先日、このようなニュースが舞い込んできた。
Starbucks (スターバックス)、藤原ヒロシ率いるfragment design (フラグメントデザイン、以下フラグメント)と米発STANLEY (スタンレー)とコラボでステンレスボトル発売
藤原ヒロシといえば、日本のファッション業界の中でも、数少ない世界的に影響力を持つ人物の一人。10代の頃からDJとして活動を開始して以来、音楽、ファッションを中心としたクリエイションを展開し、90年代の「裏原ブーム」を牽引した、ストリートカルチャーのパイオニアとして知られる。
そんな藤原氏が率いるデザインプロジェクト「フラグメント」が、ご存知スターバックスとコラボ商品を展開するというニュースである。
過去にもフラグメントは、ジャンルを問わずあらゆるブランド・企業とコラボレーションを行っており、どれも大きな話題を呼んでいる。
- LOUIS VUITTON (ルイ・ヴィトン)
- MONCLER (モンクレール)
- スターバックス
- OFF WHITE c/o VIRGIL ABLOH (オフ・ホワイトc/oヴァージル・アブロー)
- NIKE (ナイキ)
- STUSSY (ステューシー)
- TOGA (トーガ)
- sacai (サカイ)
- WHITE MOUNTAINEERING (ホワイト・マウンテニアリング)
- N. HOOLYWOOD (エヌ・ハリウッド)
ざっと思いつくだけでもこれだけある。いずれも言わずと知れた世界的なブランドだ。
なぜ、藤原氏はこれだけのブランドとコラボすることができるのであろうか。また、なぜブランドは彼を選ぶのだろうか。その理由を探ってみた。
藤原の語る「attitude=空気感」とは
先日、Business of Fashion (ビジネス・オブ・ファッション)でのインタビューで藤原氏は、こう語った。
“People think that streetwear is sneaker culture, but I think it’s more than that — it’s about the attitude you have”
「ストリートウェア=スニーカーだと認識されています。そうではなく、ストリートウェアっていうのはattitudeの話なんです」(Business of Fashionより)
この「attitude」という曖昧なことばは、彼の制作における重要な要素としてたびたび語られる。日本語のインタビューで本人がよく使う単語では「空気感」が近いだろう。
それと同時に彼がそのプロダクションを語る際に必ず説明するのは、自身の能動的な制作意欲である。そのプロダクションがどんな経緯で実現に至ったか、それを実施することにどのような意味合いを抱いているのか。はたまた、「やりたい」と感じた、シンプルで大切な感情も含んでいる。
そんな彼の意欲は基本的に一貫しているように思える。「モノ」それだけでなく、その背景や知識を踏まえ、そのライフスタイルに身を投じることが彼の「attitude=空気感」なのである。
今日、どれだけの消費者がファッションとライフスタイルを結びつけているかわからない。少なくとも、藤原氏が青春を謳歌した30年前よりはずっと少ないだろう。麻薬のように脳内をかき乱す音楽と、ブッ飛んだ考え。たとえ着る服がチープでも、ライフスタイルとマッチしていればカッコよかった時代である。
世界中が、覚えているようで遠い昔に捨ててきたこのファッション観を、彼はしっかりと今発信しているように思える。
2016年、2017年とコラボしているルイ・ヴィトンのKim Jones (キム・ジョーンズ)は次のように話す。
“The fact that he crosses fashion, music and culture — and continues to be interested in the new as well as the timeless — allows him to remain as important as he is”
「(藤原は)タイムレスなもの同様、新しいものに目を光らせ続けているんだ。それだけじゃなくて、ファッション、音楽、そしてその他カルチャーをクロスさせている。それが彼を現代のキーパーソンたらしめている」(Business of Fashionより)

藤原氏が今世界から求められるのは、このリアルなカルチャーの表現だろう。「音楽」というフィルターを通して見るファッションには必ずリアリティがある。ここにこそ、彼の言う「attitude=空気感」が存在する。
コラボは「人対人」で成り立つ
藤原氏が築いてきた人脈は並大抵のものではない。18歳の時、Malcolm McLaren (マルコム・マクラーレン)との出会いから始まり、そこからは、来日をきっかけに服を送ってもらうほどの仲になったShawn Stussy (ショーン・ステューシー)。
パリの街で偶然出会い、コラボに発展したA-COLD-WALL (ア・コールド・ウォール)のSamuel Ross (サミュエル・ロス)。
国内外問わず、かき集めればキリがないほどいることだろう。同じくビジネス・オブ・ファッションでのインタビューで藤原氏は、自身のコラボに対する考えを語った。
“I have to see the person that’s controlling the partnership and then I can see if the brand is easy to work with and has the same attitude and tempo”
「コラボレーションは人対人でやるものなんです。まずグループを指揮する人に触れる、その後で会社として一緒に働けるか、自分と同じ空気感なのかがわかるんです」(Business of Fashionより)
また、フラグメントのパートナーも2人だけと言う。これも一つの「attitude=空気感」と呼ぶべきかもしれない。藤原氏のクリエイション、コラボレーションは企業間ではなく個人間なのである。
現代の広がりすぎたマーケットでこの考えは少し土臭いものかもしれない。それでもその「attitude=空気感」が人を惹きつけて、バズを引き起こしているのである。
インターネットが広がるその前から音楽やファッションをひっくるめた藤原氏のカルチャー観と、人対人のコミュニケーションは、世界の人々を虜にしてやまない。
ハイファッション、スケーターブランド、ストリートブランド。ボトルブランドにカフェブランド、そしてチョコレートブランド。藤原氏のコラボレーションには垣根という概念がない。
あるとすれば、「自分がやりたいかやりたくないか」という思いだけである。
6月26日には7 Moncler Fragment Hiroshi Fujiwara (7モンクレール・フラグメント・ヒロシ・フジワラ)がベールを脱ぐこととなる。これから彼がどのような道をファッションフォワードたちに示していくのか、目を離さず見ていたいと思う。
