ここ数シーズン、既存店売り上げを急激に伸ばしているラグジュアリーブランド「GUCCI(グッチ)」。
SNSでも多くの、とくに若い世代のセレブやモデル、ファッショニスタがこぞって「GUCCI」を身に着けており、今アメリカのミレニアル世代や10代の間で最も人気のあるブランドといわれている。
なぜ「GUCCI」は若者に支持されるのか、その理由を探りたい。
売り上げ好調、最も検索されたファッションブランド1位に

グッチの親会社であるケリングは、今年4月に2018年第1四半期のグッチ既存店売り上げが48.7%増え、2017年第3四半期の49%、2017年第4四半期の43%に続いて売り上げは好調だ。
オンライン販売での売り上げも伸びており、2018年第1四半期のオンラインでの売り上げは、前の年に比べ3桁増を記録。ネットショッピングに慣れ親しんだ若い世代の消費者が、グッチの売り上げに大きく貢献した結果と言えるだろう。

クラシックな高級ブランドのイメージがあるグッチが、若い世代を中心に人気を得たのはここ最近のこと。特にアメリカのミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた人)や10代を中心に人気を集めている。
米コンサルティング会社のBain & Company(ベイン&カンパニー)が行った調査によれば、2017年の第1、第2、第3四半期のグッチの売り上げのうち、35歳以下の消費者が占める割合は半数以上の55%前後にのぼるという。
Google(グーグル)が年末に発表する過去12カ月の検索ランキング“2017年ファッションブランド部門”では、「CHANEL(シャネル)」や「Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)」、「Supreme(シュプリーム)」など名だたる人気ブランドを抑えグッチが1位となった。
他にも、俳優でありアーティストでもあるドナルド・グローヴァーことChildish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)が2018年5月に発表した、アメリカ社会の実像を痛烈に描きそのMVも多きな話題を呼んだ新曲「This Is America」の中で、アメリカの若者を指し「I’m on Gucci(俺はGUCCIを着てるんだ)」と歌ったことでも、今のアメリカで若い世代にリアルに着用されているブランドだという事がわかる。

90年代リバイバルファッションの波にのった「GUCCI」の勝因
2015年頃は、“究極のシンプル”であるノームコアファッションが世界的なトレンドであった。ミレニアル世代も10代の若者たちも、大きなブランドロゴが入ったファッションを拒否し、シンプルな無地のウェアや小物を好んでいた。
「Abercrombie&Fitch(アバクロンビー&フィッチ)」は有名な “A&F”ロゴ入りのスウェットシャツの販売をやめ、「coach(コーチ)」や「Michael Kors (マイケルコース)」も、ロゴ入りバッグの販売数を減らした。
ものが溢れている時代に生まれたミレニアル世代は、クールなブランドロゴよりも機能と実用性を選ぶと各メディアが報じていた。
2015年、「GUCCI」がデザイナーを交代

そんな2015年、グッチの新クリエイティブディレクターに就任したのがAlessandro Michele(アレッサンドロ・ミケーレ)だ。
アレッサンドロは様々な色やパターンを融合させ、90年代に「トムフォードGUCCI」と呼ばれ一世を風靡した、グラマラスでSEXYなスタイルを蘇らせた。
前任のFrida Giannini(フリーダ・ジャンニーニ)が打ち出してきたクラシックなスタイルとは真逆のスタイルで、アレッサンドロ率いる新生グッチを印象づけた。
ファッションのトレンドは繰り返す。―よく言われる事だが、2016年頃から、これまでのミニマルでノームコアなスタイルから一転、“色も質感も足せるだけ足す”“派手で豪華なスタイル”「マキシマリズム」が頭角を現しはじめた。
そのトレンドが決定的になったのが2017年。ミラノデザインウィークでは前年と打って変わって、80年代のポストモダンなデザインや色とりどりの華美なデザインがひしめいた。
この流れにのったグッチはブランドロゴを強調したアイテムを次々に打ち出し、若い世代を夢中にさせた。

現在、グッチのロゴ入りウェアを好んで着る若い世代には、かつての90年代のような「高級ブランドを着ている事を見せびらかす=ステータス自慢」というメンタリティーは存在しない。
それよりも、ロゴを主張する、ちょっと前(2015年頃)から見れば成金趣味でダサいアイテムを着こなすセンスやスタイルを押し出しているのだ。
アレッサンドロは、若い世代が好む“あえて”ちょっとダサいデザインをよく理解している。グッチのブランドロゴをこれでもかと主張し、ちょっとフェイクっぽささえ感じるバブリーなデザインを採用したTシャツは、夏の大ヒットアイテムになった。

歴史あるブランドであればあるほど、これまでのイメージを変更するのは容易な事ではない。ブランドイメージを大事にしすぎるあまり、いつしか顧客との間に温度差が生まれてしまう事もある。
そんな中、グッチはこれまでとはまったく異なる世界観を恐れる事なく打ち出し、顧客のニーズを無視する事なく、トレンドに寄り添った商品を手掛けてきた。そんな、変化を恐れないブランドの姿勢に、若い世代は共感するのだろう。
アメリカおよび世界中の若い世代から熱い視線を集めるグッチから、今後も目が離せない。