【新進デザイナー#11】LVMH2018特別賞に輝いたROKH(ロック)が描く“十代の味と不確実性”を持つ女性像

独自のコンセプトを武器に荒波のファッション業界に挑む、注目株のデザイナーのリアルな声をきく連載企画【新進デザイナー】。

第11回目は、2018年LVMHプライズで特別賞を受賞した、ROKH(ロック)。2016年のデビュー以来、高級レディースウェアブランドのROKHは、現在、世界中で45のショップや百貨店で取り扱いがあり、まだ歴史は浅いが着実に勢いを増し続けてきた。立ち上げたのは、韓国出身のRok Hwang(ロック・ファン)。

テキサス州オースティンで育ち、イギリスの名門校Central Saint Martin(セントラル・セント・マーチンズ)に入学し、メンズウェアで学士号を取得した。さらに、レディースウェアでも修士号を取得し、Alexander McQueen(アレキサンダー・マックイーン)とChristopher Kane(クリストファー・ケイン)らが慕っていた教授Louise Willson(ルイーズ・ウィルソン)の下で習得した。

卒業後はCeline(セリーヌ)でデザイナーとして経験を積み、フリーランスのデザイナーを経て2016年春ROKHをスタートすることに。都会的で遊びココロが効いた日常着は、非常に綿密に細く計算されて構築されている。

「すべてのステップを一歩一歩正確に行いたいと思っています。時代を超越した楽器を作るようなイメージ」と語るように、コレクションも緻密に構成されているのがわかる。取材に対しても謙虚さを失わず、正しい言葉を選びながら丁寧に答え、彼の人柄が現れているようだった。

LVM2018特別賞受賞の喜びから、Celineでの経験、そして今後のヴィジョンについて語ってもらった。

Q:まずは特別賞受賞、おめでとうございます!名前を呼ばれた時の率直な感想は?

まさか!という驚きがきて、まずは実感が湧きませんでした。いろんな方にお祝いの言葉をいただき、徐々に喜びをかみしめられるようになりました。業界の驚くべき人々に会い、コレクションを紹介するすばらしい機会を得られたことに大変感謝しています。

Q:ROKHは非常にバランスの良い服だと評価されていましたよね。まるで若いティーンエイジャーが、シックな母親のクローゼットをはぎ取って、自分の好みに合うように再構築したように見えます。壊れやすさと強さの完璧なバランスをとり、ノスタルジアを抱きながら未来を見つめている。デザイナー自身が描く“ROKHウーマン”はどんな女性ですか?

ありがとうございます。ROKHウーマンは壊れやすく、疑問を抱き、知的で、自信を持っているが、若者独特の不確実性に悩まされている。脆弱で美しい、世界で彼女の場所を見つけようとしていて、まだ幸せに気づいていないような女性。

そんな女性像を描き、彼女のすべての動きを予期し、衣服がどのように破損するかを考えたのです。その結果、すべてが縫い目で縫いつけられ、フレアが開いた状態で着用することができるねじれたズボンや、袖口を縛ることができる長い袖の誇張されたシルクのブラウスなど、着用することで形成され衣服となることを目指したのです。脱構築と適応性を探求し、多くの衣服が壊れて見えるようにデザインされています。そこには不器用さを感じられるはずです。

Q:ブランドのコンセプトを定義するとしたら、“不器用さ”?

あえて一貫したテーマを持っているわけではありません。“十代の味と不確実性”を捉えたいと思っています。誰にとってもノスタルジックで親しみを感じられるが、ひねりを加えることを忘れていません。

Q:女性性と男性性のコントラストがよりエレガントな要素を引き出しているようです。

確かに、性の曖昧さみたいなものは大事にしています。ですが、結果的には女性が着て自身をエレガントに、美しいと感じられる衣服に仕上げたいと思っていますね。革命を起こすよりも季節の変化とともに進化し、非常に適応性のある衣服を目指しています。

Q:あなたの個人的な十代の頃のノスタルジックな思い出とROKHの関連性を知りたいです。

韓国で生まれ育ちましたが、十代の頃はテキサス州オースティンで家族と一緒に暮らしていました。父はヒッピーのような人で、キャラバンが家だったのです。十代を振り返ると、いつもオースティンの最もロマンチックな思い出が蘇るんです。巨大な木々や春のプール、友人との付き合い、自転車に乗って川に飛ぶことなど、大都市での生活は経験できないようなことばかり。ファッションとも縁遠いような場所で、デザインへ深く関心落ち始めたのは少しあとのことでした。

Q:デザインやファッションに目覚めたきっかけは?

十代最後に家族でイングランドの町ノッティンガムへ移りました。そして音楽に魅了され、ロンドンへ行くことを決めました。デザインやファッションのこともよく知らず、Central Saint Martinがどういった学校なのかも分からぬままでしたが、Louise Wilson教授の記事に惹かれて彼女の下で学びたいと思い入学しました。ファッションやデザインについての彼女の見解を体験し、基礎を築くことができました。

Q:あなたはメンズウェアで学士号を取得した後、レディスウェアに関心を抱き修士号を取得しました。具体的に、学校でどんなことを学びましたか?

