ファッションデザイナーのMatthew Williams(マシュー・ウィリアムス、以下マシュー)。
現在『ALYX(アリクス)』のデザイナーとして世界から認知されているマシューだが、意外にも彼の音楽業界での輝かしい過去を知る人は少ない。
そこで今回は、マシューのクリエイションの基盤を形作ったとも言える過去の経歴を紹介しながら、現在の『ALYX(アリクス)』に至るまでの彼の物語を見ていこう。
大学を中退し、ファッションの道へ
19歳のマシューはアートを専攻していたカリフォルニア大学を半年で中退している。
ロサンゼルスにある友達のデニムブランドでインターンとして働くためだ。
ここで彼はパターンメイキングを学び、自身のキャリアをスタートさせる。

音楽業界でのビッグネームとの出会い
ニューヨークに移住すると、レディー・ガガ(以下、ガガ)お抱えのファッションチーム『ハウス・オブ・ガガ』のクリエイティブ・ディレクターとして、ステージ衣装からプライベートでのファッション、アクセサリー、MVやパフォーマンスで使用する小道具などを手がけた。
ガガはマシューのことをよっぽど気に入っていたのか、彼を「ダダ」の愛称で呼び、なんと交際にまで発展している。
そんな親しい間柄であったが、2011年、マシューは『ガガ×シュプリーム』のコラボプロジェクトを最後に『ハウスオブガガ』を去ることとなる。

マシューの才能に惚れ込んだ音楽業界のビッグネームがもう1人。それがカニエ・ウエストである。
2人の出会いは、カニエのスタイリストがマシューに、デザイナーのオファーをしたことがきっかけだ。
そうしてマシューはカニエがグラミー賞授賞式で着用する衣装を作る機会を得る。カニエはこれを気に入り、彼を自身のチームに招いたのである。
マシューはカニエとの出会いについて以下のように語っている。
“Kanye is number one. He is the person that gave me my first break. I created a suit jacket for him to wear to the Grammies when I was 21 and he asked me what I did, and I told him I was working at this clothing brand. He then asked me how much I got paid, to which I replied “nothing” and he said, ‘OK I’m going to give you double nothing to come work with me.’
”カニエはナンバーワンだ。僕に初めての成功を与えてくれた。21歳の時、彼がグラミーで着用するジャケットを作った。それでカニエから「今、何をしているんだ?」と聞かれたから、「ファッションブランドで働いている」と答えた。続けて、「どれぐらい給料をもらっているのか?」と聞かれ、「もらってないよ」と答えたんだ。
すると彼は言った。「そうか、じゃあ、俺と一緒に働かないか」と。”
(COMPLEXより)

こうして、カニエと共にパリやロンドンなど世界中を駆け巡る多忙な生活がスタートし、彼のアーティスティック・ディレクターとして、衣装やステージセットからミュージックビデオ、アルバムデザインに至るまで全てを手掛けるようになっていった。
『#BEEN TRILL#』
マシューはカニエの元で働いていた際、カニエのクリエイティブ・ディレクターであったヴァージル・アブローと出会う。
この出会いがきっかけとなり、2012年にヴァージル・アブロー, ヘロン・プレストンらと共同で立上げたのが、DJ・アート集団である「#BEEN TRILL#(ビーントリル)」である。

『ビーントリル』はミックステープの配信やパーティーの開催、不定期にTシャツなどをリリースするなど、多種多様な活動を行うグループであった。
SNSでのハッシュタグを多用したプロモーション(ブランド名そのものにもハッシュタグが用いられており、グループを象徴するアイコンのようなものだった。)でインターネットを席巻し、彼らがデザインした『#BEEN TRILL#』のロゴがあしらわれたファッションアイテムは、一時カルト的人気を誇った。
だが元々『ビーントリル』は、マシューたちがナイトクラブを仕切り、自分たちの好きな音楽をただ友達と楽しむために仲間内で集まったことが始まりであるため、彼自身これほど大規模なムーブメントになるとは思ってもいなかったという。
予想もしていなかった成功であったが、これがマシュー・ウィリアムスの名を世界に轟かせることになる。
シグネチャーブランド 『ALYX(アリクス)』
『ALYX(アリクス)』は2015年からスタートした、マシュー・ウィリアムスのシグネチャーブランドである。(ブランド名『ALYX』はマシューの愛娘の名前が由来)
スタートしてから2年間はウィメンズのみの展開だったが、2017年秋冬シーズンからメンズコレクションをスタートした。
カニエやガガとの協業、ビーントリルでの実績など十分と言っていいほど成功を収めてきたマシューが、なぜ今になって自身のブランドを設立したのか。
それは彼にとって自身のブランドを持つことは、ファッションの業界に足を踏み入れた頃からの夢であり、自分のビジョンをブランドに反映させ、自分という人間のありのままを表現したかったからだと彼は語る。
そんなブランド『ALYX(アリクス)』を簡単に説明するために、マシューの言葉を借りよう。
〈ALYX(アリクス)〉とはどんなブランドですか?
〈アリクス〉は、ラグジュアリーとサブカルチャーの要素をミックスさせた、モダンクラシックなブランド。僕自身の美学を好んで“アグレッシブ・エレガンス”と表現しています。
(GIRL HOUYHNHNWより)
マシューが述べたように、ラグジュアリーとサブカルチャーを股にかける『ALYX(アリクス)』は、現在のファッションのメインストリームを捉え、今メンズブランドで最も勢いのあるブランドの1つだ。
幼少期を過ごしたカリフォルニアでのノスタルジックな思い出や、世界各地のサブカルチャー、音楽業界での様々なセレブとの経験を落とし込んだクリエイションは、カニエ・ウェストにトラヴィス・スコット、ベラ・ハディッドといった世界的なファッションアイコン、そしてトレンドに敏感な世界中のストリートキッズから圧倒的な支持を得る。

『ALYX(アリクス)』の代名詞とも言えるバックル。
彼が育ったカリフォルニアにあるテーマパークのジェットコースターで使用されるシートベルトのバックルを元に作られた。

『ALYX(アリクス)』のチェストバッグを身につけるカニエ・ウエスト

フロントを折り畳むと「FUCK YOU」という隠しメッセージが現れるだまし絵Tシャツ。子供の頃に祖母に買ってもらったSHORTY’S SKATEBOARDのTシャツのオマージュ。
『ALYX(アリクス)』の理念である「価値ある衣服のみを作り出す」
この理念の元作り出されるのは、彼にしか作ることのできない唯一無二のクリエイションだ。
そんなクリエイションが、2019春夏パリメンズファッションウィークにおいて、ブランド初となるショーという形で発表された。
そして、マシュー・ウィリアムスは、昔からの友人である『ルイ・ヴィトン』のヴァージル・アブローや『ディオール・オム』のキム・ジョーンズと共に、メンズファッションの歴史に新たな1ページを刻んだ。
世界が注目する若手デザイナー、マシューウィリアムスから今後も目が離せない。