ましい話題ではないのだ。
「メラニア夫人はよくブティックへ来ては一緒に話したものだよ。とても素敵な女性で、容姿端麗。最近は見かけなくなってしまったけれど、彼女が政治家と結婚したことは全く関係ないこと。」と冷ややかな笑みを浮かべながら語った。
マノロ・ブラニクは政治に関心を持っているのか?答えはノーだ。
「私は好きなものと嫌いなものがはっきりしている。美しいものが私にとって一番重要なんだ。イタリアの彫刻家アントニオ・カノヴァなんかの彫像は言うまでもなくもちろん好きだ。神々しくて、私は決して手の届かないようなものに惹かれるんだ。」

イギリスで見つめる先には…
「そこにあったものがある日失われてしまうことに、ノスタルジックというよりは憂鬱さを覚えるんだ。例えば、Bell & Croyden(ベルアンドクロイデン)はロンドンで素晴らしく特別で凝った装飾の薬局だったのに、ある日店の前を通ったらテキサスにあるようなだだっ広いスーパーマーケットみたいになってたんだ。こういったことは本当に悲しいし、憤りを覚えるよ。なぜパーフェクトだったものが変化を遂げなければならないのか?ロンドンのBond Street(ボンドストリート)も同じだ。ローマだって、リオだってそれはどこでも起こりうることだ。ほらDolce & Gabbana(ドルチェ&ガッバーナ)はいたるところにあるでしょう。そんなの世界的ナンセンスだよ。」
とは言いつつも、ブラニクはずっとイギリスを敬愛している。
「ロンドンは私にとっていまだにエキゾチックで面白いよ。ここでは一度も自分が外国人だって感じないんだ。私の英語は完璧ではないし、自分が外国人だってことをもしかしたら自覚すべきなのかもしれないけれど、でもこの地を異国に感じたことはないんだ。」

今年7月にオープンしたメンズストアは、バーリントン・アーケードにあるウィメンズ・メンズシューズとバッグコレクション、そしてリミテッドエディションアイテムを揃える複合店と隣接している。
店内はもともとあったエドワード王朝風のマホガニー材の壁と棚を活かした内装で、抽象的なモチーフが描かれたラグはブラニクのデザインによるものだ。
メンズストアのオープニングパーティで招待客に配られたニュースペーパー『The Blahnik Chronicles(ブラニク・クロニクル)』には「マノロによる福音」というウィットに富んだ記事があり、そこにはマノロのスタイルに言及して次のような言葉が綴られていた。
「インスピレーションがいつ降ってきてもよい様、常に備えよ」「隅々まで見よ」「技巧を磨け:一貫性と忠誠心は最後に必ず実を結ぶ」
出典:https://www.theguardian.com/fashion/2018/jul/08/manolo-blahnik-mens-shoes
インタビューの終盤になって初めて話続けていたブラニクをふと静寂が包んだ。
彼は小包を届けにきた宅配ドライバーを見つめていたのだ。
ユニフォームによく合ったグリーン色のバンダナを身につけたそのドライバーは、スマートな会釈とともに受け取りサインをするための機械をアシスタントに手渡した。
ブラニクはまさに釘付けだった。
ドアが閉まると彼は喜びにはっと息を飲んで鼈甲の眼鏡の奥で目を見開いて叫んだ。
「スタイルがいろんな所に!」
まさに「マノロによる福音」の実現である。
女性の靴に対してメンズシューズのデザインはより時間がかかるとブラニクは言う。実際のところ売り上げを伸ばすのも難しい。
「男性たちはドレスアップすることにあまりときめかないからね。むしろ退屈しがちだ。」
と、話す飽くなき挑戦心を抱く75歳のデザイナーは、メンズシューズをデザインすることに楽しみを隠せないご様子だ。