私はCentral Saint Martinで過ごした1秒ごとを気に入って、人々や周りのアーティストにインスピレーションを受けて自分自身を発展させることができました。メンズウェアからレディスウェアに移行するのは自然な進歩でした。私は仕事のやり方が非常に男性的であることを知っており、多くの仕立てを重ねてきました。

男性的な仕立てと非常に壊れやすい女性の衣服の作り方には“矛盾”があり、私を興奮させてくれます。レディスウェアを紳士服仕上げにするのが大好きなんです。そういう意味では、仕立てという技術的なことと、衣服が生み出すアティチュードや危うさの両方を学校で学んだと思います。

Q:卒業後、Phoebe Philo(フィービー・ファイロ)の下でCelineのデザイナーとして働いていました。その後もLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン)とChloe(クロエ)のフリーデザイナーとして経験を重ねています。そのような高い評価を得ている企業で働いた経験は、どのように生かされていますか?

私にとって、それらのスタジオで働き、彼らがどのように動くのかを見ることができたのは素晴らしい経験でした。プロセス、細部への配慮、仕上がりを理解するのに役立っています。私はそれが本当に“ラグジュアリーブランド”である所以だと感じ、真に贅沢な服をいかに本当に創るかについて学びましたね。

その経験は貴重なものです。私のデザイン哲学を理解するのを助け、視点を発展させ、衣服に近づくさまざまな方法を与えてくれる、良い旅だったと感じています。

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Q:自身のブランドを立ち上げたいと思ったのは何故ですか?

卒業をする頃から考えていました。ビジネスを始めるためにもう少し経験を積み、業界を知りたいと思ったために就職をしたのです。結果的には、自分のシステムを構築するために、働いた時間は貴重な時となりました。ROKHは非常にスムーズで、品質、生産、配送などの点ですべての納得のいく形で進めたいと思っていましたから。

私は先にしっかり計画したかったのです。自分のブランドを立ち上げるための完璧な時期は決してないと思います。それでも私が始めたのは、やりたいという強い意志だったのでしょう。

Q:ROKHは永遠性もコンセプトに持ち、長く着られる衣服を念頭に置いてデザインされています。制作プロセスで最も重要な部分は何ですか?

ファブリックは、衣服を着たときに最初に目にするものなので、とても重要です。人が常に最初に目にするものであり、切断や構築とは関係ありません。ROKHでは最高の生地のみを使用しています。私にとってファブリックの感触だけではありません、布を研究することから始まるのです。自分たちの織り方と独自の色を作成するだけでなく、完璧な布地を得るために膨大な時間と労力を費やしています。

その後、その季節にどのような構造のファブリックと相性が良いか、それがどのように機能するのかを見ていきます。

Q:ファブリックを含め、生産はイギリスですか?

イギリス生産を可能な限り努力していますが、成長するにつれて、イタリア、スペイン、ポルトガルの工場とも手を組むようなりました。シグネチャーでもある独自のハンドバッグはLoewe(ロエベ)と同じスペインの工場で生産されています。四つのコンパートメントとエンベロープパウチを備えた長方形のショルダーバッグは、きちんと入れたり取り出したりして別々に着用することもできます。季節がなくてもいいと思っていたので、<0000>の文字を刻みました。

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Q:これまでのコレクションはすべて関連性があり、ストーリーが繋がっています。これからもこの物語は続いていく?

自分のビジョンを描くために、自分の仕事を参考にすることが重要で、いつも新しい物語を作るために前のコレクションに戻っていくのが面白いと感じています。そのため外の情報や写真から離れて、自分の作品を参照しようとしてきました。旅先で訪れた蚤の市で見た、古着などもインスピレーションの源です。

そしてブランドの原点にある“ROKHウーマン”が私の心の中にいつもいて、その一人の女性を呼吸させるために、コレクション製作の際にはいつも彼女に立ち返るのです。彼女は今日誰になりたいか、何を着ているか、それをどのように着るか?という疑問を持ち、ワードローブを作成することを念頭に置き、彼女の感情に基づいて衣服を表現しようとしています。自分の芸術から自分の言語を作り、ブランドを理解してもらうには時間がかかるため、1シーズンごとにストーリーを紡いでいき、顧客と世界観を共有できれば嬉しいです。

Q:最後に、今後のヴィジョンを聞かせてください。

メッセージを顧客に強く伝える正しい瞬間を見つけたいと思っています。来年パリでのデビューショーを検討していますが、急いではいません。すべてのステップを一歩一歩正確に行いたいです。何よりも、私は顧客が幸せで、買い物をして永遠に衣服と愛し合ってもらいたいと願っているのです。

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