コペンハーゲンを拠点とする34歳のアメリカ人ストリートフォトグラファー、Adam Katz Sinding(アダム・カッツ・シンディング、以下アダム)。
1年のうちわずか30日ほどしかコペンハーゲンの自宅に戻らず、パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークをはじめとする世界各地のファッションウィークに参加し、ファッションの最前線を撮影、発信し続けている。
そんなアダムのクライアントには『Louis Vuitton』、『Christian Dior』といったブランドから、『VOGUE』、『W Magazine』、『Harper’s Bazaar』といったメディアまで錚々たる名前が並ぶ。
今年2月には自身初となるファッションブックをリリースし、2018-19年秋冬シーズンのファッションウィークと連動した世界各地でのローンチイベントも行うなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気ストリート・フォトグラファーだ。
今回はファッション業界から絶大な支持を受けるアダム・カッツ・シンディングにスポットライトを当てる。
父から受け継いだカメラ
1983年、アダムはサンフランシスコで生まれ、ワシントン州のタコマ、シアトルで育った。
そんな彼が初めてカメラに触れたのは、11歳の時。亡くなった父が使用していたニコンのカメラを譲り受けたのだった。
それから父のカメラを持ってモノクロ写真の教室に通い出したことが、彼のフォトグラファーとしてのルーツである。

その後、パリで半年間の生活を過ごし、パリの人々のスタイルから多大な影響を受けたことが、ファッションを撮影するストリート・フォトグラファーを始めるきっかけとなる。
2007年、シアトルに戻ると、趣味としてストリートで写真を撮り始め、自身のウェブサイト『Le21eme』を設立する。
ただ、当時彼の審美眼にかなうスタイルはシアトルにはほとんど見られず、良い時で1ヶ月で5人ほどしか撮影出来なかったという。
ニューヨークに拠点を移し、本格的に活動を始めたことで、彼のストリートフォトグラファーとしてのキャリアがスタートする。
アダムの代名詞 『Le21eme』
ファッションに興味がある方ならこのワードを知っている方もいるだろう。
アダムは本名よりもむしろ彼のウェブサイト名である『Le21eme』で幅広く認知されているほどだ。
このウェブサイトでは、アダムが撮影した最新のファッションウィークの写真はもちろんのこと、2011年から蓄積された膨大なアーカイブが記録されている。
ストリートにおけるファッションの変遷だけでなく、彼の写真の変遷も楽しむことが出来る。
ちなみにこの『Le21eme』はフランス語で、21番目を意味する。パリには20もの行政区があり、それに次ぐ21番目という意味と、今我々が生きている21世紀を掛け合わせた、パリに大きく影響を受けた彼らしいネーミングである。
フォトジャーナリストとしてリアルを写す
アダムがこれほどまでに世界的に認知され、有名ブランド・メディアが彼の写真を求める背景には、彼独自の確立されたスタイルが存在するからだ。
フォトジャーナリストとして撮影しているのだと語る彼の写真は、ストリートというリアルな場で起きていることをありのまま私たちに教えてくれる。
ファッションウィークでの空気感、その場にいる人がどのように見えているのか。
あまりにも当たり前のようだが、アダムが作り出すのはそんなリアルなコンテンツなのである。

彼のウェブサイトを見ても、被写体がポーズを決め、表情を作っているような写真は存在しない。
そういった写真は彼にとってリアルなものではないからだ。
ふとした時の自然な表情、動くことで刻々と変わる洋服のシルエット。
そうしたリアルなものをあるがままに収めた写真は、私たちをまるでその場にいるかのような錯覚に陥れるのである。
アダムは自身のファッションブックのリリースに際して、ヴァージル・アブローと対談を行っており、その中でこのように述べている。
”I want people to look at this book in 50 years and see what Virgil and all these other great people did in 2018.”
「この本を50年後も見てもらいたい。そうすれば2018年にヴァージルやその他の偉大なデザイナーが何をしていたかが分かるから。」 (MENDOより)
現在ファッション業界で絶大な影響力を持つヴァージル・アブローも、アダムを支持する1人であり、彼の写真に関して言及している。
”Your photography allows me to see what’s going on around me. ”
「アダムの写真はファッション業界で起こっていることを理解させてくれる。」
(MENDOより)

確固とした独自のスタイルを築き上げ、ストリートフォトグラファーとして最前線で活躍し続けるアダム・カッツ・シンディング。
彼の写真はファッションのリアルな『今』を記録する。
そして、その『今』が蓄積された彼のウェブサイト『Le21eme』は、まるでファッションにおける歴史の教科書のようだ。