今、ファッション界で「ストリート」が最もアツいことはファッションフォワードでなくてもわかる。それは服装だけにとどまらない。髪型はもちろん、音楽、そして食生活まで影響されている。

ストリートと一口に言っても多種多様であるので、今回はその中でも「ストリートアート」に焦点をおいて、その特徴を探ってみたいと思う。グラフィティに端を発したこの芸術は一体何を表現しているのか。

この1か月で話題を作った3人のアーティスト、KAWS (カウズ)、FUTURA 2000 (フューチュラ2000、以下フューチュラ)、そしてBanksy (バンクシー)を例に挙げてみる。

コミュニケーションツールとしてのストリートアート

6月23日、Dior Homme (ディオール・オム)のショー会場には両目が××になった巨大なキャラクターが設置されていた。カウズを代表するART TOYS (アート・トイズ)の一つ、BFFだ。

フランスの歴史を背負うブランドとSupreme (シュプリーム)のコラボを実現させたKim Jones (キム・ジョーンズ)の新コレクションであれば、カウズとのコラボも驚きではない。

今回のアート・トイズはMiss Diorを手に持ったムッシューディオールと、その愛犬ボビー。彼はそれだけでなく、ブランドを象徴する蜂の新デザインにも携わった。

今やいたるところで巨大なアート・トイズを見ることができる。絵画個展も開いている。しかし彼の「アート」の始まりはなんだったのであろうか。

「ギャラリーも美術館も行かなかったし、僕の育った環境ではコミュニケーションの方法として、それ(タギング)が自然だったんだ」(美術手帖より)

ニュージャージーで生まれた彼にとって、スプレーペイントやKAWSのタギングはあくまで仲間内のコミュニケーションツールだった。

カウズが当時、他のグラフィティとの差別化を図った際、彼は既製の広告にタギングした。広告=より多くの人の目を奪うことができる、自分と街ゆく人たちのコミュニケーションをとるために、広告を利用したのである。

出典: http://www.blog.stripart.com/art-urbain/kaws-street-artiste-new-yorkais/

また、抽象的グラフィティの父とも評されるフューチュラもまた、グラフィティと広告につながりを見出した一人だ。

“Quand j’allais à l’école, sur le chemin, je pensais à un nom, à une signature. en y réfléchissant, c’est comme une publicité pour soi-même.”

「通学中にずっとタギングする名前を考えてたんだ。で、考えながらそれってイコール広告みたいなもんだなって思った。」(Les Inrockより)

出典: http://www.blog.stripart.com/art-urbain/futura-2000-graffiti/ 

生まれた世代こそ全く違う二人だが、彼らに共通するのは純粋なストリートアートへの憧れ。違法であったとしてもそこに強い魅力を感じ、タギングやスプレーペイントから彼らのキャリアがスタートしたのである。

彼らが社会に送り続けたコミュニケーションはいつしか個人間のそれを大量に生み出した。カウズはA Bathing Ape (A・ベイシング・エイプ)やNIKE (ナイキ)、VOGUE (ヴォーグ)とコラボをしたし、フューチュラはThe Clash (ザ・クラッシュ)からColette (コレット)まで、無数のペインティングパフォーマンスを手がける。

そうして彼らは無意識のまま、「アーティスト」と呼ばれるようになっていった。

しかし、タギングをする少年からストリートアーティストになった今を見てみても、筆者はその作風に童心のようなものを垣間見ることができると思う。

カウズは、ものを創る際に意味を考えずただ没頭していると話していた。そんな一面に、少年が持つ純粋さを感じずにいられなかったからだ。

社会批判としてのストリートアート

ユースカルチャーでは、社会への不平不満が語られることが非常に多い。ペインティングがコミュニケーションツールであれば、バンクシーなどはまさに社会批判を発信する代表的な存在だろう。

素性に関していくつかの噂が飛び交っているものの完全にアノニマス的な存在を守っている、いかにもアングラな人物とも言えるだろう。

先月の末、彼の新たなミューラルが6点パリで発見された。その中の一つにはナチスのハーケンクロイツの上にピンクの模様を上書きしている少女があった。

出典: http://www.europe1.fr/culture/des-oeuvres-attribuees-a-banksy-decouvertes-a-paris-3692057 

外から見れば鮮やかなヨーロッパの華やかさと、その裏にうごめく移民問題や人種差別を、嫌と言うほど分かりやすく表現したのだろう。

“Des œuvres peintes au moment où Paris et Rome sont engagés dans un bras de fer autour des migrants et où les dirigeants de seize pays membres de l’Union européenne (UE) participent à un mini-sommet, improvisé et « informel » à Bruxelles pour évoquer des « solutions européennes » à la question migratoire.”

「今回の作品はパリとローマが移民政策に厳格な姿勢を示し、EU諸国が『移民問題解決』のサミットをブリュッセルで開くタイミングで描かれた。」(Le Mondeより)

犯罪行為とアートが紙一重になってしまうストリートアート。それぞれ表現する事象も素材も形も違うが、それらは確かに今ファッションに強く影響している。

最も直接的なものであれば、Virgil Abloh (ヴァージル・アブロー)がスニーカーのアウトソールにペンで書く文字はタギングから由来しているだろう。

韓国に設置され始めたカウズの巨大コンパニオンや、フューチュラによるFUTURA LABORATORIESの新コレクションを待ち遠しく思う気持ちもあれば、情報過多の現代においてすべてを知ることのできないバンクシーの不透明さにも惹かれてしまう。

ポップでもダークでも感情を揺さぶってくれるストリートアートから、心が離れない。