新生LOUIS VUITTON (ルイ・ヴィトン)の歴史的なショーの翌日、パリでは世代も職業もバラバラな3人が対談を行った。テーマは「エア・ジョーダン」。まずは彼らが誰か、ほんの軽く触れてみたい。

・Don C (ドンC)、70年代後半に生まれる。Kanye West (カニエ・ウエスト)のマネージャーを経て、現在はジョーダンブランドとのコラボレーションJUST DON ITを行っている。

・Russell Westbrook (ラッセル・ウェストブルック)、現在30歳のNBA選手。昨シーズンは、史上2人目となるシーズン平均トリプルダブルを記録しシーズンMVPを獲得。ジョーダンブランドでは自身のラインWHY NOT?を発表している。

・Billie Eilish (ビリー・アイリッシュ)、2001年生まれ。Selena Gomez (セレーナ・ゴメス)製作総指揮のNetflixオリジナルドラマ“13 reasons Why” のサウンドトラックに曲を提供する。ジョーダンブランドの新コレクションではレディース仕様のAJ3を発表。

ジョーダンブランド2018 FWのローンチにそれぞれプロジェクトを担当する彼らが抱くエア・ジョーダン像とは何か。

ジョーダンカルチャー、根付く前と後

Michael Jordan (マイケル・ジョーダン)のラストダンスが1998年。アイリッシュはそれよりも後に生まれている。

彼女がエア・ジョーダンに魅了されたのは2014年にRiff RAFF (リフ・ラフ)がリリースした“TiP TOE WiNG iN MY JAWWDiNZ”。この曲を聴いて赤いジョーダン4を買いに行ったのが始まりだと話す。

歌詞内容は極めて単純で、「俺がジョーダンを履いてなかったらお前らはつまんなそうにするだろ、心配しなくていい、俺はジョーダンを履いてる!」というものだ。曲の良し悪しは別にして、エア・ジョーダンがもたらす社会的・文化的な影響力がわかる。

“Je suis née en 2001 et pourtant tous les gens que je côtoie portent des Jordan. C’est à ce point ancré et naturel.”

「2001年に生まれたの。私が接してきた人はみんなジョーダンを履いてた。根付いてたし、それが普通だった。」(HYPEBEASTより)

 

出典: https://air.jordan.com/card/billie-eilish-in-paris/

彼女とは反対に、ドンCはジョーダンがNBAにドラフトされた頃には物心つく年齢だっただろう。「マイケル・ジョーダンを知ってるか?」90年代、シカゴ出身であることを伝えれば必ず人に聞かれた質問がこれだと言う。

“Air Jordan pour moi c’est le reflet de mes plus beaux souvenirs en tant qu’enfant. (…) Michael Jordan c’était le joueur le plus stylé sur le court mais aussi en dehors. C’est lui le trend-setter de la culture sneakers. Cette culture de la mode en NBA ça existe grâce à lui.”

「俺にとって、エア・ジョーダンは子供の頃の思い出を反映するものだ。マイケル・ジョーダンはコート内外でかっこよくて、存在感を放ってた。スニーカーカルチャーの立役者だと思う。彼のおかげでNBAのファッションてのは存在してるんじゃないかな。」(HYPEBEASTより)

アイリッシュとドンC、二人の間で最も違うのは、エア・ジョーダンを好きになった理由だ。マイケル・ジョーダンのプレイを見ていたか、そうでないかの違いでもあるだろう。

ドンCがジョーダン本人から影響を受けているのに対し、アイリッシュは音楽からだ。実際今回の対談で彼女が「マイケル・ジョーダン」の名を口にした文章は一つも見ていない。それでも彼女の「エア・ジョーダン」愛は飛び抜けている。彼女は歴史やカルチャーではなく、そのファッション性に惹かれている。

エア・ジョーダンに見る『レトロ』

またドンCは、ジョーダンブランドとの最新のコラボについてこう話した。

“Je voulais apporter un petit twist à ce modèle rétro parce que pour beaucoup de jeunes les modèles rétro n’ont pas la même résonance que pour nous. (…) alors j’essaie de faire des choses que la marque n’a pas encore faites par le passé. Il faut garder l’héritage des OG parce que c’est le ciment de Jordan et aussi accueillir cette nouvelle génération.”

「今回のレトロなモデルにちょっとしたトリックを加えたかったんだ。今の若い子たちと俺たちでは『レトロ』のニュアンスが違うから。だから今までブランドがしなかったことを試した。OG(オリジナルの復刻など)のDNAを踏襲しつつ、新たな世代を受け入れなきゃならない。」(HYPEBEASTより)

出典: https://air.jordan.com/card/don-c-in-paris/

ちなみに彼が加えた「ちょっとしたトリック」はNIKEロゴ入りのストラップ。
これはジョーダンがAJ2と3の間に履いていたNike Air Alpha Lowからのものである。

AJ1のアッパーにAJ3のアウトソールを付け、そこに加えるトリックをエア・ジョーダン以外から引き出せる彼のジョーダン熱は計り知れない。

今ファッションには可視的なカルチャーが求められる。ドンCは、そのカルチャーに直接触れることから得られる目に見えないものを持っているだろう。

また、今回の対談でほとんど話さなかったウエストブルック(笑っていただけで申し訳なかったと本人がコメントするほど)がジョーダンブランド2018FWで発表したWHY NOT?の新たなコレクションは、地元ロサンゼルスと90年代のNBAからインスパイアされたものだ。

つまり今回の彼のコレクションはNBAのレトロ。ジョーダンやMagic Johnson (マジック・ジョンソン)がプレイした92年のオールスタージャージーを思わせるTシャツも発表した。

“Quand j’étais enfant j’ai toujours rêvé de jouer avec des Jordan. Et quand je vois Michael Jordan je le vois comme celui qui a ouvert la voie à la culture sneakers”

「俺が子供だった時、エア・ジョーダンを履いてプレイするのが夢だった。マイケル・ジョーダンを見た時は、スニーカーカルチャーを開いた人だって思った。」(HYPEBEASTより)

 

出典: https://www.slamonline.com/kicks/jordan-brand-takes-paris-fashion-week/

ウエストブルックは幼少期『レトロ』を見て育った。今、ジョーダン同様にコート内外で影響を持つ彼がクリエイトする新たなジョーダンブランドは彼に夢を見せた思い出によるものだ。

エア・ジョーダンは流行りに左右されにくいアイテムだろう。しかし近年のレトロブームが、エア・ジョーダンの人気を加速させていないとは言えない。不朽の存在だからこそ今の異常とも言えるブームがあるだろう。

OFF WHITE c/o VIRGIL ABLOH (オフ・ホワイトc/o ヴァージル・アブロー)とのコラボのAJ1。TRAVIS SCOTT (トラヴィス・スコット)とのコラボのAJ4にLevi’sとのコラボのAJ4。ジョーダンがラストダンスを舞ったAJ14 OG。最近リリースされたものでもこれだけある。

2018FW、各世代が創るそれぞれのジョーダンは多様な視点で我々を楽しませてくれることだろう。